特集:住民税10%減税の衝撃
住民の税負担の軽減を目的とした減税政策への挑戦が始まった。
減税自治体構想の先鞭をつけたのは東京都杉並区だ。07年から「杉並区減税自治体構想研究会」を立ち上げ、実現化をめざしてきた。多額の区債の償還のメドがついたため、その償還分の資金を「減税基金」として積み立て、その運用益を減税分に充てるという制度だ。2月議会に減税基金条例を提案している。
名古屋市は、昨年4月に就任した河村たかし市長が、「市民税10%減税」を宣言。議会との激しい攻防の末、昨年12月、市民税減税条例案が可決された。個人市民税・法人市民税ともに一律10%を減税する定率減税だ。
同じく愛知県の半田市も個人市民税10%減税の市税条例改正案を12月議会で可決している。こちらは、2010年度に限った限定措置だ。
本特集は、この3つの自治体の試みを首長へのインタビューとともに取材した。
【名古屋市の決断】
●河村たかし市長に聞く
――減税しない限り、行政改革はない!
「端的に政治は、税金を安くするためにある。マグナ・カルタの800年前の時代にイギリスで議会ができたのは、国王の課税要求に文句をいうところからだ。フランスの市民革命もアメリカの独立戦争もへんな税金をかけるなという話から始まった。それは減税しろということと同じことで、そこに政治の原点がある。」
【杉並区の挑戦】
●山田宏区長に聞く
――継続的な積み立てで「減税自治体」を実現する
●REPORT
・恒久的減税に向け、「減税基金条例案」を提出
・自治体減税は可能か──区民税減税シミュレーション
/関西学院大学教授 上村敏之
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【半田市の試走】
●榊原純夫市長に聞く
――苦しい市民生活を守ることが市民税減税の最大のねらい
●REPORT
・10年度の個人市民税に限り、平均10%の市民税減税を実施
●減税と自治体経営改革
/首都大学東京大学院教授 大杉覚
●自治体減税と議会の機能
/法政大学教授 廣瀬克哉
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【「地方主権」へのビジョン】
分権と格差是正の「バランスのある解決策」を
――石井隆一・富山県知事
1995年に地方分権推進委員会事務局次長を務め、現在は全国知事会で地方税財政問題のリーダーとして理論構築の中核を担う富山県の石井隆一知事。長年にわたって地方分権、地方税財政に関わってきた石井知事は、分権と格差是正の「バランスのある解決策を見出すべきだ」と訴える。
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【スキルアップ特集:市民に“わかりやすい”仕事をする!】
行政の透明性確保や市民への説明責任、また市民サービス向上の観点からも、自治体職員の仕事にとって「わかりやすさ」は重要なキーワード。さまざまな工夫を凝らして「わかりやすい行政」を目指す自治体が増える一方で、市民の側から見て、まだまだ“わかりづらい”と感じる点もあるのではないでしょうか。わかりやすさ向上へのヒントをお届けします!
●“住民目線”に立ったわかりやすい窓口を目指せ!
/札幌総合情報センター(株)主任研究員 瀧口樹良
●わかりやすく説明する技術……認知心理学から考える
/信州大学准教授 島田英昭
【取材リポート】
●自治体が取り組“わかりやすさの工夫”最前線
──大阪市・岐阜県多治見市・静岡市
●スキルアップ連載
・できる人の仕事術〜職場のキーマンになろう!/伊藤章雄
・こうすればうまくいく!会議の技術/八幡紕芦史
・もう悩まない!ハードクレーム解決法/関根健夫
・失敗に学ぶ明日へのヒント/田村秀
・発想を変える広報・PRトレーニング/平能哲也
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【取材リポート】
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●平成にっぽんの首長 自治の自画像
山中光茂 三重県松阪市長
――私が勝ったのではなく、市民が作り上げた選挙で市民が選択した
1年前、政党相乗りの市長選挙に異議を唱え、民主党を離党し、県議から市長選に出馬。当時の全国最年少市長となった山中光茂・松阪市長を訪ねた。
山中光茂・松阪市長。松阪城跡の石垣の上から城下の御城番屋敷(国指定重文の武家屋敷)が見渡せる。「ここは絶好のビューポイント。松阪は松阪牛だけではありません。史跡や文化財がきちんと保存された、知る人ぞ知る歴史文化の街なんですよ。今年は街なかに観光客を誘導するような仕掛けをつくる」と、ソフト面での松阪の観光戦略を練っている。
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●検証!市町村合併の現場を歩く/葉上太郎
「協働」への着地点はいまだ見えず──地域自治区が消える・岩手県一関市の場合
合併特例法に基づく地域自治区が、最も早く期限切れになったのは岩手県一関市だ。市は次のステップとして「協働」のまちづくりへと移行を試みている。だが、自治区から協働への跳躍は、期限切れから2年近く経った今も着地点が見えない。ゼロから始めた議論は、まるでミステリートレインのようで、終着駅も決まっていない。
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●政策を創る――「地方政府」の職員力
食の循環によるまちづくりで「食料供給都市」をめざす──新潟県新発田市
新潟県新発田市は、将来都市像「食料供給都市」の実現をめざし、食の循環によるまちづくりを推進している。肥料づくり・土づくりから栽培・収穫、加工、販売・購入、調理、食事、残渣処理、そして再び肥料づくりへと連なる「食の循環」を確立することで、地域活性化と市民生活の質の向上を図っていくのがねらい。市民、事業者と協働で時間をかけて検討し、条例を制定して取り組んでいるのが特徴だ。
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●協働&広域 エコ・ガバナンスの時代へ/杉本裕明
公共関与のあり方を見直す時期──産廃減少の中での公共処分場
景気の低迷で、事業者が排出する産業廃棄物が激減、そのあおりを公共処分場が食っている。山梨県の山梨県環境整備センターは、昨年春から受け入れを開始したものの搬入量が予想を大きく下回り、このままでは最終的に約35億円の赤字が見込まれるという。広島県では、瀬戸内海を埋めて大規模な処分場の建設が進むが、産廃の需要が予定通りあるのか不安もつきまとう。
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●“地域”というセーフティネット/田中元
医療と介護の連携に向けて現場視点で求められる仕掛け
「医療と介護の連携」――。社会保障制度の枠組みを論じるなかで、キーワードのように取り上げられる言葉だ。実際、医療や介護のニーズが高まるなかで、さまざまな取り組みも進められてきた。だが、「連携」への視点には、医療側と介護側の間でまだ隔たりがある。そうしたなかで、新政権は「医療と介護の一体化」を模索し始めた。
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●議会改革リポート[変わるか!地方議会]
事務局と議会・議員が一体となって議会改革を推進──茨城県取手市議会
茨城県取手市議会は1月30日、市内4会場で初めての議会報告会を開いた。2005年3月の旧取手市・旧藤代町による合併から間もなく丸5年。職員が自力で議会映像インターネット配信を実現するなど議会事務局と議会・議員が一体となって議会改革を進める同市議会を取材した。
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【連載】
●ガバナンスフォーカス
・独自の是正請求手続条例を制定──岐阜県多治見市
●ガバナンストピックス
・「議会内閣制」の導入論が浮上──揺れる「二元代表制」
・「討論型世論調査」(DP)を新総合計画に反映へ──神奈川県藤沢市
●童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
いま役立つ一斎語録 佐藤一斎(9)
●ザ・キーパーソン/清水真人
●栗山発!議会改革サポートの真髄/中尾修
●山田厚史の経済言論
●地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
●市民の常識VS役所のジョウシキ/今井照
●分権改革を追う/青山彰久
●破綻を希望に/村上智彦
●自治体職員冬の時代の「人事戦略」/稲継裕昭
●市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
●公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
●もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク[SHIPSサロン]
●「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
●リーダーズ・ライブラリ
●著者に訊く!――『日本の路地を旅する』上原善広
●DATA・BANK2010 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
・霞が関エクスプレス
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【カラーグラビア】
●つながり2010──人、ここに生きる/大西暢夫
「当たり前の暮らし」を支える(NPO法人「那須フロンティア」)
●森の恵み・森の聲/芥川仁
●タイムスリップ江戸の愉しみ
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●特別対談企画
北川正恭(早稲田大学大学院教授)×大井川和彦(マイクロソフト執行役常務)
――情報革命時代の『生活者起点』による行政改革