
政策トレンドをよむ
地方創生2.0の鍵を握る外国人材戦略と自治体の覚悟|政策トレンドをよむ 第32回
地方自治
2025.12.10
目次
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出典書籍:『月刊 地方財務』2025年11月号
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【政策トレンドをよむ 第32回】
地方創生2.0の鍵を握る外国人材戦略と自治体の覚悟
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 マネージャー
森川 岳大
※2025年10月時点の内容です。
近年、日本における外国人材の受け入れは、選挙を左右しかねない争点に浮上している。自治体が外国人材の受け入れ事業を立ち上げれば「日本人雇用の軽視」との批判が噴出し、地方議会や行政の意思決定は萎縮する。国や経済団体までもが予算措置に及び腰となる傾向は否めない。しかし現場の人手不足は待ったなしである。民間主導の受け入れは着実に拡大しており、人材確保に向けて海外に教育・訓練機関を整備する企業や、紹介ビジネスに新規参入する企業も相次いでいる。
送り出し国の構造も変化している。従来のベトナム、フィリピン、インドネシアに代わり、ネパール、ミャンマー、スリランカ、インド、バングラデシュ等の存在感が増す。だが、これらの国は送り出しの経験が浅く、透明性が脆弱で、機関ごとの教育・運営の質にもばらつきがみられる。ミャンマーの送出人数制限に象徴されるように、現地情勢も刻々と変化する。受け入れ側には緻密なリスク管理と、信頼に足る現地機関との関係構築が求められる。受け入れルートの多様化に伴い、不法就労や偽装申請の問題も表面化している。本来の在留資格と乖離した就労、兼業による留学生の法定労働時間の超過、学歴等の書類偽造、日本側ブローカーによる失踪斡旋も確認される。
地方では、外国人労働者なしに経済が立ち行かない現実がある一方、市民感情を懸念して大規模な支援策を打ち出せないケースも多い。問題に対して後追いで予算を投じる構図は、欧州をはじめ各国が経験した「移民政策の失敗」をなぞる危険を孕む。日本が同じ轍を踏まぬためには、行政が主体的に課題解決に踏み込む覚悟が問われる。
取り組みに積極的な自治体も、多くの課題を抱えている。第一に、地域の産業構造・ニーズを踏まえた戦略の欠如である。現状は縦割り行政の下、個別産業ごとに場当たり的に対応する事例や、外国人材の受け入れ自体が目的化する事例(特に高度人材はその傾向が顕著)が目立ち、地域全体としての方向性が描けていない。その結果、企業が求めるスキルや資質と、実際に受け入れられる人材との間にミスマッチが生じやすい状況が続いている。
次に、継続的に関与するキーパーソンの不在である。安定的な受け入れには、送り出し国の実態を把握し、多様な利害関係者との信頼関係を構築することが不可欠である。しかし、多くの自治体は人材紹介会社の委託先に依存し、独自に交渉する力を持たない。委託先の変更も頻発するため、送り出し国や人材の実態情報が行政内部に蓄積されず、地域企業に十分な説明責任を果たせない状況も散見される。
さらに課題となるのは、自走化に向けた設計の不足である。多くの自治体では国の交付金を活用して事業を進めているが、予算が終了すると停滞する例も少なくない。自立的に運営できる仕組みを築くためには、地域企業の需要を丁寧に掘り起こし、そのニーズに即した現地の人材教育体制を整備することが求められる。しかし現状では、需要喚起は形式的なセミナーにとどまり、紹介や支援の機能を地域に根付かせるまでには至っていないケースが多い。
入国前の事前説明やキャリア設計が不十分なため、せっかく受け入れた人材が都市部へ流出するケースも後を絶たない。今後、育成就労への移行により転職制限が緩和されれば、この傾向は一層加速する可能性が高い。
これらの課題を解決するうえでまず重要なのは、産業政策と連動した人材戦略の策定と、産業横断的な庁内連携体制の構築である。受け入れ事業者のニーズを的確に把握し、必要とされる在留資格やスキル・能力等の要件を明確にしたうえで、各送出国の状況に応じた独自の戦略を描くことが求められる。加えて、職員の主体的関与と専門家の継続的な巻き込みが重要となる。現地情勢や送り出し機関を客観的に評価できる外部知見を取り入れつつ、自治体職員が自ら現地に足を運び、情報を収集して知見を蓄積していくことが欠かせない。中小企業単独では交渉力に限りがあるため、地域の求人を集約し、送り出し側と安定的な人材供給に向けた交渉をしていくことも必要となる。
地域企業のニーズを踏まえた現地教育の環境整備や、企業への個別訪問等による地道な理解促進も有効である。加えて、各種支援機能を地域内に備え、外国人材の受け入れ・共生を1つの産業として内製化する視点が求められる。さらに、独自の人材確保ルートの開拓や、キャリア支援も欠かせない。地域に根差して働き続けたい人材を現地で選抜・育成する仕組みを整えることに加えて、受け入れ後も、日本語教育や交流事業だけでなく、キャリア形成支援や帯同家族への包括的な支援を一体的に提供することが求められる。職場や地域の特性を生かした取り組みが、定着率向上の鍵を握る。
外国人材の受け入れは、労働力の補填にとどまらず、地域の未来を左右する大きな挑戦である。覚悟をもって責任を担い、この難題に真正面から挑む方々にとって、本論考が一助となれば幸いである
#6:外国人材の受入れ・共生・活躍促進支援
https://www.ey.com/ja_jp/industries/government-public-sector/immigration-policy
#8:地域の人材確保・育成に向けた戦略策定・実行支援
https://www.ey.com/ja_jp/industries/government-public-sector/secure-and-develop-regional-human-resources
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