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地方企業における女性活躍推進の好事例及び自治体への期待|政策トレンドをよむ 第31回

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2025.11.11

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    【政策トレンドをよむ 第31回】
    地方企業における女性活躍推進の好事例及び自治体への期待

    EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部
    貝 蕾

    ※2025年9月時点の内容です。

     第5次男女共同基本計画において、政府は、指導的地位に占める女性の割合が2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう(1)という目標を掲げている。経済分野における女性の活躍を促進するため、「労働施策総合推進法」や「女性活躍推進法」などの関連法令を改正し、民間企業に対して女性活躍に関する行動計画の策定や情報公開を促してきた。また、経済産業省の「なでしこ銘柄」や、厚生労働省の「えるぼし」をはじめ、都道府県による企業の認定・認証、表彰制度なども多数実施されている。その結果、30人以上の民間企業における管理職(課長相当職以上、役員含む)割合が2013年の6.6%から2024年には10.8%(2)へと上昇し、民間企業における女性活躍が着実に進展している。

    〔注〕
    (1)「第5次男女共同参画基本計画」
    https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/5th/pdf/print.pdf
    (2)「雇用均等基本調査(女性雇用管理基本調査)」
    https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450281&tstat=000001051898

     一方で、女性活躍推進の課題も存在している。女性が多い小売業やサービス業では、働き方改革や女性管理職育成のパイプライン構築が主な課題となっている一方、製造業や建設業など男性中心の業界では、採用や職場環境の改善など、女性従業員の確保が主な課題となっている。また、人材や資金に限りがある中小企業では、大企業に比べ、女性の採用・登用機会の平等や継続就業支援等が自社の経営課題や生産性向上に直結しないと判断される場合、女性活躍に向けた取り組みの優先度が低くなる傾向がある。さらに、地域によってこのような取り組みの進捗にも差がみられている。こうした背景から、地方の中小企業における女性活躍の推進は、都心部の大企業や上場企業と比べて、全体的に遅れをとっている状況となっている。とはいえ、地方企業が地域の特性に応じて女性活躍に向けた取り組みを進めることで、自社のビジネス環境の改善や生産性向上につながった事例も多数存在している。

     福岡県のタカハ機工株式会社は、商品の市場縮小を受け、従来の大企業の下請けから、自ら営業を展開する体制へ転換するため、女性活躍を通じた組織改革を進めた。初めて女性新入社員を製造部門に登用し、現場改善に貢献したことで、女性の新卒採用を促進。また、若手の発想力を活かし、マーケティング活動を展開し続けてきた。例えば、自社製品を使った発明品のアイデアと技術を競う一般向けのコンテストを開催し、女性社員が司会をリードしたり、誰もが親しみやすさを感じられるよう会場づくりに工夫を凝らしたりして、地域の関係者や工学部の学生など多数の来場を実現し、企業イメージも堅苦しい製造企業から親近感かつ活力がある企業に変身できた。結果として商品の知名度が向上し、受注生産中心から徐々に攻めの営業へ転換を果たし、新卒の入社希望者も倍増した。同社は経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」や「地域未来牽引企業」に選定されている。

     山口県の株式会社カワトT.P.C.は、大規模工業地域に立地し、男性中心の雇用環境の中で、働く場の少ない女性を雇用対象とする方針を打ち出した。転勤族の配偶者など短時間勤務の女性を多数採用し、高品質な製品を生み出すビジネスモデルを構築した。全社的に4~5人のチーム制を導入し、様々な強み・弱みを持つ社員を組み合わせ、チームに大きな裁量を与え自律的に業務を回すための仕組みをとっている。各チームが経営データを基に業務全般に責任を持つ仕組みになっているため、参加意識と生産性の向上、徹底したコスト削減により経営危機を乗り越え、利益を生み出す体質を確立した。同社も「ダイバーシティ経営企業100選」に選定され、地域雇用を支える企業として高く評価されている。

     上記のような先進事例でみられるように、多くの地方中小企業は、単に女性活躍の数値目標を追うのではなく、自社の経営課題やビジネスモデルに基づいた人材戦略として女性活躍を位置づけている。こうした取り組みは最終的に企業価値に影響を与え、企業の成長につながっている。また、地方企業は所在地域の労働力人口構成や業界特性に強く影響されるため、生産性向上や市場拡大が地域経済や地域活性化にも貢献している。

     一方で、女性活躍の取り組みを進めるには、自社の経営課題やビジネス状況を分析した上での実施が望ましく、社内体制や業務プロセスの見直しなど一定のコストがかかる。そうした余裕のない中小企業も多く存在しているため、地方公共団体には、企業のニーズに合わせ、女性活躍推進交付金やデジタル田園都市国家構想交付金制度等を活用して企業を支援や周知する取り組みを実施したり、先進企業の事例を横展開するための産業振興課を中心とした啓発事業をしたりするなど、地域の実情に応じた企業支援が求められている。

    #7:地域や組織の持続的な発展を実現する人的資本経営の推進支援
    https://www.ey.com/ja_jp/industries/government-public-sector/human-capital-management

    #8:地域の人材確保・育成に向けた戦略策定・実行支援
    https://www.ey.com/ja_jp/industries/government-public-sector/secure-and-develop-regional-human-resources

    〔参考文献〕
    経済産業省、平成27年度「新・ダイバーシティ経営企業100選ベストプラクティス集」
    経済産業省、平成28年度「新・ダイバーシティ経営企業100選ベストプラクティス集」

     

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