スクールリーダーの資料室
スクールリーダーの資料室 今後の主権者教育の推進に向けて(中間報告)
トピック教育課題
2021.01.30
2.主権者教育の推進の方向性
◯ 主権者教育推進会議では、1(3)で示した課題を踏まえ、主権者教育の推進方策として、①各学校段階での主権者教育の充実、②家庭・地域における主権者教育の充実、③主権者教育の充実に向けたメディアリテラシーの育成の観点から、以下の提言をまとめた。国に対しては、これら提言を踏まえた施策の着実な推進を期待するものであるが、加えて、本主権者教育推進会議で収集した好事例を周知し取組の横展開を図る中で、学校関係者が主権者教育の重要性を共通認識しながら、それぞれの取組の充実につなげていくことを期待するものである。
※主権者教育推進会議の審議の過程では、例えば、次のような取組が報告された。
【学校教育における取組】
◯ 小・中学校段階からの政治的教養を育むことを目指した指導資料や事例集作成の取組(神奈川県教育委員会)
◯ 小学校段階での児童会活動を通した自治的活動を基盤としながら、中学校段階における、これからの地方自治についての施策提案につなげる「市民科」の取組(品川区教育委員会)
◯ マニュフェストの作成など、大学との連携による模擬選挙の工夫(品川区立宮前小学校)
◯ 権利には責任が伴うとの観点から、ある権利について何歳になれば与えられるのが適当かを考え意見をまとめる中で、権利と責任について考える授業(玉川学園中等部)
◯ 実際の選挙公報を用いて各政党の政策について様々に意見を出し合い模擬投票を行う取組(玉川学園高等部)
◯ 生徒により模擬家族を構成し与えられた立場から候補者の政策を比較衡量し模擬投票を行う取組(渋谷教育学園渋谷中学高等学校)
◯ 「決め方」をテーマに6種類の候補の中から、給食のメニューを決める活動を通して、選挙、多数決以外にも様々な決め方があることを考えさせる授業(東京都立国際高等学校)
◯ 外国における女性の政治参加割合や制度を例に、アファーマティブアクションを基に議論し考察させる授業(東京都立国際高等学校)
◯ 模擬区長選挙として、生徒の中から選出された候補者による政策の演説、聴衆である生徒との質疑応答を経て、投票につなげる取組(足立区立第四中学校)
【家庭・地域における取組】
◯ 家庭教育アドバイザーをファシリテータとしながら、乳幼児の保護者、小中高校生の保護者などを対象にした講座を行う「親の学習事業」の取組(三郷市教育委員会)
◯ 地域の人と協力して国道バイパスの環境を整える美化活動や全校生徒と共に資源回収を行う「奉仕の日」の設定など、学校と地域をつなぐ取組(新居浜市立泉川中学校PTA)
◯ PTAと地域との連携を基盤に「中学生理事」による地域の公民館活動への参加を促す取組(郡上市立八幡西中学校PTA)
◯ 18歳からの投票立会人を募集したり、初めて投票した者に記念証書を渡したりするなどの取組(足立区選挙管理委員会)
【メディアリテラシーの育成に関わる取組】
◯ 小学校の夏休みや授業の宿題として、新聞記事について保護者や友達と感想を交換し、自分の考えをまとめる取組(三郷市教育委員会)
◯ 新聞記事を読んで感想を書き、記事の内容について家族や友人と話し合い、意見を聞いて書き、話し合いを通じて自らの意見がどう変わったか、変わらなかったかを書く新聞コンクールの取組(一般社団法人日本新聞協会NIE委員会)
(1)各学校段階での主権者教育の充実について
新高等学校学習指導要領では、現実社会の諸課題について追究したり解決したりする学習を通して、自立した主体として社会の形成に参画するための資質・能力を育成する共通必履修科目「公共」が設置され、小学校や中学校においても主権者教育に関わる内容の充実が図られたところである。この新学習指導要領の下で、各学校段階での主権者教育を充実することが重要である。
具体的には、国において、①小学校・中学校・高等学校におけるモデル校での実践研究、②児童生徒向けの副教材や教師向けの指導資料を開発すること等が求められる。その際、各学校において、働き方改革の観点を踏まえつつ、例えば、児童生徒の議論を活性化する上で必要なファシリテーションに関する指導方法の開発など、効果的な指導を行うために必要な力量形成を教師に図ることが可能となるよう、その内容を工夫することが重要である。
① 小学校・中学校での取組の充実について
【現状と課題】
◯ 新学習指導要領の下、小学校・中学校段階から主権者としての意識の涵養につながる取組を推進することが重要である。
【提 言】
(モデル校での実践研究、副教材や教師向けの指導資料の作成)
◯ 国において、以下の観点から、①モデル校での実践研究、②児童生徒向けの副教材や教師向けの指導資料(教員研修でも活用できるもの)の開発を行う。
(研究内容等)
・ 児童生徒が社会で起きている事柄に興味・関心をもち、社会の形成に参画する基礎を培うため、学校の所在地や自分たちの住む市区町村の政治、経済並びに地方自治など地域の関係諸機関と連携した身近な地域に関わる学習の充実を図る。
・ 社会で起きている事柄について、実感をもって考えさせる観点から、現実の具体的な事象(政治的、社会的事象)を模擬的に取り上げたり、議論を通して多面的・多角的に考えさせたりすることができるよう、児童生徒の発達の段階に応じた取組の充実を図る。
② 高等学校、大学等での取組の充実について
【現状と課題】
◯ 高等学校では、自立した主体として社会に参画するために必要な資質・能力を育成する必履修科目「公共」が新設された。引き続き「私たちが拓く日本の未来」の活用の推進とともに、新学習指導要領の下での指導の充実が求められる。
◯ 大学等での取組が充実することも重要である。
【提 言】
(モデル校(高等学校)での実践研究、大学等における選挙啓発などの取組の充実)
◯ 以下の観点からモデル校(高等学校)での実践研究を行い、新設された「公共」の下での取組の充実を図る。
(研究内容)
・ 現実の具体的な事象(政治的、社会的事象)を取り上げたり、模擬的な活動(模擬選挙、模擬議会など)を展開したりするに当たっての指導方法の工夫改善
※特に、現実の具体的な事象を取り上げる際には、例えば、異なる立場の主張、他者の利益や損失なども考慮にいれるなど生徒が多面的・多角的に考え、議論を展開できるような工夫を講じることが重要。
・ コーディネーターの活用を含め、専門家や関係諸機関などとの連携・協働を円滑に進めるための方策の開発
◯ 大学等における期日前投票や不在者投票の周知の工夫を含めた選挙啓発に向けた取組や主権者としての意識の涵養に向けた好事例を収集し横展開を進める。
③ 学校段階等間や教科等間の連携の充実について
【現状と課題】
◯ 新学習指導要領の下、各学校段階等間での主権者教育を推進するためには、幼児期から高等学校段階までの学びの円滑な接続、関係する教科等間での連携など、学校種や教科等を越えた連携を推進することが求められる。
◯ 特に、教科等間の連携については、社会科、公民科のみならず、特別の教科 道徳、総合的な学習(探究)の時間、特別活動(特に児童会、生徒会活動、ボランティア活動などの学校行事)について新学習指導要領に示す既存の内容のうち主権者教育に関わる内容相互の関連を図るなど、児童生徒の学習負担にも配慮しつつ教育課程全体としての取組を工夫することが求められる。
【提 言】
(モデル校での実践研究)
◯ 国において、以下の観点から実践研究を行い、学校段階等間や教科等間の連携による主権者教育の取組を充実する。
(研究内容)
・ 小学校・中学校の社会科における学習と高等学校公民科の必履修科目「公共」における学習との円滑な接続を図ったカリキュラムの開発
・ 幼稚園、小学校、中学校、高等学校の設置者の異なる校種間での連携方策
・ 社会科、地理歴史科、公民科や家庭科、特別の教科 道徳、総合的な学習(探究)の時間や特別活動(学級・ホームルーム活動、児童会・生徒会活動、学校行事等)それぞれの特質に応じた主権者教育の取組の工夫と、相互の関連を図った教科等横断的なカリキュラムの開発
(2)家庭・地域における主権者教育の充実について
◯ 子供たちの主権者としての意識を涵養するためには、人格形成の基礎が培われる幼少期からの取組が大切である。そのため、子供たちが多くの時間を過ごす家庭や地域も、主権者教育の場として重要であり、家庭や地域における取組の充実が重要である。その際、学校、家庭、地域、企業などの多様な主体の連携・協働により、社会全体で取り組むことが重要である。
具体的には、国において、①家庭教育支援の充実や全国各地のPTA団体と連携した普及啓発活動、②多様な主体の連携・協働体制の構築と活動への支援、教材や情報の提供及び実践事例の横展開を行うこと等が求められる。
① 家庭における取組の充実について
【現状と課題】
◯ 家庭においては、人格形成の基礎が培われる幼少期から、社会との関わりを意識する機会を増やすことが重要である。
【提 言】
(家庭における主権者教育への支援)
◯ 保護者への学習機会の提供、親子参加型の行事の実施への支援を行うとともに、地域の実情に応じた取組の中から、主権者教育に資する取組事例を収集し、横展開を図る。
◯ 家庭における主権者教育を推進するためには、学校との連携が大切であり、学校と家庭をつなげるPTAの役割は大きいことから、全国各地のPTA団体と連携し、親子連れ投票や親子議会見学、学校であるテーマを設定し、家庭で政治的・社会的事象を話し合う機会を提供するなどの取組を通して、主権者としての意識の涵養に向けた普及啓発活動を実施する
◯ 家庭において新聞に触れつつ社会的事象を話し合う機会を創出するため、学校との連携により、学校で新聞記事の切り抜きを用意し、家庭で話し合う機会を提供するなど家庭におけるNIE推進の取組について、取組事例を収集し、横展開を図る。
② 地域における取組の充実について
【現状と課題】
◯ 地域においては、身近な地域の課題などを知り地域の構成員の一人としての意識を育み、地域の課題解決に主体的に向き合うためには、地域の教育資源を活用した教育活動、体験活動や地域行事等に、社会の一員として主体的に参画できる機会を増やすことが重要である。
◯ 地域において社会全体で主権者教育を推進する機運を高めるためには、学校、家庭、地域、企業などの多様な主体の連携・協働による取組が重要である。
【提 言】
(多様な主体による連携・協働の推進)
◯ PTA、自治体、社会教育関係団体、企業、NPO等の様々な主体相互の連携・協働により、社会総がかりで子供たちを育てる地域学校協働活動とコミュニティスクールを一体的に推進し、子供たちが地域を取り巻く課題の解決に取り組む機会を増大させるとともに、取組事例を収集し、横展開を図る。
◯ 各地で行われている実践のノウハウや人材を有効に活用しつつ社会全体で主権者教育に取り組むため、総務省、明るい選挙推進協会やその他関係団体と連携し、主権者教育に関する各種動画やパンフレット等の教材・資料のほか、主権者教育に関する講師の派遣制度などの様々な主体の有用な情報を周知し、社会教育関係施設・団体等の活動を推進する。
◯ 公民館等の社会教育施設における主権者教育に資する取組の実践事例を収集し、横展開を図る。
(3)主権者教育の充実に向けたメディアリテラシーの育成について
◯ 主権者として現実社会の諸課題について、多面的・多角的に考察を深めるには、豊富な資料や多様なメディアを活用し、必要な情報を適切かつ効果的に収集し、解釈する力が求められる。また、その際、情報の妥当性や信頼性を踏まえた公正な判断力を身に付けることが重要となる。
具体的には、国において、①モデル校における効果的な指導方法の開発、②学校、家庭におけるNIEの推進を通して、こうした主権者教育の充実に向けたメディアリテラシー育成の取組を推進することが求められる。
【現状と課題】
◯ 主権者教育の第一歩は社会への関心を持つことにある。子供たちが日常的に現実社会の諸課題に関心を持つことができるよう、学校、家庭で、多様なメディアが発信する情報に触れて考える機会を充実することが重要である。
◯ 新聞やテレビ、ネット記事やSNSなどのインターネットの情報など膨大かつ多様な情報が子供たちを取り巻いている現状を踏まえ、多様なメディアの特性に応じて、適切かつ効果的に必要な情報を収集できるようにすることが重要である。
◯ 主権者として現実社会の諸課題について、多面的・多角的に考察を深めるには、収集した情報の妥当性や信頼性を踏まえて公正に判断し自分なりの意見を持つこと、自分たちが社会を作っていくというと当事者意識を持つことが重要である。
【提 言】
(モデル校における効果的な指導方法の開発)
◯ 国において、①多様なメディアの特性に応じて、適切かつ効果的に必要な情報を収集したり、②収集した情報の妥当性や信頼性を踏まえて公正に判断し自分なりの意見を持つこと、自分たちが社会を作っていくという当事者意識を持てるようにしたりするための指導方法の開発を行い主権者教育の取組を充実する。(例えば、SNSなどインターネットを介してはじめに収集した情報を基に、新聞やテレビ等により情報を掘り下げて収集し、その妥当性や信頼性を踏まえて自分の意見をまとめる活動等)(学校、家庭におけるNIEの推進)
◯ 家庭において新聞に触れつつ社会的事象を話し合う機会を創出するため、学校との連携により、学校で新聞記事の切り抜きを用意し、家庭で話し合う機会を提供するなど、家庭におけるNIE推進の取組について、取組事例を収集し、横展開を図る。※(2)①再掲
(4)社会総がかりでの「国民運動」としての主権者教育推進の重要性
◯ 以上、現時点において、主権者教育推進会議として、主権者教育の推進に必要と考えられる取組を「提言」として示してきた。これら提言の実現のためには、学校関係者のみならず各界各層を含めた社会総がかりでの取組、いわば「国民運動」として主権者教育推進の取組を展開することが併せて重要である。
(5)今後の検討課題
◯ 今後、最終報告に向けての主権者教育推進会議としての残された検討課題としては以下のものなどがある。
①大学段階における主権者教育の在り方
②教員の養成、研修の在り方
③教育現場における政治的中立性の担保の方策
④その他(例えば、選挙における選ばれる側の役割など)
など