
政策課題への一考察
関係人口施策の制度運用の高度化─政策の実効性を支えるブロックチェーン技術基盤の有効性と持続性(上)|政策課題への一考察 第117回
NEW地方自治
2026.02.10
出典書籍:『月刊 地方財務』2026年1月号
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【政策課題への一考察 第117回】
関係人口施策の制度運用の高度化
─政策の実効性を支えるブロックチェーン技術基盤の有効性と持続性(上)
株式会社日本政策総研副主任研究員
栗原 章
※2025年12月時点の内容です。
1 はじめに(前編)
国内では、地域と地域外の人々との継続的な関わりを促進し、その結果として、将来的に一定の地域外の人々の定住化を目指す「関係人口施策」が進められている。自治体による関係人口の受け入れや支援制度の整備が進む一方で、制度の運用面での課題も明確になりつつある。全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム(以下、「官民PF」という(1))では、関係人口施策(ふるさと住民登録制度)に関し、①対象、②支援内容、③持続可能な仕組みの3点を課題として取り上げている。
〔注〕
(1)「全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」
https://www.mlit.go.jp/2chiiki_pf/
筆者は、上記の課題に加え、自治体側の受け入れ体制が不十分なことも重要な問題点の1つとして認識している。このため、不十分な受け入れ体制を解決するために役立つという点から、本稿では関係人口施策の実行力を高めるための基盤構築の実効性と持続性に焦点をあて、関係人口施策におけるブロックチェーン技術活用の可能性と課題を整理し、制度設計・業務運用の方向性を検討する。
図表1 官民PFにおけるふるさと住民登録制度に係る主要論点

出典:官民PFの公式Webサイトを基に筆者作成
次章以降ではまず、現状の国内自治体のブロックチェーン活用の先進事例を参考に、制度設計や運用上の示唆を具体的に導き出し、その後、ブロックチェーン活用による関係人口施策の高度化に向けた基盤構築の方向性を考察する。
2 我が国における自治体のブロックチェーン活用事例
国内の自治体では、既にブロックチェーン技術を活用した実証事業が進められている。石川県加賀市では2018年に「ブロックチェーン都市宣言」を掲げ、2020年には民間企業と包括協定を結び、ブロックチェーン技術を組み込んだ電子申請サービスを本格運用開始した。同市は2024年から本格運用した「e-加賀市民」制度により関係人口創出に成果を上げており、開始1年でNFT形式の電子市民証を1200枚以上発行するなどの実績がある。
図表2 ブロックチェーン技術の活用実証事例(日本国内の自治体)

出典:各自治体の公式発表及び報道資料を基に筆者作成
〔注〕
(2)『payment navi』「加賀市、マイナンバーカードによる個人認証で行政手続きをオンラインで完結可能に(2020年8月17日)」
https://paymentnavi.com/paymentnews/97621.html
(3)加賀市「e-加賀市民証NFT、新デザインは獅子舞!加賀市固有の獅子舞文化とブロックチェーンを活用した革新技術が融合(2025年3月16日)」
https://www.city.kaga.ishikawa.jp/senryaku_tokku/about_us/News/13490.html
(4)インプレス「デジタル地域通貨による地方経済活性化なるか?実現の障壁や持続性の問題とは?(2019年4月5日)」
https://crypto.watch.impress.co.jp/docs/interview/1177912.html
(5)飯塚市「ブロックチェーン技術を活用した行政文書電子交付の実用化に向けた実証事業成果を公開(2022年12月19日)」
https://www.city.iizuka.lg.jp/sangakurenke/denshikouhu.html
(6)『PR TIMES』「【日本初】自治体によるブロックチェーン×防災の実証実験開始―「誰も取り残さない」社会実装への挑戦、4社連合で福岡県飯塚市から世界へ―(2025年9月12日)」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000131462.html
(7)『ビジネス+IT』「西粟倉村と平戸市が挑む自治体ICO、野口悠紀雄教授「成功すれば財政構造を転換」(2019年2月14日)」
https://www.sbbit.jp/article/cont1/36016
(8)日経BP『新・公民連携最前線』「ブロックチェーンを用いた公文書改ざん検知、竹田市とインフォテリアが共同実験(2018年7月11日)」
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/news/070900798/
福岡県飯塚市では2020年にブロックチェーンによる行政文書の電子交付を実証し、さらに2023年にはブロックチェーン技術を活用した防災情報システムの実証として、住民の避難履歴や支援情報を安全に管理・共有する取組を行った。
ただし、技術導入に注力する一方で、参加者が継続的に関与する仕組みや多主体の運営体制が十分であるとはいえない事例や、行政文書の電子交付などの単機能の実証に留まり関係人口の継続参加を促す制度設計には踏み込めていない事例がある。また、ブロックチェーン技術活用と現行の法制度との整合を検証しきれずに実証を進め、結果的に実装が見送りとなっている事例も散見される。
こうした技術活用の成果を左右する要因は、自治体内外の関係者間の合意形成や運用ルールの標準化、既存業務との統合、現場職員の理解・スキル醸成、法制度やガバナンス体制との整合性、及び費用負担や持続的な運用体制の確立などがある。これらの要素が実証計画に十分に織り込まれているか否かが、技術導入の効果を最大化できるかどうかの分岐点である。
特に重要な点は、事前に参加自治体や地域住民との合意形成を行い、共通の運用ルールを策定した上で段階的に制度を試行するなどの条件を織り込むことである。自治体・企業・住民で合意形成を図り、実証実験を通じて課題を検証するプロセスを設定することで制度導入後の運用リスクを低減し、他の事例に比べ成功の可能性を高めることができる。
さらに、技術導入が目的化しないよう、誰のどのような課題を解決できるのかを起点に制度を設計することも重要である。参加者の継続関与を促すインセンティブ設計や、多主体がチェックできるガバナンス体制を事前に組み込むことで、技術ありきではなく課題起点の施策にすることが可能となる。
次章では、こうした示唆を踏まえ、関係人口施策を実現するための基盤構想を既存システムとブロックチェーン技術の併用という観点から比較検討する。
3 関係人口施策を実現するためのブロックチェーン技術を活用した基盤構想
観点(図表3)の整理において、関係人口施策におけるブロックチェーン活用にあたり制度設計や運用主体の①自治体がノード(ネットワーク上の個々の端末・システム)を持ち分権的に制度運用をしつつ、国や都道府県が共通基盤を整備し記録の真正性や広域連携を確保する必要があること、②地域振興や福祉など複数部門にまたがる業務をスマートコントラクト(特定の条件が満たされることで契約が自動的に実行される仕組み)で標準化し、説明責任を果たしながら地域の柔軟性を維持する必要があることの2点を念頭に置いた。なお、図表3は各観点に則した詳細調査結果(後編にて詳述)の要点を整理したものである。
図表3 関係人口施策を実現するための基盤構想に係る観点整理表

出典:筆者作成
図表3の整理結果から、ブロックチェーン技術の活用により自治体が単独で運用・保管する情報をネットワーク全体で共有し、公的記録の改ざん防止と遠隔地での安定的な行政サービスの享受を両立できる点が大きなメリットであることがうかがえる。一方で、現行法との整合性、全参加者の合意形成及び運用ルールの標準化が前提となるため、制度設計段階でこれらを十分に織り込む必要がある。また、新しい技術の活用に対する現場職員のスキル醸成や既存業務との円滑な統合も不可欠であり、技術導入が目的化しない姿勢が重要であることがわかる。
4 まとめ
本編では関係人口施策の実効性・持続性を高めるための政策的背景、現行施策の課題、国・自治体におけるデジタル基盤構築に係る主要な観点や論点を整理し、技術活用の方向性を検討するための基礎的な視点を提示した。
国内では、自治体の現場でもブロックチェーン技術を取り入れた実証が広がり始め、住民サービスの高度化や業務効率化、自治体間連携の強化といった観点で具体的な取組事例も見られる。こうした事例は制度設計や運用の現実的な課題を把握し、今後のガバナンス構築に向けた示唆を得るうえで重要な材料となる。
しかし、技術の導入効果を最大化するためには運用ルールの標準化、関係者間の合意形成、法制度やガバナンス体制との整合性、持続的な運用体制の確立など、制度設計・運用面での工夫と現場の実践力が問われる。特に、国・自治体・民間の役割分担を明確化し、技術仕様と制度要件を両立させる仕組みづくりが不可欠である。
後編では、上記を踏まえて前編の3章で整理した関係人口基盤構築の検討に係る観点をもとに、政策の実行性・実効性を担保するための技術活用の方向性と具体的な実装モデル、制度整備の在り方を検討する。
【訂正とお詫び】
本連載116回・竹内幹太郎「地域で共創して育み自走するエリアマネジメントの展開方法とポイント」(2025年12月号)に、左記のとおり記載の誤りがございました。お詫びの上訂正いたします。
・177頁 下段 6行目
【誤】担い手不足、人材の育成が
【正】担い手・人材の育成が
・182頁 上段 図表3タイトル
【誤】収益性のある活動を仕組み化する
【正】収益性のある活動の仕組み化
・183頁 下段 注釈(2)
【誤】国土交通省(2008)
【正】国土交通省(2008年)
*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。
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