Q&Aスクール・コンプライアンス
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q30 勤務校と子どもの学校の入学式が重なる場合、子どもの入学式に出るため年休をとって勤務校を休むことは認められますか。
学校マネジメント
2020.12.03
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第1章 教職生活のコンプライアンス
菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員
(『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月)
Q30 勤務校と子どもの学校の入学式が重なる場合、子どもの入学式に出るため年休をとって勤務校を休むことは認められますか。
◯年休取得に賛否両論
平成26年4月、埼玉県の県立高校で新1年生の担任となった女性教諭が、長男の高校入学式に出席するため、年次休暇を取得して、勤務校の入学式を欠席したことがニュースになりました。
この女性教諭の行動をめぐって、世間では賛否が分かれました。多くは「担任の自覚が欠如している」と女性教諭を非難する意見でしたが、女性教諭の行動を支持する意見も少なくありませんでした。
このニュースを耳にしたとき、私は、自分が校長だったら、どうしただろうかと考えました。結論は、私も年休を承認しただろうと思いました。年休の法的性質からみて、不承認とすることが難しいからです。
年次休暇は、労働基準法39条に基づく勤労者の権利で、職員の労働力の維持培養を図るため、勤務を要しない日以外に年間の一定日数の休みを、職員の希望する時期に与え、かつ、その休みを有給とするものです。
問題は、年次休暇の申し出があった場合、校長は、必ず承認しなければならないか、どうかです。この点について、かつて形成権説と請求権説が争われました。形成権説とは、年次休暇は労働者の一方的意思により成立するという考え方で、この説によれば、教職員が校長に年次休暇を届ければ、校長の承認のあるなしにかかわらず、年休が有効に成立することになります。
一方、請求権説とは、年次休暇は使用者の承認があって成立するとする考え方です。この説では、教職員が年次休暇を請求しても、校長の承認がなければ成立しません。
公務員が年次休暇を使ってストライキを実行した時代、この論争が盛んでしたが、最高裁判決 (昭和48年3月2日判決)で、「使用者が、客観的に事業の正常な運営に妨げがあることを理由に、時季変更権の行使をしない限り、労働者の指定により年次休暇が成立する」旨を判示し、この論争にひとまず終止符が打たれました。
要するに、勤労者が年次休暇を届け出た場合、客観的に事業に支障があるときにのみ、使用者はその時季を変更させることができるが、使用者が時季変更権を行使しなければ、年次休暇は勤労者の指定により有効に成立するというわけです。これは時季指定権説と呼ばれています。
◯校務運営上の支障の有無
では、どのような場合、事業の正常な運営を妨げることになるのかです。これはケース・バイ・ケースで判断することになりますが、一般的には、校務の繁閑、その教職員の学校における職務上の地位、担当する職務の内容、代替要員確保の難易などを総合的に判断した上で、時季変更権を行使するか否かを決めることとなります。
公務員がストライキに参加するため年休を請求するような場合は、明白な違法行為ですから、校長は年休を認めることはできません。しかし、たまたま一人の教員が入学式に欠席することをもって、客観的に学校の正常な運営を妨げるとは言い難いでしょう。まして、その教師にとっては生涯に一度しかない長男の高校入学式への出席です。校長として、その申請に時季変更権を行使することは難しいというべきでしょう。
Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。