「社会に開かれた教育課程」は未来に何を残せるか コミュニティ・スクールと「社会に開かれた教育課程」

トピック教育課題

2020.08.31

「社会に開かれた教育課程」は未来に何を残せるか
コミュニティ・スクールと「社会に開かれた教育課程」

日本大学教授
佐藤晴雄

『新教育ライブラリ Premier』Vol.1 2020年5月

学校に求められる社会の激しい変化への対応

(1)「社会に開かれた教育課程」は学校経営にも関わる理念である
 「社会に開かれた教育課程」は、教育課程の改善に留まる考え方ではありません。それは、地域の教育資源の活用や社会教育との連携によって、「学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること」が求められます(中教審「学習指導要領の改善等答申」)。つまり、「変化の激しい社会」を想定した未来志向の学校改革の方向性を示す概念であり、また社会とのつながりを重視した学校経営の課題にも位置付けられます。

 同時に、それは地域が学校に関わることを通して地域教育力の向上と持続可能な地域社会づくりを目指すアイデアでもあります。

(2)学校は社会的変化に即応困難か
 学校が地域社会に閉ざされるようになったのは、昭和30年以降の高度成長とこれに伴う都市化現象の影響があります。さらに、昭和33年改訂の学習指導要領は、国家的基準性を強めたことから、「地域性」の原則が「国民として身につけるべき『共通性』の原則にとって代わられ」ました(児島1989)。その後、学校は受験の激化に伴い、国家基準に沿う教育が強く求められ、ますます地域性を失い、社会の変化への即時的な対応が困難になりました。

 また、教育課程は、約10年ごとの学習指導要領改訂では社会の変化に対応しにくくなっています。しかし、学習指導要領を数年ごとに改訂するのは現実的ではないため、社会に開くことによって社会の変化に対応し、地域社会と目的を共有するよう提言されました。そうした取組を効果的に展開する仕組みこそがコミュニティ・スクール(以下、CS)なのです。

コミュニティ・スクールの新たな役割

 CSは近年急増傾向にあり、2019年5月には7601校に達しました。CSに設置される学校運営協議会は法的には保護者や地域関係者などが学校運営に参画する仕組みでしたが、法改正によって、「学校の運営及び当該運営への必要な支援に関して協議」する仕組みであることが追記されました。

 CS制度化以前の学校は地域連携の仕組みをもたないため、任意の努力と工夫によって連携に取り組んでいましたが、新たな役割を担うCSの活用によって連携を継続的・効率的に展開できるようになります。

 実際、教育課程や地域人材活用を協議している学校運営協議会が多く見られます(佐藤2019)。学校運営協議会は学校が目標やビジョンを地域と共有する場になり、地域人材・環境を発掘し活用する役割を果たすことによって、「社会に開かれた教育課程」の実現を具体的に進めるための役割が期待されます。

学校運営協議会の活用法

(1)学校運営協議会の二つのタイプ
 学校運営協議会は、委員構成からみると二つのタイプに分けられます。一つは、保護者・地域代表などの利害関係者の意向や情報の聴取に重きを置くタイプで、全国のCSの圧倒的多数を占めます。学識委員が加わっても1、2名、専門的な協議よりも、地域に根付いた協議が期待できます。

 もう一つは、多様な分野に属する委員を中心に構成されるタイプです。筆者が属する学校運営協議会は、医師・カウンセラー・スポーツ関係者・大学教員・自治会長・保護者から構成されていますが、社会福祉士や法律関係者、企業経営者などが委員になる例もあります。学校にとってのシンクタンクになり得る専門家組織であり、高校や特別支援学校に比較的多くみられますが、全国的には少数派に属します。

(2)CSのツールとしての活用法
 「社会に開かれた教育課程」の取組については、地域社会のニーズにどう応えるかという場合には前者が適していることになり、どのように開くかという場合に後者が適することになるでしょう。そうは言っても両タイプには保護者・地域委員と学識の委員が存在するので、それぞれの委員の特性に応じた関わり方について述べておくことにします。

 教育課程は学校運営協議会による承認事項として扱われるのが一般的です。したがって、校長による教育課程全般の説明がなされ、その後に質疑という形を取ります。近年は、委員(属性を問わず)と教職員による「熟議」を通じて「めざす子ども像」などを定めて、これを教育課程の目標に反映させる取組もみられます。

 また、教育課程を協議事項にする場合、多くの保護者・地域委員は各教科の時間配分や単元の扱い等に熟知していないため、その関心は重点目標や特別活動(特に、学校行事)などの教科外課程や教科横断的な教育に向けられます。なお、大学教員などの学識経験者の委員には教育課程の在り方について助言を得ることができます。

 保護者・地域委員も学校からの求めがあれば、授業の在り方に意見を出してくれます。実際、多くのCSでは地域人材の巻き込み方を議題にしています。ゲストティーチャーなどの人材の情報や紹介、あるいは委員自身がボランティアとして活動する例も珍しくありません。また、地域で行う校外学習には地域環境に詳しい地域委員から安全確保に関わる情報を得ることもあります。

 CSは導入すれば自ずと成果が得られる仕組みではありません。多くの事例をみると、それを学校改善のツールとして積極的に活用しようと工夫を凝らし、努力している学校では高い成果が得られる傾向にあります。したがって、CSの活用は管理職のリーダーシップの在り方が問われる課題になると言えます。

 

[註]

・児島邦宏「学校にとって地域とは何か」亀井浩明・児島邦宏編著『地域と結ぶ学校』教育出版、1989年

・佐藤晴雄『コミュニティ・スクール-増補改訂版』エイデル研究所、2019年

 

Profile
佐藤晴雄(さとう・はるお)
 日本大学文理学部教育学科教授。東京都大田区教育委員会、帝京大学助教授などを経て2006年から現職。中央教育審議会専門委員(初等中等教育分科会)、文部科学省コミュニティ・スクール企画委員、日本学習社会学会会長などを歴任。博士(人間科学)大阪大学。日本教育経営学会理事など。主な著書に、『コミュニティ・スクールの成果と展望』(ミネルヴァ書房)、『教育のリスクマネジメント』(時事通信社)、『新・教育法規解体新書』(東洋館出版社)ほか多数。

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