文化庁国語課監修 「コミュニケーション」を円滑にするためのことば辞典 「浮足立つ」のは、期待から?不安から?
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2021.05.17
文化庁国語課監修 「コミュニケーション」を円滑にするためのことば辞典
「浮足立つ」のは、期待から?不安から?
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.5 2021年2月)
「浮足立つ」本来の意味
不安や恐怖を感じて逃げ出しそうになることを意味する「浮足立つ」という語。「国語に関する世論調査」によれば、この言葉を辞書で本来の使い方とされてきたものとは異なった使い方をしている人の方が多いことが分かりました。
Q.「浮足立つ」とは、本来どのような意味とされてきたのでしょうか。
A.「不安や恐怖を感じて逃げ出しそうになる」、また、「そわそわして落ち着かなくなる」という意味です。
「浮足立つ」を辞書で調べてみましょう。
■「大辞林 第4版」(令和元年・三省堂)
うきあし【浮(き)足】 ①足が地についていない状態。逃げ腰の態度。「─になる」うきあしだつ【浮(き)足立つ】 恐れや不安を感じて逃げ腰になる。落ち着きがなくなる。「敵の攻撃に─・つ」「解散の気配に議員たちは─・った」
■「新明解国語辞典 第8版」(令和2年・三省堂)
うきあし【浮(き)足】㊀かかとを上げ、次の行動に移ろうとしている足。「─〔=逃げ腰〕になる」㊁〔すもうで〕つま先だけが地についており、かかとの上がった状態。「─を払う」
─だつ【─立つ】(自五)不安や恐怖にかられて逃げ腰になり、冷静な行動(判断)が出来なくなる。「浮き足立った守備/これくらいの劣勢で浮き足立っては〔=逃げ腰になっては〕困る」
辞書が示すとおり、「浮足」は、かかとが地に着いていない状態、爪先立ちのことで、「浮足立つ」という形で慣用句に用いられます。「浮足立つ」は、「恐れや不安を感じ、落ち着
かずそわそわしている」という意味で、以下のように使われていました。
攻撃が、中小都市に向けられ、甲府も、もうすぐ焼き払われる事にきまった、という噂(うわさ)が全市に満ちた。市民はすべて浮足立ち、家財道具を車に積んで家族を引き連れ山の奥へ逃げて行き、その足音やら車の音が深夜でも絶える事なく耳についた。
(太宰治『薄明』昭和21年)
しかし、近年になって、この慣用句は「旅行の前日に浮足立って眠れない」のように「喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている」という意味で使われることが多くなっています。
国語に関する世論調査
Q.「浮足立つ」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
A.辞書で本来の意味とされてきたのではない「喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている」という意味だと回答した人の割合が、本来の意味とされてきた「恐れや不安を感じ、落ち着かずそわそわしている」と回答した人を上回りました。
令和元年度の「国語に関する世論調査」で、「浮足立つ」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです(下線を付したのが本来の意味とされてきたもの)。
〔全体〕
浮足立つ
(ア)喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている……60.1%
(イ)恐れや不安を感じ、落ち着かずそわそわしている……26.1%
(ア)と(イ)の両方……9.6%
(ア)、(イ)とは全く別の意味……0.4%
分からない……3.8%
〔年代別グラフ〕
全体では、本来の使い方とされてきたのではない(ア)「喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている」と回答した人の割合が60.1% となっており、本来の使い方とされてきた(イ)「恐れや不安を感じ、落ち着かずそわそわしている」と回答した人の割合(26.1%)を上回っています。
年代別に見ると、全ての年代で、本来の意味とされてきたのではない(ア)の割合が、本来の意味とされてきた(イ)の割合を大きく上回りました。最も大きく差が開いているのは20代の57ポイント、最も差が小さいのは60代の23ポイントでした。
「喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている」という意味で使われることが多くなっている理由としては、「浮足」の「浮(うき)」という音や漢字から、「うれしくて落ち着かな
くなる」という意味の「うきうきする」「心が浮き立つ」「浮かれる」などの言い方が連想され、混同されていったということが考えられます。