学校改革の新定石Ⅱ

西留安雄

学校改革の新定石Ⅱ[第9回]運動会のリニューアル

トピック教育課題

2019.08.27

学校改革の新定石Ⅱ
[第9回]運動会のリニューアル

新教育課程ライブラリII Vol.9 2017年9月

 ここ数年、運動会の組体操の事故が問題となった。スポーツ庁は2016年3月に「確実に安全な状態」でなければ実施しないようにと自治体に通知した。これを受け、教育委員会が自治体レベルで演技を制限したり、学校に判断を委ねてきた。この通知は大事なことだが、子供の「主体的・対話的で深い学び」は、どこへいったのか気になる。教師の一方的な指導で完成した組体操は、保護者受けはよい。だが、子供に何が残るだろうか。

 さて、運動会を考えてみよう。これまでの同一学年同一種目、教師主体の表現指導(リズム)、練習、練習、本番の運動会。こうした運動会の在り方に疑問をもったことがあるだろうか。運動会も授業と同様、子供が「主体的」「協働的」に行う活動のはずだ。だからこれまでの教師主体の運動会を見直す時期ではないだろうか。かつての勤務校で大きく方針を転換した運動会を紹介する。

これまでの運動会の課題

 練習のための特別時間割を組み、膨大な時間を使って本番を迎える。教師中心の教え込みの指導が多く、見栄え中心の内容となっている。そのため教師満足に陥りやすい。また、係り活動の責任者は教師であり、本番の日は学級の子供のそばにいないなどの課題があり、問題が発生しやすい。

リニューアル運動会

〇原理・原則

・種目は子供が自ら判断し選択をする。

・最少の準備や短い練習時間とし特別時程は組まない。決められた範囲内で練習を行う。

・開会式や閉会式の練習は、朝礼台に乗る子供と担当する教師だけで行う。

・全体練習は、全校競技のみとする。

・教師は子供と向き合う児童係(応援係)とし、係りの仕事は、中学生と地域ボランティアがこれまでの教師の役を担う。

・演技図、ライン図、放送原稿、用具図は作成しない。当日も普段の練習の通り、学年で準備物を用意し後片付けを行う。

・プログラムの作成に時間をかけないよう「永久プログラム」を導入する。

・放送原稿の作成に時間をかけないため、「永久放送原稿」を用意する。標準的な内容のアナウンス文とし、それ以上に放送したい場合は学年で行う。

〇運動会の表現活動

 かつての勤務校の運動会のダンスや組体操の表現は、指導者が1、2か月前に考えたことを子供たちが教わる形であった。このことを反省し、子供が創作する表現活動に変えた。

・朝会で話した内容

「これまでの運動会の表現は、先生が考えたことを皆さんが教わる形で発表していました。すばやく完成させるにはよい方法でした。ですが、運動会の本来の目標であります皆さんが創り上げる主体的な表現ではありませんでした。これからは、先生の手を借りず皆さんが主体的に創る表現活動にします。

 2月に5年生一人一人がどんな表現にするかを考えます。同じ考えの人同士が4グループに別れ表現を創り上げていきます。3月にグループで考えた表現活動を2年生以上の皆さんに提案をします。2年生以上の人たちは、自分の好きな表現活動を選びます。表現活動は、皆さんが選びますので、次の学年も同じ内容を選んでも構いません。4月からグループを作り、練習をしていきます。自主練習が中心となります。練習したことを運動会の日に発表をします。上学年の皆さんは、下学年の仲間に上手に教えて下さい」

 教師は、「永久放送原稿」「永久プログラム」等が導入されたことにより仕事が少なくなった。演技図も書かなくて済みゆとりが出た。担任は、一日中、学級の子供のそばにいることができ、子供と一緒に運動会を楽しめた。教師も子供も運動会疲れにならずに済んだことは大きな成果だ。このことにより、子供がこなす行事から自ら取り組む行事に変えることができた。

 教師は、運動会終了後に(D)・評価(C)・改善策(A)について立ったままのワークショップで振り返りを行った。一役一人制の運動会の担当者は、ワークショップを受け、次年度の案(P)を翌日には提案することができた。その案は、事案決定システムを経て直近の職員の打ち合わせにおいて周知を図れた。

リニューアル運動会の成果

 運営方法を大きく変えたことにより、教師にゆとりが生まれた。また、子供の自主性を育み2月から動き出す表現活動は、これまでの学校常識を大きく変えた。何よりも表現の発表後の子供の満足感は大きかった。このことで指導方法を変えられない教師も変わらざるを得なかった。こうした取り組みで指導者の運動会の認識が大きく変わった。学習指導要領が変わる今日、運動会の在り方を検討する絶好な時期であることは確かだ。

 

Profile
西留安雄
にしどめ・やすお 東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。大岱小では校長在任中に当時学力困難校といわれた同校を都内トップ校に育てた。現在、高知県・熊本県など各地の学力向上の指導に当たり、授業・校務の一体改革を唱える。主著に『学びを起こす授業改革』『どの学校でもできる!学力向上の処方箋』など。新刊『アクティブな学びを創る授業改革』が好評刊行中。

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特集 移行措置期の学校づくりを考える

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清瀬富士見幼稚園長

東京都東村山市立東萩山小学校長、同大岱小学校長を経て、東京都清瀬市の清瀬富士見幼稚園長。

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