教職 その働き方を考える

高野敬三

教職 その働き方を考える[第11回]社会の要請を受けた教育内容の精査

トピック教育課題

2020.01.14

教職 その働き方を考える
[11]社会の要請を受けた教育内容の精査

明海大学副学長 高野敬三

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.11 2019年3月

●本稿のめあて●
学校では、教科の指導とは別に、社会の要請を受け、環境教育など、○○教育というものを指導することが求められてきました。この○○教育の数は極めて多くあり、教員はその対応に苦慮しています。そのことが教員の多忙にもつながっているとも言えます。今回は、その実態とともに、直近の中教審答申をみていきます。

教育内容の多様化

 いかなる時代においても、私たちは、子供たちが、将来自立できるようになるために、きちんとした学力と体力を身に付け、社会に出ても困らない人間性を身に付けてほしいと学校や学校の先生方に望んでいます。ほぼ10年に1回程度改訂される学習指導要領は、こうしたことを踏まえて中央教育審議会で議論された内容に沿って改訂されています。つまり、我が国では、その時代や社会の変化の要請を受けて、子供たちに、こうした能力を身に付けさせたい、こんな人間として育ってほしいという答申結果を前提として、教育内容や教育方法を見直しています。

 学校では、教員は、新たな学習指導要領の改訂の趣旨にそった教科科目の授業を行うために研修会や説明会に参加したりして、授業準備を行い、新たに求められる授業を行っており、授業改善を行うための努力をしています。

 しかしながら、学校は、教科指導とは別に、時代や社会の変化により必要性が生じた様々な課題に対応した教育指導を行うべきであるとされてきました。こうした教育指導のことを、「○○教育」と呼ぶこととします。

 筆者が都立高校の教員となった昭和50年代初めのころにはなかった様々な課題に対応した○○教育が現在では求められているのです。数え方にもよりますが、○○教育は優に100を超えると言っている方もいるほどです。いくつかを列挙してみましょう。

 国際理解教育、消費者教育、税教育、法教育、納税教育、福祉教育、人権教育、郷土教育、伝統文化教育、平和教育、自然体験教育、男女平等教育、起業家教育、著作権教育、ICT教育、情報教育、性教育、ガン教育、動物愛護教育、環境教育、安全教育、交通安全教育、図書館教育

などなどです。

 まだ、あります。特別支援教育、オリンピック・パラリンピック教育、ユニバーサルデザイン教育、NIE教育、キャリア教育、食教育(食育)、ボランティア教育、多文化共生教育、インクルーシブ教育、LGBT教育、持続可能な開発のための教育(ESD)、防災教育、主権者教育、プログラミング教育などです。これらは比較的新しいものです。

 こうした○○教育というものは、その時代背景のもとで、議会などから実施すべきであるとの指摘を受けたり、教育行政の主体である文部科学省や教育委員会が必要であるとして始めたものですが、不思議なことに、ほとんど消滅していないのです。

学校現場の多忙化

 小中学校では、各教科で教えるべき内容については、学習指導要領で定められていますし、各教科等に割り当てる時間数というものも学校教育法施行規則で規定されています。例えば、新学習指導要領では、小学校国語の標準時間数は、1年が306時間、2年315時間、3年245時間、4年245時間、5年175時間、6年175時間と定められています。すべての教科で同様に定められており、特別の教科である道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動の時間と合わせると、各学年とも、先に述べた○○教育をすべて実施しようにも時間がとれないことは明白です。また、この標準時間数という概念ですが、標準でいいというものではなく、必ずと言っていいほど、各教育委員会が教育課程の実施調査を行い、下回ることがないように指導しています。そこで、各学校では、万一に備えて、この時間数を上回る年間授業計画を作成して授業を行うのです。

 気の利いた教員であれば、○○教育と関連する内容のときには、そのことに併せて教えることも可能ですが、専門家でない教員が当該○○教育を教えるためには、教材研究も必要となるのです。ところが、そうした教材研究をするためのまとまった時間を割くこともできないのが実態かと思われます。

 行政や議会などからの要望を何とか叶えるために、授業ではなく、学校行事や特別活動で、○○教育を実施する努力も見られますが、こういうことでいいのでしょうか。

学校における働き方改革に関する「中教審答申」

 ここで、平成31年1月25日に公表された中教審答申「新しい時代に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」についてみてみましょう。「第4章学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」の「5 教師の働き方改革に配慮した教育課程の編成・実施」の一部抜粋です。

 「指導体制を整えないまま標準授業時数を大きく上回った授業時数を実施することは教師の負担増加に直結するものであることから、このような教育課程の編成・実施は行うべきではない。また、教育課程においては、消費者教育、法教育、環境教育、食育、防災教育などの現代的な諸課題に関する様々な教育(いわゆる○○教育)への対応が求められており、それらへの対応のために教師の業務が増加しているとの指摘もある。これらの現代的な諸課題に関する様々な教育に関して指導すべき具体的な内容については、既に各教科等の学習指導要領等に位置付けられており、指導事項として既に指導がなされているものである。このため、現代的な諸課題に関する様々な教育については、これまでの指導内容とは別に新たに取り扱うのではなく、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で関連性を持たせながら、組み立てていくことが重要であり、そのために、学習指導要領において『カリキュラム・マネジメント』が規定されたところである」とし、明確に○○教育を別建てで実施する必要はないと、その取扱いを示しています。

 なお、○○教育などの現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容は、新学習指導要領解説総則編の付録6に示されていて、○○教育をどの学年のどの教科等で扱うことができるか極めて分かりやすく図解していますので、カリキュラム・マネジメントを行う上で、非常に参考となります。

 

 

Profile
明海大学副学長
高野敬三

たかの・けいぞう
昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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