国際教員指導環境調査(TALIS)2018発表を受けて―世界の中の日本の小学校・中学校を教員環境から考察

トピック教育課題

2019.06.21

 経済協力開発機構(OECD)は2019年6月19日、国際教員指導環境調査(TALIS)2018の結果を発表した。6月20日付の新聞各紙でも、教員の勤務時間は最長、児童・生徒へのICT活用割合が低い、創造力や批判的思考力を鍛える指導も見劣りなどのポイントを報じている。ここでは、今回発表された国際比較データの一部を紹介しながら日本の小学校・中学校の現在について詳しく見ていきたい。

国際教員指導環境調査(TALIS)とは

 国際教員指導環境調査(TALIS)は、経済協力開発機構(OECD)が実施している学校の学習環境と教員・校長の勤務環境に焦点を当てた大規模な国際調査である。正式名称はTeaching and Learning International Surveyであり、略してTALIS〈タリス〉と呼ばれる。2008年、2013年、2018年と5年おきに実施され、日本は2013年の「中学校」段階の調査から参加している。今回2018年調査では、日本は「中学校」に加えて、初めて「小学校」段階の調査にも参加した。

 OECDが進めている生徒の学習到達度調査(PISA)がよく知られているが、こちらは15歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について調査したもの。学校や教員の環境の面から分析した国際教員指導環境調査(TALIS)は、生徒の学習を対象とした調査とは違った参加各国の教育の現在を映し出すものとなっている。

男性割合が高い日本の学校教員

 日本の中学校の女性教員の割合は42.2%、日本の小学校の女性教員の割合は61.4%だった。小学校では女性が男性より多い結果となったが、日本の中学校、小学校ともに女性教員の割合は参加国中最も低い割合となった。

 校長の性別については、日本の中学校の女性校長の割合は7.0%であり、参加国中最も低い。また、日本の小学校の女性校長の割合は23.1%で中学校より高いが、参加国中2番目に低い割合となった。

 日本の中学校の校長の年齢は58.0歳であり、韓国の58.7歳に次ぎ、参加国中2番目に平均年齢が高いという結果だった。ちなみに参加国平均は51.4歳だった。

比較的に落ち着いた日本の学級

 日本の小学校・中学校における学習の規律と学習の雰囲気は、いずれも参加国と比べると落ち着いたものとなっていることがうかがえる。

 日本の中学校において「授業を始める際、生徒が静かになるまでかなり長い時間待たなければならない」とした教員の割合は11.4%であり、5年前の調査結果14.7%より3.3ポイント低い結果となった。また日本の小学校で「授業を始める際、児童が静かになるまでかなり長い時間待たなければならない」とした教員の割合は16.4%である。

 一方、日本の中学校において「この学級の生徒は良好な学習の雰囲気を創り出そうとしている」とした教員の割合は85.2%であり、5年前の調査結果80.6%より4.6ポイント高い結果となった。

自己評価の低い日本の中学校教員

 日本の中学校教員が、教員になる際の動機として重要だと回答したもののうち、もっとも高い割合を示したのが、「教職に就けば、子供や若者の成長に影響を与えられるということ」で、89.0%だった。この項目は参加国平均においても最も高い割合を示していた。

 一方、気になるデータが、日本の中学校教員が感じている自己効力感の低さである。「生徒に勉強ができると自信を持たせる」に「かなりできている」「非常に良くできている」と回答した割合は24.1%に止まった。これは参加国中最も低い結果であり、参加国平均は86.3%だった。また、「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」に「かなりできている」「非常に良くできている」と回答した割合は30.6%との結果に。参加国平均は72.0%だった。

新しいものに積極的な日本の教員の一面も

 日本の学校教員は新しいものに積極的、好意的という傾向もみられた。日本の中学校の教員が変化や革新に対する同僚の態度について、「この学校のほとんどの教員は、指導や学習についての新しいアイデアを発展させる努力をしている」との見解を示した割合は81.7%を占め、参加国平均80.2%をわずかに超えた。日本の小学校の教員はこの傾向が顕著で、89.7%を占めた。変化や革新に関する回答項目のうち、日本は参加国平均を下回る項目もみられたが、全体的に高い割合を示していた。

2018年の国際教員指導環境調査を分析した書籍の刊行

 (株)ぎょうせいはこのほど、教員環境の国際比較結果を分析した『教員環境の国際比較 OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書 学び続ける教員と校長』(国立教育政策研究所、2019年6月・詳細は書名をクリック)を発行した。ここではその一例を紹介してきたが、「新学習指導要領に基づく授業改善」と「学校における働き方改革」が同時に求められている今、学校教育関係者にとって今後の施策推進の根拠となる貴重なデータ集になることだろう。

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学校の学習環境・勤務環境について世界48か国の教員・校長に対して行われた国際調査の結果を約100点の図表に基づき端的に分析

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