月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2022年9月号 特集:困難に直面する人をどう支えていくか

地方自治

2022.08.30

●特集:困難に直面する人をどう支えていくか

世界の風景を変えた新型コロナパンデミックは、人々の暮らしに大きな影響を与えてきた。特に経済的困窮に加え、孤立・孤独、DV・虐待、障害などの困難を抱える人たちの問題を顕在化・深刻化させたことが指摘されている。国内外は「withコロナ」に移行したが、依然として厳しい経済状況や生きづらさが解消されない中で、第7波が吹き荒れ、ロシアのウクライナ侵攻を契機とする物価の高騰や、エネルギー・食料不足、社会不安の高まりなどがさらに人々の生活を脅かしつつある。これから自治体や地域では、困難に直面している人を支えていくことがますます重要になってくるはずだ。今月はこれまでの困窮者支援の成果や課題とともに、今年成立した女性支援法なども踏まえながら、この問題を考えてみたい。

■困難を抱える人とどうつながり、支えるか/原田正樹

「困難を抱える人」たちとどうつながるかということを考えるとき、優先順位として極めて過酷な状況にある人たちを何とかしたいという視点になりがちであるが、簡単につながれるわけではない。むしろwithコロナにむけて「つながりの再構築」について考え、地域のあらゆる住民を対象にしたセーフティネットを張り直すという視点が必要だと考える。

 

■生活困窮者自立支援制度の可能性〜新しいセーフティネットを育てる/宮本太郎

困難を抱えた人々を支援する上で、2015年から施行されている生活困窮者自立支援制度の可能性を考えたい。この制度の公式的な解説というより、少し踏み込んで、筆者独自の観点も交えつつ、新たなセーフティネット形成に向けた大きな流れを考え、その流れのなかでの生活困窮者自立支援制度の役割をみたい。

■コロナ禍の経済的困窮支援をどのように進めるか──特例貸付の実態と償還開始を見据えて/角崎洋平

現在に続くコロナ不況の中で、経済的に困窮した人たちを対象とする支援策がいくつか実施されてきたが、そうした施策のなかで、幅広く利用され、かつ、コロナ禍の当初から利用されてきたのは、生活福祉資金の特例貸付である。本稿では、この特例貸付の概要と実績、その利用者の実態や特例貸付の償還に関する問題を踏まえ、今後必要とされる経済的困窮支援について検討する。

■女性支援新法の意義と自治体の役割/戒能民江

女性支援新法でもっとも重要なのは、「支援の基本理念」の明記であり、当事者の意思の尊重とその女性が抱えている問題や背景事情、心身の状況などに応じた「最適な支援」を受けられるような多様な支援を包括的に提供できる体制整備などを求めている。当事者中心主義の支援は、これまでの行政による「管理的」な視点による「指導」の対極にあるものである。

■障害や困難を抱えた子どもや家族の支援の現場から/北川聡子

コロナ禍では、困難を抱える人たちが、より苦しい状況に立たされているといわれる。約40年にわたり障害や困難を抱えた子どもや家族のサポートを行ってきた、札幌市の社会福祉法人「麦の子会」の支援の概要とともに、コロナ禍で何が求められたのか、紹介したい。

■コロナ禍で深刻化した在留外国人政策の課題と展望/毛受敏浩

コロナ禍によって急増した在留外国人の課題は、外国人の定住化が進む中で、日本がこれまで外国人に対して中途半端な受入れを続けてきたことを浮き彫りにした。日本はより明確な外国人受入れの方針を出すことが求められる。

■コロナ禍で自治体現場は何を問われたか/生水裕美

「制度の対象ではない」と終わるだけでは自治体が相談を受ける意味がない。立場の弱い人は声を上げることができない。現場を持つ基礎自治体だからこそ、「声なき声」を拾い上げて、どのような制度が必要なのかを国等に伝え、制度に反映させていくことが基礎自治体の役割ではないかと考える。

〈取材リポート①〉
◆生活困窮者の自立に向け、「チーム座間」で「断らない相談支援」を推進
──神奈川県座間市
神奈川県座間市は、「断らない相談支援」を掲げて生活困窮者自立支援事業に取り組んでいる。生活援護課自立サポート担当が中心となり、庁内各課と連携して生活困窮者の困り事に気づき、支援につなげる自立相談支援を推進。また、家計改善支援や就労準備支援などを各分野に強みを持つ団体やNPO法人等に委託し、複合的な悩みを抱える相談者の自立を「チーム座間」で支えているのが特徴だ。

〈取材リポート②〉
◆共生社会づくりに向け、大規模なひきこもり実態調査を実施
――東京都江戸川区
「ともに生きる」を掲げて、共生社会づくりを進める東京都江戸川区は、昨年度18万世帯を対象とする「ひきこもり実態調査」を実施した。これまで見えづらかった当事者や家族の実情を把握するのがねらいだ。現在、実態把握をさらに進めるとともに、具体的な支援に取り組んでいる。

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
「ネガ→ポジ反転」でツラい時を乗り越える

コロナ禍が終わる間もなく、ウクライナ危機や物価の高騰など心がざわつく時期が続きます。
また、人同士の距離の広がりや関係の希薄化、さらにデジタル化などの急速な社会変化も不安な気持ちを広げています。
それは自治体職員だけでなく、住民も同じ。その不安が職員に向かってしまうケースもあるでしょう。
こんな時期が続けば、人はどうしてもネガティブ思考に陥りがち。だからこそ「気の持ちよう」は大切です。そのネガティブな気持ちをポジティブに反転し、ツラい時期を乗り越えていきましょう。

■試してみよう!「ネガ→ポジ反転」の切替スイッチ/笹氣健治

ネガティブな考えをポジティブに切り替えるためには、次の二つを意識すればいいのである。▷冷静に考えられる状態になるため、交感神経が優位の状態を副交感神経が優位の状態にする▷無意識なネガティブ思考パターンを変えるために論理的な思考回路を働かせる。これら二つは、言うなれば「ネガ→ポジ反転」の切替スイッチである。

■失敗や不安も「言い換え」でポジティブに/島本好平

負の感情をプラスのエネルギーに変換するのに特別な能力や才能は必要ない。肝心なのはあなたが発する言葉を変えていくことである。私たちが発する言葉は、自らの聴覚を通じて想像以上に私たちに影響を及ぼしている。負の感情をプラスに変換するためには、失敗や不安に起因するネガティブな言葉をプラスに言い換えていく必要がある。

■「ポジティブ公務員!」への意識づけ/納 翔一郎

「ポジティブ思考」と一言でいうのは簡単だが、個々人により差があるものである。そのため、一括りにまとめるのは難しい。しかし、今感じているネガティブ思考をポジティブ思考へ転換するきっかけをつくり、ポジティブ思考を保つための努力はできる。昨今のコロナ禍をはじめとする不安定な社会情勢の中で自分らしく生きるためにも、私が実践する「ポジティブ公務員」への意識的な取り組みをご紹介したい。

●連載

■管理職って面白い! アンコンシャス・バイアス/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
リノベーションによるまちづくりで大切なこと/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/北島麻子 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/菅 花穗 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/猪野可奈 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/出石 稔(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
北村正平・静岡県藤枝市長
将来に希望が持てる「幸せになるまち」へ

選ばれるまち」を掲げて、転入超過を実現してきた静岡県藤枝市。北村正平市長は、混沌とする時代の中での先を見据え、「人づくり」を中心に将来に希望が持てる「幸せになるまち」を展望している。

北村正平・静岡県藤枝市長(76)。市民の憩いの場である蓮華寺池公園は、「市民が元気で幸せになるまち」という市長の願いのバロメーターといえる場所だ。背景に見えるのは、今年オープンした「旧藤枝製茶貿易商館『とんがりぼう』」。

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
伊達政宗(四) 海外発展も〝徳〟の実行

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
県外避難地で人と伝統をつなぐ──福島県双葉町、埼玉コロニーの結束
原発事故、続く模索㉚

福島県双葉町は原発事故による避難で唯一、県外に役場を移した自治体だ。そのため、役場と行動を共にした避難者のコロニーが埼玉県にできた。故郷から遠く離れた新天地。避難者同士の絆を維持する取り組みのほか、伝統行事も行われていて、まるで小さな村のようだ。8月30日、双葉町で初めて一部地区の避難指示が解除された。「埼玉コロニー」から帰還する人はいないという。

□現場発!自治体の「政策開発」
使用済み紙おむつを資源化し温泉施設の熱源として活用
──使用済み紙おむつ燃料化事業(鳥取県伯耆町)

鳥取県伯耆町は、可燃ごみ減量化の一環として、全国自治体に先駆けて使用済み紙おむつの燃料化事業を推進している。町内の高齢者福祉施設や保育所から排出される使用済み紙おむつを専用装置でペレット化し、町営温泉施設のボイラー燃料として活用する取り組みだ。可燃ごみとして焼却していた事業系使用済み紙おむつを燃料材として資源化し、エネルギーの地産地消を進めて資源循環型社会の構築を図っている。

●Governance Topics

□土佐の一本釣り」カツオ漁の危機──高知県分析の〝衝撃データ〟で操業の工夫へ/葉上太郎
「土佐の一本釣り」として有名な高知県のカツオ漁だが、資源の減少などが原因となり漁船数が激減。もはや風前の灯火となっている。同県が全国のカツオ一本釣り漁としては初めて漁獲データを分析したところ、この5年間はほぼ赤字で推移するなど、残った船も危機的な状態にあることが分かった。県は分析をもとに、どうやれば利益が出るか検証するソフト開発を進めており、持続可能な操業へのサポートツールにしたい考えだ。

□国も適正導入の検討開始、重さを増す自治体の役割──太陽光発電設備めぐる紛争/河野博子
太陽光発電設備の設置をめぐり、全国各地の事業者と住民のトラブルは収まる気配がない。独自の条例を設ける自治体は計197にのぼり、改正により規制を強めたケースも目立つ。一方で、裁判の判決により、自治体条例の限界が明らかになるなど課題も多い。国は4省が事務局を務める「適正導入検討会」(*)で議論を重ねているが、都道府県と市町村の役割は重さを増している。
* 正式名称は「再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会」。

●Governance Focus

□持続可能な地域を「自分から」つくるための講座を開催──早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会
早稲田大学マニフェスト研究所の人材マネジメント部会の修了生(マネ友)の有志が中心になって企画したスキルアップ講座が7月23日、開催された。テーマは「持続可能な地域を『自分から』つくる」。午前・午後に3講座を実施し、参加者それぞれが地域や組織のありたい姿の実現に向け「自分から」実践していくためのヒントや気づきを与えてくれる場となった。

□「自治体職員のデジタル化」をテーマにシンポジウムを開催──第52回『都市問題』公開講座
(公財)後藤・安田記念東京都市研究所(理事長/小早川光郎・東京大学名誉教授)は7月23日、都内の日本プレスセンターで第52回目となる『都市問題』公開講座を開催した。テーマは「自治体職員のデジタル化――その可能性と限界」。自治体の事例もまじえながら、今後の自治体を取り巻くデジタル化について議論した。

□住民の福祉向上を目指した議会活動の実現に向けて──「政策サイクル推進地方議会フォーラム」キックオフ・シンポジウム
(公財)日本生産性本部は7月29日に都内の全国町村会館にて、「政策サイクル推進地方議会フォーラム」(座長/江藤俊昭・大正大学教授)のキックオフ・シンポジウムを開催した。このフォーラムは、これまで日本生産性本部が行ってきた地方議会改革の研究会を発展させたもので、政策サイクルの構築と作動をさらに推進するために設立。今後、地方議会議員、議会事務局職員、研究者等が学び合う新たなプラットフォームとしての役割を担う。

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える
『時代革命』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『応援消費――社会を動かす力』水越康介]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
五感を研ぎ澄まし呼吸のような手触りで──木地師・佐々木工芸(岩手県洋野町)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
アルプスに抱かれた田園地帯。美しい風景のもとで進む都市との協働/長野県箕輪町
□山・海・暮・人/芥川 仁
「好きなことで、おまんま食えれば」──千葉県安房郡鋸南町岩井袋
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
森・里・湖に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム──千年以上にわたり琵琶湖と共生する農林水産業(滋賀県・琵琶湖地域)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ
つがーるちゃん(青森県つがる市)
□クローズ・アップ
ペンキで化粧した石像を巡る──宮崎県えびの市、「田の神さぁ」信仰から観光へ


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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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