ここがポイント!学校現場の人材育成
ここがポイント!学校現場の人材育成[第6回]学校現場におけるOJTによる人材育成〈その3〉
学校マネジメント
2019.02.10
ここがポイント!
学校現場の人材育成
[第6回]学校現場におけるOJTによる人材育成〈その3〉
明海大学副学長
高野敬三
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月)
●本稿のめあて●
前号でとりあげたOJTの実施に関して、今回は、学校で考えらえる実際の場面に即して、OJTを有効に進めるポイントについてみていきます。
OJTの実施の場面
前号では、OJTの実施体制、計画の策定・実施や成果検証について紹介しました。OJTの実施に際しては、体制を整備して計画を策定することは大切ですが、組織的な体制を整備して計画策定だけで終始してしまっては、意味はありません。前号では、OJT実施について、育成される側が主体的にOJTに取り組めるように、常に意識付けを図るとともに、「育成する側が結果や答えをすぐに与えず、教員が自分で考える場面設定をしたり適切な問いかけをしたりして、教員自身の気付きを促すことが大切です」と述べました。
今回は、都教育委員会が示したOJTを有効に進める場面に分けてそのポイントについて詳解します。
山本五十六氏の名言である、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」に通じるものがあります。
場面①:先輩や上司の日常的な助言や仕事ぶりから学ばせる
この場面は、学校現場ではつくりやすいものです。具体的には、校長、副校長や先輩である主幹教諭・主任教諭又は先輩教諭などが自分の職務を行う中で仕事ぶりを見せ、OJT対象者が学び取るものです。ここでのポイントとしては、
①理由を理解させる
育成する側は、指導する際に手順や方法を説明したり相手の不十分な点を指摘する場合、理由を丁寧に説明することに努めます。育成される側は意味が分からずに指示どおりに動くこともありますので、理由を理解させることが重要です。
②質問や報告を適時・適切に行わせる
指導・助言の際は、相手に一方的に伝えるだけではいけません。分からない点を質問させたり確認の言葉が必要です。また、育成される教員に実践の途中経過などを報告させることにより、育成する側が次の対応を考えたり必要な助言を与えたりすることが効果的になります。
③見せてイメージを膨らませる
適切な指導・助言を伝えたとしても、育成される側にとって具体的なイメージがつかめない場合は、行動にはつながりません。児童・生徒への指導方法を伝えるときは、言葉での説明を繰り返すより、実際の場面を見せた方が効果的な場合があります。また、資料や具体物などがあることによって、より正確により早く伝えることができます。この場合、ただ見せるだけではなく、相手が何に気付いたか、どう理解したかを確認する必要があります。
④相手の状況に合わせて段階的に教える
意識的・計画的・継続的にOJTを行いますが、同じ経験年数の育成される側の教員であったとしても、それぞれの能力や資質は異なります。指導・助言が本人に理解されているかを確認したり一緒に振り返りを行うことが大切です。
場面②:新たな職務を経験させる
それまで経験したことのない職務を担当させることは、人材育成上の観点から極めて重要なことです。やみくもに経験させるのではなく、意識的・計画的・継続的に行うことが肝要です。同一分掌の中でより困難度や難易度の高い職務を経験させる、新たな分掌を経験させることなどが考えられます。ここでのポイントとしては、
①職務を経験させることの意義を自覚させる
職務を通して教員に期待することを伝え、その職務が学校運営上どのような位置付けで、どんな役割を果たすのか、意義を考えさせます。それにより、育成される側は、自分への期待や役割が分かり意欲が向上します。
②課題を発見させる
新たな職務を経験させる際には、その職務にどのような課題があるかを新たな視点で捉えさせます。方法は様々です。課題について説明する、前年度の学校評価から読み取らせることも工夫の一つです。
③提案させる
口頭で伝えるだけのものであっても、その内容が職務についての方針や計画、方法、役割分担等に関するものであれば十分提案と言えます。提案させることは、学校運営上必要とされる様々な要素を考えなければできないものであり、育成の機会にもなります。
④実施後の成果や課題を確認させる
育成する側が育成される側の教員に対し、「よかった点やうまくいかなかった点は何か」「それはどうしてか」「どうすればよりよくなるか」などを確認させます。口頭ないしは書面で行います。育成する側にとっても指導・助言の力を身に付けるためのOJTになります。
場面③:教員相互で学び合う場を活用する
一人一人の教員の経験や能力が異なるため、同じ内容や課題に取り組んだ場合でもその理解度や成果はまちまちです。教員相互で学び合う場をOJTとしていくには、学年会や分掌部会等という場などを活用して、自分の職務上の課題との関連を明確に意識して臨ませることが重要です。ここでのポイントとしては、
①教員一人一人に自分の課題をもたせる
育成する側は、その点を踏まえて、育成される側と話し合い、課題を認識させ、教員相互で学ぶ機会では、自己の目標や課題意識をもって参加させることが必要です。
②日常の授業や指導場面で実践させる
育成される側が新たな発見、理解の深まりをもったとしても、それらを日々の授業や児童・生徒への指導場面において実践させることが必要です。育成する側は参観し、本人に成果と課題をフィードバックすることも大切です。
③教員一人一人に自分の役割をもたせる
育成される側は、自分の役割や立場を意識して、OJTで学んできたことを踏まえて、学年会や分掌部会等で発言することが必要です。
④成果と課題を常に確認させる
育成される側が、OJTを通じて力を身に付けていくためには、学年会や分掌部会などの話合いの中で、自分の実践を常に見直し次への改善につなげていくことが必要です。
Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。