感染症リスクと労務対応
【労務】感染症リスクと労務対応 第29回 保育園の登園拒否によって出勤できない場合の取り扱いについて
キャリア
2020.07.06
新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)
保育園の登園拒否によって出勤できない場合の取り扱いについて
(弁護士 堀内 聡)
【Q29】
子供のいる従業員から「緊急事態宣言発令後も保育園は開所しているが、市町村から登園自粛要請が出ているし、実際の感染リスクも怖いので、登園させたくありません」との申出がありました。そうすると出勤できなくなりますが、どのように対応すればよいのでしょうか。
【A】
現在就業中の従業員から、保育園の登園自粛要請を理由とする欠勤の申出があった場合、育児休業ではありませんので、欠勤として取り扱うこととなります。詳しい考え方や関連する制度、助成金などを以下解説します。
現在就業中の従業員
現在就業中の従業員から、保育園の登園自粛要請を理由とする欠勤の申出があった場合、育児休業ではありませんので、欠勤として取り扱うこととなります。
賃金についても、ノーワークノーペイの原則に従って、支給しないことが原則です(就業規則に別段の定めがあればそれに従いますが、そのような定めがある企業は稀ではないかと思われます)。もっとも、企業の自主的判断として、賃金(相当額)を支給することは妨げられません。現在就業中の従業員から、保育園の登園自粛要請を理由とする欠勤の申出があった場合、育児休業ではありませんので、欠勤として取り扱うこととなります。
賃金についても、ノーワークノーペイの原則に従って、支給しないことが原則です(就業規則に別段の定めがあればそれに従いますが、そのような定めがある企業は稀ではないかと思われます)。もっとも、企業の自主的判断として、賃金(相当額)を支給することは妨げられません。
なお、新型コロナウイルス感染症においては、小学校等の臨時休業によって、保護者が欠勤せざるを得なくなった場合に、当該保護者に有給(全額支給)の休暇を与えた企業に対する助成金制度(上限日額8330円)が設けられました。この助成金制度は、保育所から利用を控えるよう依頼があった場合も対象となっています。
賃金の支給の有無はさておき、欠勤状態が続くことは労働契約上の債務不履行ですので、抽象的には解雇事由に相当します。他方で、緊急事態宣言による保育園の登園自粛、という本人に責任のない事象による欠勤ですので、事業主としては、仮に無給であったとしても、何らかの特別休暇として、従業員が不利益を被らないように配慮する措置が求められます。
現在育児休業中の労働者が復帰予定であった場合
現在育児休業中の労働者が、育児休業を終えて復帰予定であった場合、育児休業の延長の可否を検討する必要があります。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育児介護休業法」といいます)では、労働者は、原則として子供が1歳になるまでの間、育児休業を取得することができるとされています(育児介護休業法5条1項)。
そして、例外的な措置として、1歳になる時点で保育所などに入所できないなど、雇用の継続のために必要と認められる場合に限り、1歳6か月まで(再延長で2歳まで)育児休業を延長することができるとされています(育児介護休業法5条3項・4項、同法施行規則6条)。
(1) 子供が1歳までの場合
現在育児休業中の労働者から申出があった場合、事由を問わず育児休業の終了予定日の繰下げ変更(最長1歳まで(育児介護休業法7条3項)。なお、いわゆるパパ・ママ育休プラスを取得する場合は1歳2か月まで(同法9条の2))を認める必要があります。なお、繰下げ変更後の休業期間についても育児休業給付金は支払われます。
これは、登園自粛要請が出ている場合であっても、登園自粛要請が出ておらず保護者が自主的に保育園の登園を控える場合でも、同じです。
なお、育児休業の終了予定日の繰下げ変更は、当初予定日の1か月前までにしなければならないとされていますが(育児介護休業法7条3項、同法施行規則16条)、新型コロナウイルスに関する厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年4月30日時点版」では、申出が直前になった場合でも繰下げ変更を認めることは可能であるとされています(4・問16、問17)ので、企業としては柔軟に育児休業の延長を認めることが望ましいと考えられます。
また、すでに仕事復帰している労働者から再度の休業の申出があった場合、再度の休業を認める義務はありませんが、各企業において独自に再度の休業を認めることは差し支えありません(ただし、育児休業給付金は支払われません)。
(2) 子供が1歳または1歳6か月になるときの場合
保育園から登園自粛の要請が出ている場合、子供が1歳または1歳6か月になるときに、引き続き育児休業をしたい旨労働者から申出があった場合、育児休業(1歳からの休業は最長1歳6か月まで。1歳6か月からの休業は最長2歳まで)を認める必要があります。なお、引き続き休業した期間についても育児休業給付金は支払われます。
他方で、登園自粛要請が出ておらず保護者が自主的に保育園への登園を控えている場合、厚生労働省・前記Q&Aでは、1歳6か月または2歳までの育休延長を認める義務はないと整理されています(4・問17)。これは、育児休業の延長の要件である、保育園の利用を希望し、申込みを行っているが、当面その実施が行われない場合(育児介護休業法5条3項、同法施行規則6条1号)に該当しないという理由によるものと考えられます。
また、育児休業から一度復帰している従業員から休業の申出があった場合や、子が2歳以上である場合、育児休業を認める必要はありません。
各企業において独自に再度の休業を認めることは差し支えありません。なお、こうした法を上回る対応により認められた休業期間については、育児休業給付金は支払われないため留意してください。
以上を整理すると下表のとおりです。
※いずれも企業が任意に育休延長や再度の休業を認めることは可能。
緊急事態宣言下における対応
いずれにせよ、育児休業を認めない措置をとったとしても、現実に子供の世話をする者が見出せなければ、当該従業員は出勤できません。かかる欠勤をルール違反と評価することは、緊急事態宣言下においては適切とはいえず、他の従業員の士気にも影響するように思われます。臨時的一時的にテレワークを検討するなど、緊急時だからこその対応策の検討が強く求められるところです。
■ウェブ連載「感染症リスクと労務対応」が待望の書籍化■
弁護士法人淀屋橋・山上合同、『Q&A 感染症リスクと企業労務対応』
(ぎょうせい、2020年7月刊。A5・200ページ・定価2,000+税)
企業側の労働事件を扱う弁護士が35のQ&Aで分かりやすくまとめています。本連載の内容を一部増補・加筆し、新型コロナ、インフルエンザ、SARS、麻疹、結核など従業員が感染症に罹患したときのリスクを「見える化」し、あるべき対応を解説しています。新型コロナの感染拡大によって生じた労務対応を経て、今後感染症が拡大した際、企業としてどのような対応が求められるのかが分かる1冊となっています!
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