
政策課題への一考察
関係人口施策の制度運用の高度化─政策の実効性を支えるブロックチェーン技術基盤の有効性と持続性(下)|政策課題への一考察 第118回
NEW地方自治
2026.03.06
目次
- 1 はじめに(後編)
- 2 業務プロセスの自動化による効率化
- (1)関係人口施策における主な行政運用課題
- (2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
- 3 書類の真正性の担保と改ざん防止
- (1)関係人口施策における主な行政運用課題
- (2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
- 4 透明性・説明責任の確保と職員の運用負荷軽減
- (1)関係人口施策における主な行政運用課題
- (2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
- 5 複数主体間の連携強化
- (1)関係人口施策における主な行政運用課題
- (2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
- 6 自治体間プラットフォームによる費用・運用負担の共有
- (1)関係人口施策における主な行政運用課題
- (2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
- 7 まとめ
出典書籍:『月刊 地方財務』2026年2月号
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【政策課題への一考察 第118回】
関係人口施策の制度運用の高度化
─政策の実効性を支えるブロックチェーン技術基盤の有効性と持続性(下)
株式会社日本政策総研副主任研究員
栗原 章
※2026年1月時点の内容です。
1 はじめに(後編)
日本国内では人口減少・超少子高齢化による地域の担い手不足が深刻化している自治体がある。その上で、関係人口施策により地域経済の活性化や社会課題の解決、災害時の互助力強化など多面的な効果を期待できる。
しかし、関係人口施策の運用にあたり、現行制度や自治体の運用体制にはさまざまな問題が存在する。例として、自治体内で手続きが複数部署にまたがること、自治体ごとの運用手法のばらつき、証明書類の原本性保証や記録改ざんリスク、主体間(自治体・企業・住民)の情報連携不足、職員の業務負荷増大などが挙げられる。
したがって、問題解決に向けて関係人口施策の制度運用を高度化する方策を検討する意義は極めて大きい。とりわけブロックチェーン技術は記録の改ざん耐性や分散管理といった特性により行政手続きの効率化と信頼性の向上を両立する可能性を秘めており、国内外で公共分野への実装事例がある。
図表 関係人口施策におけるブロックチェーン技術活用に係る想定課題および概念図

前編(1月号)では関係人口施策の政策的背景、現行施策上の課題および自治体におけるデジタル基盤整備の最新動向を整理し、関係人口施策にブロックチェーン技術を活用する上での論点を提示した。本編(後編)では、これらの課題を踏まえ、ブロックチェーン等の先端技術を用いた制度運用の在り方や具体的な実装手法、現行法制度との整合性、さらに海外の先進事例を検討し、将来的な政策の展望を考察する。図表(前頁参照)に示すとおり、業務プロセスの自動化による効率化、書類の真正性の担保と改ざん防止、透明性・説明責任の確保と職員の運用負荷軽減、複数主体間の連携強化、自治体間プラットフォームによる費用・運用負担の共有といった主要課題に対し、技術的・制度的両面から具体策を検討し、既存事例の限界も踏まえて望ましい制度設計と運用体制を模索する。
以下、先に挙げた主要課題について(1)関係人口施策における主な行政運用課題、(2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用の順に整理していく。
2 業務プロセスの自動化による効率化
(1)関係人口施策における主な行政運用課題
関係人口施策の運用では、参加者の活動履歴や補助金申請処理など、複数部署にまたがる事務作業が発生し、以下の課題が想定される。
① 自治体職員の業務負担が増加し、制度全体の運用にもばらつきが生じる。例えば、参加者の活動履歴を複数のファイルで管理する場合や共通アプリ上で管理する場合は、データ管理方法の統一などの課題が生じ得る。
② 承認・決裁に時間がかかる。複数部署での確認が必要な場合、人手による調整が迅速な住民サービスを妨げる。
③ 業務手順が標準化されず、個人のノウハウに依存する場合、人事異動で知見が継承されず、制度運用の一貫性が損なわれる。
(2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
行政手続き等における既存のブロックチェーンの導入実績をみると、例えば、国際貿易の分野では複雑なプロセスを自動化し、複数主体間の情報連携を即時化することで効率性を確保した事例がある。具体的には、原産地証明書(輸出入品の国籍を証明する書類)を電子発行し、ブロックチェーンで即時検証し真正性を担保する仕組みにならい、関係人口が地域のイベントに参加し地域貢献した事実を電子証明として記録し、条件に応じたポイント付与や証明書発行をスマートコントラクトで自動化することで、属人的な確認作業を排除できる。
事例として、国際的な物流企業であるマークス社とIBMが共同開発したTradeLens(2022年11月に商業的課題によりサービス終了が発表され、2023年3月末までにプラットフォーム運用を停止)のような共通台帳プラットフォーム上で通関情報を複数国で即時共有した実績がある。同様に、関係人口の活動履歴や支援実績を全国の自治体が共有する共通台帳を構築することで、参加者が他地域へ転出入する際の情報の引継ぎがスムーズになるだろう。
さらに、中南米の税関当局間で多国間ブロックチェーンネットワーク(CADENA)が構築され、1か月を所要していた認証情報の照会を即時化した事例がある。関係人口施策でも部署間の業務手続きをスマートコントラクトで連結し、条件が揃えば次の処理や決裁が自動的に進む仕組みを導入することで、業務の効率化は一段と進む。自治体ごとの業務手順をコード化し、担当者の異動があっても標準化された運用を維持できる体制を整えることが制度の持続性を支える鍵となる。
3 書類の真正性の担保と改ざん防止
(1)関係人口施策における主な行政運用課題
関係人口施策は参加者と自治体との関係性を証明するさまざまな書類を発行・管理する業務が想定される。各書類を紙で原本発行し、郵送または窓口交付する場合は以下の課題が生じ得る。
① 紙の証明書や通知文書の原本性を保証する必要がある。遠隔地に住む関係人口に対し、ふるさと住民票を発行する場合、紙文書(場合により公印あり)を郵送する手続きを踏まざるを得ず、発行から郵送・受領までに時間とコストがかかる。
② 記録の改ざんや紛失リスクが挙げられる。複数の参加者にわたる履歴や発行物の情報を分散して管理するため、漏れや不整合が生じても気付きにくい。監査対応や情報公開請求の際に過年度に遡り資料を集める必要があり、職員が膨大な紙ファイルやデータを検索し照合する作業の負担も甚大である。
(2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
行政文書の信頼性を確保するうえでも、ブロックチェーンは強力な基盤となる。従来、登録証明や活動証明書は紙媒体や窓口対応に依存し、真贋の確認や情報の引継ぎに時間を要していた。
改ざん耐性と分散性を備えたブロックチェーンはこの課題を根本から解決する仕組みとなる。関係人口の登録証明や活動証明書を電子発行し、そのハッシュ値(その文書が本物であることを証明する識別子)を記録することで、受け取った側は即座に真正性を判定できる。シンガポール政府技術庁が2018年に導入したOpenCertsはその好例といえる(1)。この仕組みでは、卒業証書や成績証明書をブロックチェーン上に記録し、企業など第三者が提示された電子証明書のハッシュを照合するだけで真贋を確認できる。これにより、紙の証明書提出や発行元への照会は不要となり、国境を越えた書類の確認作業も効率化される。2019年には教育省とGovTech Singaporeが協働し、国内すべての教育機関がOpenCertsを採用した結果、卒業生は紙の証明書を持ち歩く必要がなくなり、企業側もオンラインで即時検証できるようになった。
〔注〕
(1)シンガポール政府技術庁(GovTech Singapore)(2018年8月27日)
https://www.tech.gov.sg/technews/with-this-blockchain-based-platform-you-may-no-longer-need-physical-certificates/
この仕組みを関係人口施策に応用することで、活動履歴や付与ポイントを改ざん不能な状態で記録し自治体間で共有することができ、関係人口としての登録・解除などの際の情報の引継ぎが効率化される。また、電子証明書を活用することで、従来郵送や窓口で行っていた諸手続きをオンラインで完結し自治体職員の事務負担を大幅に削減する効果がある。なお、電子証明書の法的位置付けを明確にし、関連法規の整備を進めることが前提である。
4 透明性・説明責任の確保と職員の運用負荷軽減
(1)関係人口施策における主な行政運用課題
関係人口施策は、財政支出(支援金やポイント発行など)を伴うため、以下の対応が求められる。
① 施策の成果と支出に対する説明責任が挙げられる。例えば自治体が主催する関係人口交流イベントなどに対し、予算と具体的な効果を説明する必要がある。
② 情報公開請求や監査対応時の職員の業務負荷が増大する可能性がある。特に過去の自治体の施策・取組実績記録が複数ファイルに散逸する場合や共通アプリ上で管理する場合は、情報の集約や分析データ管理方法の統一などが自治体職員側の作業負荷になる。
③ データの不整合や記録漏れにより信頼を損なうリスクがある。例えば、ポイント発行総数の記録と参加者に付与した合計ポイントの記録に差異が生じる場合が挙げられる。
(2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
ブロックチェーン技術の改ざん防止と即時の照合を可能にする性質は、関係人口施策の透明性を高めるうえで有効である。関係人口へのポイント発行や支援金支出等の履歴をブロックチェーンに記録し、住民や議員が公開台帳を閲覧できるようにすれば、「誰に、いつ、何ポイント・いくら支給したか」等の記録を改ざん不可能な状態で確認できる。職員にとっても、ブロックチェーン上の記録を提示するだけで証明が完結するため、資料準備や確認作業の負担は大幅に軽減される。情報公開請求への対応も紙資料を用意する必要がなくなる。
実例として、カナダ国立研究機構(NRC)が2018年、産業研究支援プログラム(IRAP)の助成金交付情報をブロックチェーン上で公開する実証実験が挙げられる(2)。NRCでは研究開発助成を受けた企業名や金額等のデータを記録し、国民や監査人が即時に検証・追跡できる仕組みを構築した。一度記録された情報は改ざん不可能なため、透明性と信頼性が向上した。同年8月には、閲覧用アプリケーションを分散型ファイルシステム(IPFS)上にホスティング(データをインターネット上で利用可能にすること)し、政府公式のWebサイトが停止した場合でも参照したい記録にアクセスできる体制を検証した。
〔注〕
(2)Cision Canada(2018年1月19日)
https://www.newswire.ca/news-releases/government-of-canada-exploring-the-potential-of-blockchain-technology-670113383.html
5 複数主体間の連携強化
(1)関係人口施策における主な行政運用課題
関係人口施策は地域振興・福祉・雇用など多様な分野にまたがり、自治体だけでなく企業・NPO・国や都道府県など複数の主体が関与する。このため情報連携や制度運用の一貫性を確保することが難しく、以下の課題が生じやすい。
① 多数の自治体・企業・NPOをまたぐ情報共有や調整などの対応の遅れ、業務ミスが発生する。
② 地域・自治体ごとに異なるシステムや運用ルールが存在し、それらを横断した連携施策を設計・実施することは煩雑である。
③ 国や都道府県との連携時におけるデータの整合性やセキュリティの確保が困難である。例えば、市町村が関係人口施策で集めたデータを都道府県や国の補助金事業に報告する際、フォーマットや認証方式の違いが障壁となる。また、異なる行政レベル間で機微な個人データを扱う場合、セキュリティ面の統一基準がないことで情報漏洩リスクなどの懸念が生じる。
(2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
地域間の連携・協働を強化するうえで、ブロックチェーンは分散型で改ざん耐性を備えた特性により情報の真正性を担保しながら即時共有を可能にする。全国の自治体が共通の関係人口の台帳を共有し、登録情報や活動履歴を分散台帳に記録することで、住民が別の自治体に異動した場合であっても受入先はブロックチェーン上から当該人物の活動歴や受給履歴を即時に把握できる。
さらに、地域ごとのチェーンを国のブロックチェーンに接続する仕組みを構築することで、自治体は独自ルールによる運用を維持しつつ、共通ハブを介して全国的なデータ連携を安全に実現できる。
加えて、複数主体が関与する施策のワークフローをスマートコントラクトで定義し承認やポイント付与などの条件を自動処理することで調整プロセスを効率化できる。
実例として、メキシコ・ペルー・コスタリカの税関当局は2018年にブロックチェーン基盤の情報共有ネットワーク「CADENA」を開発し、各国のAEO認証情報をブロックチェーン上で共有する仕組みを構築したことが挙げられる(3)。従来は月1回、エクセル表をメールで交換していた作業が自動化され、税関の相互承認協定(MRA)に基づく通関優遇措置を加盟各国が遅滞なく適用できるようになった。データは暗号化され改ざんできないため、セキュリティ対策とプライバシー保護が両立し、各国間の信頼性と連携は飛躍的に向上した。
〔注〕
(3)世界税関機構(2018年10月16日)
https://mag.wcoomd.org/magazine/wco-news-87/cadena-a-blockchain-enabled-solution-for-the-implementation-of-mutual-recognition-arrangements-agreements/
6 自治体間プラットフォームによる費用・運用負担の共有
(1)関係人口施策における主な行政運用課題
関係人口施策にブロックチェーン技術を導入するに際して、以下のような自治体が直面する費用面や技術面での負担も課題である。
① ブロックチェーンの導入・運用には初期投資や専門人材の確保が必要であり、単独自治体では負担が大きい。システム開発費用やノード運用に伴うインフラ費用のほか、セキュリティ対策、運用保守を担う人材も必要である。
② 地域ごとに個別にシステムを構築する場合、重複投資や非効率な運用が発生しやすい。各自治体が似たような機能を持つブロックチェーンシステムをそれぞれ開発すれば都度コストがかかるうえ、相互接続性が考慮されていなければ連携に追加コストや手間が発生する。
(2)関係人口施策へのブロックチェーン技術の応用
制度の持続可能性を確保しつつ費用対効果を高めることにおいて、共同運用型のブロックチェーン基盤の活用は有効な選択肢となる。国や都道府県がホストとなり各自治体が共通基盤を利用することで、個別システムの構築・維持に伴うコストを大幅に削減できる。
さらに、共通基盤上で運用することで、データ構造やセキュリティ水準の不一致といった問題を回避し、制度の整合性を担保しやすくなる。
ブロックチェーン技術の導入にあたっては、自治体の技術理解度や財政状況に応じた段階的モデルが望ましい。小規模自治体には簡易な接続機能を提供し、大規模自治体には高度なスマートコントラクト運用を可能にするなど、柔軟な設計が求められる。
費用と運用の合理化の観点では、欧州委員会とEU加盟国が進める欧州ブロックチェーンパートナーシップ(EBP)の事例が参考になる(4)。2019年に発足したEBPは、加盟国が共同で運用するブロックチェーン基盤EBSIを構築し、行政サービスを共通インフラ上で提供する仕組みを整えた。これにより、各国・自治体は個別にシステムを構築する場合に比べ、コスト削減と運用効率化を実現した。
〔注〕
(4)欧州委員会(2025年7月9日)
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/european-blockchain-services-infrastructure
さらに、2024年にはEBSIを運営するためのEDIC(欧州デジタル基盤共同体)の1つとしてEUROPEUMが設立され、複数の加盟国が資金とリソースを持ち寄り、共同でインフラを整備・運用する体制が確立された。今後EBSIは欧州域内の標準的な行政基盤となり、参加国・自治体が費用と運用負担を共有しながら、信頼性の高い公共サービスを提供することが期待されている。
7 まとめ
ブロックチェーン技術と制度運用により関係人口施策の実効性・信頼性が飛躍的に向上し、参加者や住民に対するサービス向上や行政への信頼醸成にも寄与し得る。
行政へのブロックチェーン技術の活用については、ドバイやシンガポールなど海外の先進事例で行政サービスの効率化・高度化にブロックチェーンが寄与し、大幅な時間短縮やコスト削減、信頼性が向上した成果がある。関係人口施策においても、こうしたデジタル基盤の活用が制度の飛躍的な進化につながると期待できる。
一方で、技術導入を成功させるためには制度面の整備や運用上の課題解決も不可欠である。ブロックチェーン上の電子証明書や記録を法的に有効な公式証憑として認めるための法改正・規定整備や、システム標準を策定する国・自治体間の調整が求められる。また、自治体職員のデジタル人材育成や住民への周知・理解促進、プライバシー保護と情報セキュリティ対策、さらにはシステム障害時のバックアップ体制構築など、技術と制度の両面から乗り越えるべき課題が残されている。今後は上記課題を踏まえながら、小規模な自治体間連携の実証実験や段階的な導入を通じて知見を蓄積し続けることが重要である。
*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。
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