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人的資本経営の推進に向けた好事例と自治体に求められる役割|政策トレンドをよむ 第35回

地方自治

2026.03.05

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    【政策トレンドをよむ 第35回】
    人的資本経営の推進に向けた好事例と自治体に求められる役割

    EY新日本有限責任監査法人FAAS事業部
    鈴木 仁美

    ※2026年1月時点の内容です。

     人的資本経営については、「人材版伊藤レポート」と、2022年の「人的資本可視化指針」によって、企業が開示すべき人的資本の観点や指標例(女性管理職比率、教育投資、離職率など)が整理・明確化された。国の指針が整備され、人的資本経営の考え方が重要となった今、人材をどう育て、どう活かすかは、都市部の上場企業だけでなく地方の中堅・中小企業も向き合わなくてはならない点である。地方では人口減少と若年層の都市部流出により「働き手の母数」が縮小している。地方から東京圏への転出超過数は2023年度に11.5万人となり、特に20~24歳層の転出超過が、少子化の中でも増加傾向である(1)。ここから地方における人材の確保がより厳しい環境になってきていることがわかる。この環境下では、限られた人材を「資本」として育成し、組織全体の生産性と付加価値を高めることが重要となり、人的資本経営の考え方を経営戦略に取り入れることが、地方企業の持続可能性を左右する1つの観点となってくる。

    〔注〕
    (1)内閣官房「地域働き方・職場改革等の推進HP」
    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikihatarakikata/contents/20250425/11_sankou03.pdf

     では、地方企業だけに人的資本経営の導入を任せていいのだろうか。地方企業の多くは中小企業であり、人的資本経営の導入に向けた初期投資や仕組みづくりにおいて資金と人材が不足している状態で、上場企業と比較しハードルが高くなる。そこで、人的資本経営の導入は一企業の取り組みではなく、地域全体の取り組みとしていく必要がある。地域全体で人的資本経営を導入する企業が増えることで、雇用の安定、所得の地域内循環、若者流出の抑制、地域経済の底上げという地域全体の活性化にも繋がる。自治体による、地方企業と連携した、地域活性化に向けた支援として人的資本経営の導入の推進には大きな価値があると考える。

     ここでは、自治体の取り組みの好例を紹介したい。広島県は、県を挙げて「人的資本経営促進事業(2)」を立ち上げ、中小企業を含む地方企業への導入支援を本格化している。人的資本を経営戦略の中心に据える動きを政策として整備し、県内企業に対し、①普及と機運醸成(人的資本経営に関する「情報発信ポータルサイト」の運営等)、②導入支援(県が整備した「人的資本開示ツール」を使った開示レポートの作成支援等)、③社内環境整備の支援(人的資本経営の実践に向けた改善の取り組みに対する支援等)を行っている。特に注目される点は、第一に人的資本経営を進める重要な要素として『開示』を位置付けており、人的資本開示ツールを整備したことで企業側の「何から手を付けていいか分からない」「開示・分析するうえでデータ化や数値化が大変」という障壁を低くしている。第二に、広島県人的資本経営研究会(2025年時点で会員企業174社)を設置し、人的資本経営の導入企業・検討企業を対象に企業がノウハウや課題、成功事例を共有することで、情報を横展開する仕組みをつくっている。人的資本の見える化・開示を行政が支援し、地域企業同士でノウハウを共有することによって、人的資本経営の導入が促進された。広島県の事例は、人的資本経営を県ぐるみで普及させるための包括的かつ実務的な支援として先進的である。

    〔注〕
    (2)広島県(令和7年5月)「広島県人的資本経営促進事業について」
    https://hcm-consortium.go.jp/pdf/topic/term3_hiroshima_document-2.pdf

     次に、宮城県仙台市では、「地域中核企業」を市内から多数輩出することを目指し、「地域中核企業輩出支援パッケージ(3)」をつくり、「経営支援」「人材確保・育成・定着支援」「情報発信・認知度向上」など、複数の施策を提供している。特に人的資本経営の観点から重要な施策として、①人材確保・育成・定着支援(若手人材確保等による組織文化変革促進等)、②新事業展開・課題解決支援(外部専門家を活用した経営課題解決支援等)、③認知度向上・情報発信支援(市が運営するWebメディア「SENDAI CORE COMPANY」を通じた成功事例の発信等)を行っている。仙台市の支援パッケージは、必ずしも人的資本経営を直接目的とした制度ではないものの、上記のように人的資本経営の観点からも有用性の高い要素を多数含んでおり、地域企業の人材力向上や成長環境づくりに資する施策として評価できる。

    〔注〕
    (3)宮城県仙台市「令和7年度仙台市地域中核企業輩出支援パッケージHP」
    https://www.city.sendai.jp/chiikikeizaisaisei/chukaku/package_r6.html

     ここで紹介した事例は、自治体と企業の2者だけで進むものではなく、地方金融機関や外部専門家を巻き込み、地域全体で推進する包摂的な取り組みである。人口減少と人材流出が進む地方では、単独の主体だけでは人的資本経営を定着させることは難しい。だからこそ自治体は、企業、金融、教育機関、専門家など多様なプレイヤーを結び付け、知見と資源を最大限に活かす「地域一丸の成長戦略」を施策に反映していく必要がある。働き手の減少による地方経済の衰退が目にみえてきている今だからこそ、人的資本経営の推進に向けた自治体の役割はこれまで以上に重要性を増している。

     

    #7:地域や組織の持続的な発展を実現する人的資本経営の推進支援
    https://www.ey.com/ja_jp/industries/government-public-sector/human-capital-management

    #8:地域の人材確保・育成に向けた戦略策定・実行支援
    https://www.ey.com/ja_jp/industries/government-public-sector/secure-and-develop-regional-human-resources

     

     

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