条例化の関門 その3 条例の所管事項

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2023.05.10

★本記事のポイント★
1 地方自治法等において条例で定めなければならないとされている事項を考慮して、政策の内容について、条例で定める必要があるか、あるいは、条例で定めることがふさわしいかを検討すべき。 2 条例の所管事項は、原則として、地域における事務であり、地域における事務と言えないものは、条例で定めることはできない。 3 ワクチン接種促進政策に関して、条例で定めることができる事項かという問題について考察する。

 

1.いよいよ条例の話

 条例立案の法的検討における、条例に関する次の論点を考察したいと思います。

・政策は条例の所管事項であるか ・政策を条例とする場合、法律との関係において適法であるか

 これらの論点については、政策法務、地方自治法などの書物に条例の所管事項、法律と条例との関係として解説があり、皆さんも理解されていると思いますので、論点を深堀りしたいと思います。

 

2.所管事項と効力関係

 法令間の効力関係を考える際、所管事項と効力関係を区別することが理解の助けになります。所管事項とは、ある種類の法令の定める事項のことを意味し、効力関係とは、異なる種類の法令が同じ所管事項について定める場合、どちらの法令が優先するかの問題です。 例えば、法律と政令・省令は、同じ所管事項を定めることがありますが、その場合は、法律が優先するというものです。反対に、ある法令と別の種類の法令の所管事項が重複しない場合は、効力関係は生じません。
 前述の条例に関する論点については、この所管事項と効力関係を意識しながら論点を考察することが重要です。

 

3.条例で定める必要があるか

⑴ 必要的条例事項
 地方自治法は、一定の事項については、条例で定めなければならないとしています。
 まず、第14条第2項は、「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」と定めています。このような事項については、侵害留保の原則から、住民の権利を守るため住民の代表機関である議会の制定した条例で定める必要があると説明されています
 また、「地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない」(第4条第1項)など、一定の重要な事項については条例で定めなければならないとしています。
 さらに、地方自治法以外の法律でも、例えば、「民生委員の定数は、厚生労働大臣の定める基準を参酌して、前条の区域ごとに、都道府県の条例で定める」(民生委員法第4条第1項)のように、一定の事項を条例で定めなければならないとするものが多くあります。
⑵ それ以外の事項
 問題は、それ以外の事項が、条例で定める必要がないかどうかです。特に、第2回で述べた法令としての性格との関係で、地方自治法第14条第2項が定める義務を課し又は権利を制限する事項以外で、条例で定める必要がある事項はないかということです。
 第2回では、法令の性格として、かつては強要性が必要だとされ、また立法実務では権利義務に直接関係する事項が法律事項であると述べました。しかし、最近では、統治のあり方を民主的にコントロールすることも法令としての性格に適合すると考えられるようになったと述べました。
 なお、地方自治法が定める個別の必要的条例事項(市町村の名称変更、事務所の位置、自治体の休日、議会の議員定数等)を見れば、権利義務に直接関係する事項ではなく、自治体の組織・運営にとって重要な事項が条例事項とされています。
 このようなことを考慮して、政策の内容について、条例で定める必要があるか、あるいは、条例で定めることがふさわしいかを検討すべきと考えます。

 

4.条例で定めることができるか

 条例の所管事項は、地方自治法第2条第2項の事務に関する事項です(同法第14条第1項)。そして、同法第2条第2項では、「地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する」となっていますので、条例の所管事項は、原則として、地域における事務です。したがって、地域における事務と言えないものは、条例で定めることはできません。
 この点について、①国家間の外交、国家の防衛、領土や領海等の国家間の関係に関する事項、②私法秩序の形成に関する事項、③刑事犯の創設に関する事項などは、地域における事務とは言えないとされています
 このように明らかに地域における事務とは言えないものもあると思いますが、現在のように地域間の交流が盛んとなった状況では、地域における事務かどうか明確でないものもあると思います。
 このような場合、個別具体的な判断となるでしょうが、地方自治法第1条の2第2項が、国と地方公共団体の役割分担について、「国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担する」と定める趣旨を踏まえて、不明確な理由で地域における事務でないとすることはできないと考えるのが妥当でしょうか。ただ、地域における事務としても、事務の性質上、法律で規定すべきものもあるという見解もありますので、事務の性質についても見極める必要があります

 

5.ワクチン接種促進政策 関門2

 第1回で問題提起しましたワクチン接種促進政策に関して、「Q2これらの政策は、条例で定めることができる事項でしょうか」という問題について考察します。
 第2回で考察しましたが、ワクチン接種促進政策のうち、ワクチン接種証明書を提示しなければ飲食店、劇場等のような多数の人が利用する施設に入場できないという政策、特に、自治体がワクチン接種証明書を発行し、利用者に証明書の提示義務を課すとともに、施設側に証明書の確認義務を課し、違反した場合罰則を科すという方法は、法令が必要としました。その場合、条例で定めることができるかが問題になります。
 まず、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する事務は、第一号法定受託事務とされていて、地域における事務です(地方自治法別表第一)。
 また、住民の健康を保持するためワクチン接種を促進することは、当該地方公共団体の区域内の事務たり得る性質だと考えますので、条例で定めることができる事務と考えられます。

 

1 猪野積『地方自治法講義(第5版)』(第一法規、2020年)127頁参照。 2 前掲書116頁参照。 3 例えば、「対償を伴わない性行為の規律は国法の黙示的留保に属するものと解し得る・・・青少年の健全育成が自治体の責務であるからといって、その具体的規律が当然に条例の所管事項とはいえず、とりわけ表現の自由に関しては法律による規律を原則とすべきであろう」とする見解があります。宍戸常寿「青少年保護育成条例による淫行禁止」『地方自治判例百選(第4版)』(有斐閣、2013年)51頁参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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