感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第2回 年次有給休暇の利用や特別休暇取得に関する疑問

キャリア

2020.03.16

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

新型コロナウイルスに関連する年次有給休暇の利用や特別休暇の付与

(弁護士 吉田 豪)

【Q2】
 ① 従業員がウイルスに感染して休業する場合
 ② 従業員に微熱が続き、ウイルスの疑いがあるため休業する場合
 ③ 会社として、集団感染を避けるために一斉休業する場合
 ④ 学校が休業になり、子どもが自宅にいるため勤務ができない場合
 ⑤ 海外出張者が政府の要請により2週間自宅待機をしている場合
上記の①から⑤までの場合で、年次有給休暇の利用や特別休暇の付与について留意すべき点があれば教えてください。

【A】
 まず、休暇に関する基本的な考え方について説明します。
 労働者は使用者に対して労務提供の義務を負うところ、労働者の責に帰すべき事由により労務提供が不可能な場合は、労働契約の債務不履行として欠勤扱いとなるのが原則です。
 もっとも、年次有給休暇や特別休暇を取得すれば、労働者は労務提供義務を免除されますので、欠勤とはなりません。
 そして、年次有給休暇(法定年休)は、労働基準法39条によって認められた労働者の権利であり、労働者は年次有給休暇を原則として自由に取得できます。また、年次有給休暇を取得した労働者に対して不利益な取扱いをすることは禁止されています(労働基準法136条)。
 これに対し、特別休暇(法定外年休)とは、法律で定められたものではなく、各企業において任意に定められるものであり、具体例としては病気休暇、ボランティア休暇、リフレッシュ休暇、裁判員休暇などがあります。その取得の要件や、有給なのか無給なのかといったことも、各企業によって異なります。


1.従業員がウイルスに感染して休業する場合(①)
 前記事【Q1-1】におけるA記載のとおり、この場合は就労不可能であり、かつ、労働者の責に帰すべき事由によるものとして賃金請求権も発生しないと考えられます。
 もっとも、従業員が年次有給休暇の付与を申請することは可能であり、適法な申請がなされれば、賃金請求権は発生します。
また、病気休暇等の特別休暇の対象となるのであれば、それを利用させることになります。
 就労不可能であるのにかかわらず、年次有給休暇も特別休暇も取得できない場合は、労働義務の債務不履行として欠勤扱いとなるのが原則ですが、今回のような非常事態においては、企業としてもできる限り従業員の生活に支障を来さないよう配慮するのが望ましいと考えられますので、ウイルスに関連した休業の場合を対象とする有給の特別休暇制度を新たに設けることも考えられます。この場合には、後述のとおり、助成金を受けられる可能性がありますので、あわせて検討するとよいでしょう。
 なお、ウイルスの感染原因が業務に起因するなどの特別な場合には、なおさら従業員の立場に配慮すべきでしょう。

2.従業員に微熱が続き、ウイルスの疑いがあるため休業する場合(②)
 ウイルスの疑いがあるため従業員が自主的に休業する場合、従業員は年次有給休暇を取得することができること、病気休暇等の特別休暇の対象となるならそれを利用させることになること、いずれもできない場合には欠勤となるのが原則であることは上記1と同様です。
 もっとも、この場合も、有給の特別休暇制度を新たに設けることで、ウイルスの疑いのある従業員に安心して休業してもらい、その生活を保障するのみならず、感染拡大の防止にも寄与することができると考えられます。
 また、ウイルスの疑いを理由に企業の自主的な判断で従業員を休業させる場合は、前記事【Q1-1】におけるA記載のとおり、使用者の責に帰すべき事由によるものであり、休業手当の支払いが必要となるほか、勤怠上も不利益に取り扱うことはできないと考えられます。

3.会社として、集団感染を避けるために一斉休業する場合(③)
 前記事【Q1-1】におけるA記載のとおり、企業の自主的な判断で従業員を休業させる場合は、使用者の責に帰すべき事由によるものであり、休業手当の支払いが必要となるほか、勤怠上も不利益に取り扱うことはできないと考えられます。

4.学校が休業になり、子どもが自宅にいるため勤務ができない場合(④)
 前記事【Q1-1】におけるA記載のとおり、一般論としては、従業員の個人的な事情によるものなので、年次有給休暇および特別休暇の取得ができない場合は欠勤となるとも考えられますが、今回のような一斉休校という異例の事態においては、できる限り従業員の負担を軽減することも必要と思われます。
 そこで、上記2で述べたような、有給の特別休暇制度を新たに設けることも十分検討に値します。後述するように、この場合に従業員に有給の休暇を取得させた企業には助成金が支給されますので、あわせて検討するとよいでしょう。

5.海外出張者が政府の要請により2週間自宅待機をしている場合(⑤)
 前記事【Q1-1】におけるA記載のとおり、会社の業務で海外出張していた従業員に関しては、使用者の責に帰すべき事由があると考えられますので、特別休暇を付与するなどの対応が必要となると考えられます。
 これに対し、全く個人的な海外旅行等から帰国した従業員に関しては、法律的に考えると、「使用者の責に帰すべき事由」によるものとは考えられず、年次有給休暇および特別休暇の取得ができない場合は欠勤となると考えることが可能です。
 ただし、今回のような非常事態においては、企業としては、できる限り従業員の生活に支障を来さないよう配慮するのが望ましいと考えられますので、特別休暇の活用なども検討いただければと思います。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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