クレーム対応術

関根健夫

クレーム対応術 2 言葉にかける信念を貫く

キャリア

2019.03.21

今さら聞けないクレーム対応術 2 『「お客さま」「ありがとうございます」と言ったら、叱られました……』

『ガバナンス』2014年5月号

悩む男性

結構気になる言葉づかい

 日常の生活では、たった一言の言葉づかいから、その場の人間関係、コミュニケーションのあり方が変わってしまうことがあるものだ。このことは、クレーム対応に限ったことではない。

 それはなぜか。人は言葉を使って物事を考え、自分の意思を表現する。反対に、言葉を使わなければ考えることも、自分を表現することもできない。すなわち、言葉は〝その人そのもの〟ということができる。お互いにそれを知っているからこそ、言葉づかいが気になるのだろう。

 適切な言葉づかいは、場面や話す相手によって変わる。庶民的な会話を好む人たち同士が、たわいない会話をする場面で、堅苦しい敬語でばかり話していては、周囲の人は気が詰まるばかりである。反対に、相手方に迷惑をかけているような状況で、こちらが説明責任を負っているような場面では、それなりの言葉を選ばなければ、相手方にさらに不快感を与えることになるだろう。

 こうした傾向は、知識や学歴の問題ではない。むしろ、周囲への心配りがあるかないかだ。少しばかり偏向した自尊心を持っていることなどから、相手方に不快感を与えてしまうことも少なくない。

言葉は万能ではない

 本誌読者の皆さんは、クレーム対応でお客さまに対してため口を叩くとか、攻撃的な言葉をあえて使うといったことはないと思われる。しかし、こちらは誠心誠意をもって言葉を選んで、常識的な敬語、丁寧な言葉づかいをしているにもかかわらず、お客さまを不快にさせてしまうことがある。

    • ・窓口で「お客さま」と呼びかけたところ、「役所に来る人は『お客さま』ではない」などとクレームを受けた。
    • ・「『お客さま』と呼ぶのは失礼だ」とクレームを受けたので、「○○さま」と呼んだら「名前を呼ぶな」と叱られた。
    • ・帰りがけに「ありがとうございます」と声をかけたら、「こちらは来たくて来たのではない」と皮肉を言われた。
    • ・「少々おまちください」と言ったら、「俺に命令する気か」と怒られた。

 

 以上は、筆者が自治体職員の方々から受けた相談の一部である。言葉が相手に何をイメージさせるかは、相手の問題でもある。したがって、これらの事例からいえることは、言葉は万能ではないということだ。

言葉は記号である

 言葉は、二つのことを表す記号である。第一に、どういう気持ちでその言葉を発したかの感情。第二に、意味、内容である。

 人を呼ぶときに「○○さま」「お客さま」と呼びかけても、「おい」「お前」と呼んでも、相手を呼んでいるという意味は通じる。しかし、前者は尊敬の念を感じるが、後者はそれを感じない人が多いだろう。役所の窓口では、常識的に後者は使わない。しかし前述のとおり、友人同士での会話など、状況によっては後者を使うこともある。

 そうなると、言葉の選択は、基本的に広いことに優位性があると言わざるを得ない。言葉が記号であり万能ではない以上、例えば、こちらが「○○さん」と呼んで相手に叱られたら、「不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。この後は『お客さま』と呼ばせていただきます」などと言い直せばよい。

 例えば、お詫びや謝罪の言葉でも、単に「申し訳ございません」を繰り返すのではなく、「ごめんなさい」「失礼しました」「ご迷惑をおかけしました」「ご心配をおかけしました」「お手数をおかけしました」「只々、恥じ入るばかりでございます」「何と申し上げてよいか、返す言葉もございません」「心より、お詫び申し上げます」など、いろいろある。

言葉にかける信念を貫く

信念を持つ

 言葉は言霊などといわれる。その言葉にどのような思い、信念を込めたかが大切だ。

 「お客さま」と呼んで叱られたら「私が『お客さま』と申しましたのは、市民の方を大切に思っている気持ちを表したかったからです。商売上の売り買いを意図したとか、媚びを売ったつもりは決してありません。不快な思いをさせたとしたら謝ります。申し訳ございません」などと、プライドを持つことだ。しかし、これを声に出すかどうかは状況によるだろう。

 「ありがとうございます」なども同様だ。どういう気持ちで「ありがとうございます」と言ったのか、信念を持っていれば、そこでクレームを言われてもこちらのストレスの何割かは流せる。

 そういう意味で、よほどでない限り、こんな言葉はダメだ、あるいはこれは正しいといった正解はない。あえて言うなら、漢字の熟語は要注意である。なるべく平易な表現に置き換えるとよい。

 お客さまの言い分に対して「確認します」と応えると、相手方がウソを言っているかのように受け取られることがある。事務的に聞こえ、あまりいい感じを与えない。「そのようなことがあったことを、書類で確かめてまいります」などと、少し言葉を変えると印象が変わる。確認という言葉を使った本来の意味を伝えることができる。

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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