教職 その働き方を考える
教職 その働き方を考える[第10回]初任者研修の見直し
トピック教育課題
2020.01.09
教職 その働き方を考える
[第10回]初任者研修の見直し
明海大学副学長 高野敬三
●本稿のめあて●
教員には、常日ごろから研修を受けることが求められています。教員にとっての研修は義務であり権利でもあると言われています。今回は、多種多様にある研修の中から、教員となって初めて経験する初任者研修について見ていくことにします。
教員の研修
学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」と教育基本法第9条第1項に規定されています。このことを受け、教育公務員特例法では、第21条第2項で、「教育公務員の任命権者は、教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない」と定め、都道府県教育員会等が教員のための研修を実施することが明記されています。
初任者研修
教員採用試験に合格して初めて教員として採用された者が必ず受けることになるのが、平成元年度から導入された初任者研修です。教育公務員特例法第23条では、任命権者は採用の日から1年間、教諭の職務の遂行のために必要な事項に関する実践的な研修を実施しなければならないと定め、また、こうした初任者に対して指導及び助言を行う指導教員を命じるとしています。ここで、初任者研修について国が昭和63年に示した初任者研修実施要項モデルを見てみましょう。国の指針では、校内における研修は週2日程度、少なくとも年間60日程度、校外における教育センター等における研修は週1日程度、少なくとも年間30日程度と示されました。この指針は平成14年の完全学校週5日制実施に伴い、校内研修は週10時間以上、年間300時間以上行い、校外研修を月1〜2日程度、年間25日以上行うと修正されました。
同じく実施要項によると、校内研修では、指導教員が初任者に対して、学級経営(ホームルーム経営)、生徒指導等、教科指導、保護者との関係づくり、公務員倫理などについて、個々の初任者の経験や力量、個々の学校の抱える課題に重点を置くとともに、授業の準備から実際の展開に至るまでの授業実践の基礎(指導案の書き方、板書の仕方、発問の取り方等)について、きめ細かく指導するものと規定されています。
ここで、週10時間以上、年間300時間の研修の具体的イメージを考えてみましょう。授業終了後に毎日2時間の研修(2H×5日)を受けることになります。小学校教員の場合は、全科教員ですから、月曜日から金曜日まで、すべての授業をした後で、週10時間、指導教員との間で研修を受けなければなりません。中学校の初任者の場合も、週26コマの授業をもっていれば、全体のコマ数が30(6H×5日)ですので、ほぼ、数時間の空きしかないわけです。放課後は、部活指導や生徒に対する相談業務、生徒指導などもあります。加えて、法令上、研修というのは、必ず勤務時間内に設定されなければなりません。仮に、週10時間の中に授業実践や授業観察がある程度あったとしても、相当多忙であると言えます。
併せて、指導助言する指導教員も、自己の業務や研修とは別に、相当な時間数を初任者指導に割かなければなりません。
こうした仕組み自体は、世界に例を見ない日本独特の教員育成のシステムとして成果を上げてきましたが、昨今の学校教育を取り巻く児童生徒の課題等が多様化・複雑化してきている現状や教員の多忙解消を図らなければならない時代の要請を踏まえると見直さなければなりません。
東京都若手教員育成研修とOJTガイドライン
東京都では、教員の大量退職・大量採用が急激に押し寄せ、毎年6万人の公立学校の教員のうち約3000人が初任者教員となり、10年で教員総数6万人の約半数が入れ替わる時代に突入していました。そして、大量の初任者を1年間で育成することに対する課題が生じていました。このような折、筆者が東京都教育庁指導部長の職にあった平成22年度より、国との協議の末、採用から3年間で若手教員を育成する「東京都若手教員育成研修」を全国で初めてスタートさせました。必修研修の初任者研修を1年次研修と位置付け、2年次研修、3年次研修と体系化しました。
現在では、1年次研修の校内における研修は180時間、2年次の校内研修は30時間、3年次研修は30時間実施しています。
そして、指導教員のみならずメンターを含めた経験のある教員が初任者の育成に当たるため、教員の人材育成の核となる「OJTガイドライン」を平成22年に作成して、優れた指導技術や教育実践を確実に継承する取組を開始しました。
中教審答申(平成27年12月)
平成27年12月の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」の中の初任者研修の改革では、「初任者に限らず、経験年数の浅い教員に対する研修は、その後の教職生活への影響も大きく、とりわけ重要であることから、国においては、今後、都道府県等において、それぞれの地域の状況等を踏まえた効果的な若手教員研修が行えるよう、初任者研修の弾力的な運用を可能にするよう現在の初任者研修の運用方針を見直すことが必要である」とし、更には、「初任者の教員は、指導教員や先輩教員からの指導や助言を受けながら学校で日々実践し、省察・改善を繰り返す中で、教員として成長していくものである。その意味でOJTを中心とした校内研修により一層重点を置いて実施していくことが望ましい。一方、校外研修についてはこうした校内研修の充実に伴い、実施期間を短縮する方向で運用されることが望ましく、演習や模擬授業、体験活動などAL研修(アクティブ・ラーニング型研修)を取り入れたより実践的な内容に改善することが適当であり、前述した初任者研修の運用方針の見直しに反映する」と提言しています。いわば、東京都の初任者に関する制度を追従した形となっています。
今後は、すべての教員の任命権者におかれては、この答申の趣旨を踏まえて、初任者研修の見直しを不断に実施することが求められます。
Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう
昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。