【Q&A】給特法と「教職調整額」

学校マネジメント

2024.08.21

 文部科学省の中央教育審議会特別部会が2024年5月、「「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」(審議のまとめ)を公表しました。

 審議のまとめでは、若手教師サポートのための新たな職の創設、小学校中学年についても教科担任制を推進、休息時間確保のための「勤務間インターバル」導入などを提言。さらに、教職調整額について「人材確保法による処遇改善後の一般行政職に比した優遇分の水準以上を確保するため、教職調整額の率は少なくとも10%以上とすることが必要」との方向性を打ち出しました。

 これを踏まえ6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)では教職調整額について「少なくとも10%以上に引き上げることが必要とした中教審提言を踏まえる」と明記され、教員給与特別措置法(給特法)の改正に向け前進した形です。

 本記事では、給特法上の「教職調整額」の制度のあらましについて、『教職員服務関係実務ハンドブック』に掲載中のQ&A解説を紹介します。

公立学校教育職員の勤務時間外における職務に関連する事務等の従事に対する損害賠償請求の可否

(『教職員服務関係実務ハンドブック』(4056-4059頁) ※内容現在 2023.10.1

事例
 京都市立小・中学校に勤務していた教育職員九人(第一審原告)は、平成一五年四月から一二月の間(八月を除く)、勤務時間外に職務に関する事務に従事したという。原告らは、この勤務時間外の職務に関連する事務等従事は、校長の黙示による職務命令によるものであり、改正前の「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下、「給特法」)及びこれに基づく京都府の関係条例に定められている「公立義務教育諸学校等の教育職員には、特別に定める事項以外は原則として時間外勤務は命じない」とする趣旨に反していると主張する。また、その学校の設置者である京都市(第一審被告)は、原告らの健康維持のため時間外勤務を防止する配慮義務を怠ったと主張して、原告らは被告京都市に対し国家賠償法に基づく損害賠償を請求した事案である。

■Q 一  「給特法」及びそれに関連する都道府県の給与条例について説明してください。 二  最近、公立学校の教育職員について仕事量の増大から、教育職員が児童生徒に関わる時間が大きく減少しているといわれますが、実情はどうなっていますか。時間外勤務を行ったのであれば、時間外勤務手当てを支給すべきなのでしょうか。あるいは、勤務時間管理の運用を改めるべきなのでしょうか。

■A 一  「給特法」は、昭和四六年に制定された法律である。戦後は長期間、公立学校教育職員の勤務時間の扱いについては、学校教育が教育職員の自発性、創造性による勤務に期待する面が強いとして、夏季休業期間等に割振られた勤務時間の扱いを含め、勤務の特殊性に応じて弾力的に運用・処理される傾向が強かった。そして、国においても、教育職員の超過勤務は原則として命じないとする指導方針がとられ、いずれの都道府県においても、教育職員については時間外勤務手当の予算措置が講じられていなかったのが実情であった。
 しかし、実態は教育職員が勤務時間外にわたって仕事を行う傾向が認められ、教員給与改善要求闘争の一環として、教職員組合の指導で、超過勤務手当ての支給を求めるいわゆる「超勤訴訟」が全国的に提起された。これらの訴訟の判決においては、超過勤務に対しては超過勤務手当てを支給すべきとするものであった。
 これらの紛争を踏まえ、昭和四六年二月八日、人事院は教育職員の超過勤務手当問題と勤務時間の管理の在り方について、政府に「意見の申出」を行った。その結果「給特法」が制定されたのである。
 その考え方は、「教育職員の勤務時間の管理については、教育が特に教育職員の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことを考慮し」、その職務を勤務時間の内外を問わず包括的に評価することとし、①校長、副校長、教頭を除く教育職員には、給料月額の一〇〇分の四に相当する額の教職調整額を支給する(同法三条一項)。②教育職員には、時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しない(同条二項)。③教育職員には原則として時間外勤務を命じないものとし、時間外勤務を命じ得るのは、イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務、ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務、ハ 職員会議に関する業務、ニ 非常変災等やむを得ない場合に必要な業務であって臨時又は緊急やむを得ない必要があるときに限る(同法六条、六条に基づく政令、都道府県の関係条例例には①〜③の内容が規定されている。)と定められたのである。
 いわば、研究職のフレックスタイム制やホワイトカラーの業務に認められた裁量労働制に似た制度である。
二  その後、子供たちが抱える困難が多様化・複雑化するとともに、保護者や地域の学校や教師に対する期待が高まっていることなどから、結果として教師の業務が積み上がり、教師を取り巻く環境は、我が国の未来を左右しかねない危機的状況にあると言っても過言ではない。
 このため、平成三一(二〇一九)年一月の中央教育審議会答申(「学校における働き方改革答申」)を踏まえ、令和元(二〇一九)年の給特法改正を踏まえた勤務時間の上限等を定める「指針」が策定されるとともに、小学校における三五人学級の計画的な整備や高学年教科担任制の推進等のための教職員定数の改善、教員業務支援員をはじめとする支援スタッフの充実、部活動の見直し、教員免許更新制の発展的解消、校務のデジタル化等の学校DXの推進など、様々な取組が総合的に進められてきた。
 その結果、教師の時間外在校等時間の状況は一定程度改善したが、依然として、長時間勤務の教師が多いという勤務実態が明らかとなっている。
中央教育審議会は、令和五年八月二八日、緊急提言を行い、教師を取り巻く環境整備について、直ちに取り組むべき事項として、国、都道府県、市町村、各学校など、それぞれの主体がその権限と責任に基づき、①学校・教師が担う業務の適正化の一層の推進、②学校における働き方改革の実効性の向上等、③持続可能な勤務環境整備等の支援の充実に、主体的に以下の各事項に取り組む必要があるとした。
 したがって、教師の時間外勤務手当を支給すべきか否かとの質問は、教師を取り巻く環境整備について総合的に取り組む中で検討すべき事柄である。

 

小学校教員が時間外割増賃金等の支払い等を求めた事例

(『教職員服務関係実務ハンドブック』(4067.2頁) ※内容現在 2023.10.1

事例
 給特法六条は教員に対して、原則として時間外勤務を命じないものとし、時間外勤務を命じる場合は「超勤四項目」に従事する場合に限るとしている。また、これを前提として同法三条では教員に対して教職調整額を支給して時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しないこととしているが、A県のB市立C小学校教員Dは、給特法上の時間外勤務手当を支払わない旨は「超勤四項目」についての時間外勤務命令があった場合に限られ、それ以外の業務について時間外勤務命令を受けこれに従事した場合は、労基法第三七条が適用され、時間外割増賃金の支払いが必要であるとして時間外割増賃金請求を起こした。加えて、C小学校の校長には、教員の労働時間を正確に把握して教員が勤務時間外に業務をせざるを得ない状況が存在する場合は業務量の調整や業務の割振り等の調整を行い労基法三二条に定めた労働時間を超えて労働させてはならい職務上の注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、小学校教員Dに長時間の時間外勤務をさせたことにより精神的な苦痛を与えたとして、A県に国家賠償法に基づき損害賠償を求めた。

■Q 一  そもそも、給特法上の「超勤四項目」の趣旨は何でしょうか。 二  労働基準法三七条は学校の教員に適用されるのでしょうか。 三  そもそも教職調整額とは何でしょうか。 四  労働時間を超えて教員が職務に従事した場合に、校長の職務上の注意義務違反を理由に国家賠償法で損害賠償を求めることは可能ですか。

■A 一  給特法が例外的に超勤を認めている四つの項目は、政令の基準に従って条例で定める四項目に限定している。それらは、…
<⇒続きは『教職員服務関係実務ハンドブック』でご覧いただけます。>

 

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