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Q&Aスクール・コンプライアンス

菱村幸彦

最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q104 児童生徒が給食中に食物アレルギーで急性症状を起こしたとき、教師は医師の指示がなくても緊急治療薬を注射することができますか。

NEW学校マネジメント

2021.02.04

最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第4章 学校運営のコンプライアンス

菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員

『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月

Q104 児童生徒が給食中に食物アレルギーで急性症状を起こしたとき、教師は医師の指示がなくても緊急治療薬を注射することができますか。

◯食物アレルギーの死亡事故

 平成24年に東京都調布市の小学校で児童が給食中に食物アレルギーでアナフィラキシー(アレルギー反応により生ずる呼吸困難、低血圧、意識不明、嘔吐などの急性で重篤な症状)に陥った際、教師が児童生徒に代わってエピペン®(アドレナリン自己注射薬)を注射することをためらったため、死亡する事故が起きました。

 事故検証委員会の報告書は、担任教諭がエピペン®を注射しなかったこと、養護教諭も食物アレルギーのアナフィラキシーであると考えずにエピペン®を打たなかったことを「初期対応を誤った」とし、教員が適切にエピペン®を注射していたら児童の命は守れたと総括しています。

 食物アレルギーでアナフィラキシーを起こすおそれのある児童生徒は、医師の処方によりエピペン®を携行又は学校に預託しているはずです。そのため、アナフィラキシーを起こしたとき、タイミングを逸しないで注射する必要があります。

 児童生徒が自己注射をできない状況にある場合、居合わせた教師が本人に代わって注射をすることになりますが、医師法17条で「医師でなければ、医業をなしてはならない」と規定しているため、教師としては、医師の指示なしに、児童生徒に注射をすることにはためらいがあります。

◯医師法違反とはならない

 この点について、平成21年7月、文部科学省からの照会に対して、厚生労働省医政局医事課長は、「アナフィラキシーショックで生命が危険な状態にある児童生徒に対し、救命の場に居合わせた教職員が、アドレナリン自己注射薬を自ら注射できない本人に代わって注射することは、反復継続する意図がないものと認められるため医師法第17条によって禁止されている医師の免許を有しない者による医業に当たらず、医師法違反にならない」旨の回答をしています。

 日本学校保健会が作成した『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン』(平成20年3月)では、エピペン®の使用について、「投与のタイミングとしては、アナフィラキシーショック症状が進行する前の初期症状(呼吸困難などの呼吸器の症状が出現したとき)のうちに注射するのが効果的である」と述べ、注射の方法やタイミングについて解説しています。

 文部科学省調査によると、平成20年から平成25年において、学校におけるエピペン®&の使用は408件あり、使用したのは、本人122件、学校職員106件、保護者114件、救急救命士66件となっています。すでに学校でもかなりエピペン®が使用されていることが分かります。とくに調布市の死亡事故があってからエピペン®の処方が増えているといいます。

 エピペン®の使用が重要であることは分かっても、また、それが医師法に反しないといわれても、教師としては、エピペン®注射による副作用などが起きた場合の責任問題を意識せざるを得ないでしょう。しかし、仮にエピペン®注射で副作用(小児では軽微といわれています)が起きて、賠償問題となっても、国家賠償法により、賠償責任を負うのは、学校の設置者であり、教員個人が負うことはありませんので、心配には及びません。

(注)「エピペン」に付された®はRegistered(登録された)商標の意

 

 

Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。

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最新 Q&Aスクール・コンプライアンス120選 ハラスメント、事件・事故、体罰から感染症対策まで

2020年10月 発売

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菱村幸彦

菱村幸彦

国立教育政策研究所名誉所員

京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等学校長などを歴任。著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ教育法規』『はじめて学ぶ教育法規』『やさしい教育法規の読み方』(いずれも教育開発研究所)など多数。

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