保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

吉永公平

保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します! 第10回 ⑦職場における職員の問題

ぎょうせいの本

2022.07.28

連載 保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

弁護士・春日井市総務部参事
吉永公平

第10回 ⑦職場における職員の問題

納得して働ける職場を目指して

 今回は、保育園において法律が関係する場面として第1回でご紹介した①~⑨のうち、⑦職場における職員の問題を解説します。どのような職業でも働くことは大変ですが、まずは理不尽なことがまかり通らないような「納得して働ける職場」を目指しましょう。

職員の勤務態度

 保育士に限らず、資格を有する専門職が集まる職場では、職員ごとに仕事のやり方が異なることが少なくありません。それが多少の「個性」や「味」であれば問題ありません。園児が多様な保育に触れ、さらに成長することに繫がるともいえます。

 しかし、専門職であっても組織に属する限り、組織の方針や上司の指示に従う義務があります。筆者も勤務先の自治体においては、上司に当たる市長や部長等の指示に従うべき立場にあります(ただし、筆者のような組織内弁護士であっても、弁護士の使命及び弁護士の本質である自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める必要があります(弁護士職務基本規程50条))。保育士の勤務態度に見逃しがたい温度差があったり、保育園の方針に合わない保育の実践をしていたりしたら、そのような保育士の態度等を改めさせなければなりません。園長に相談しながら、また、必要に応じて園長が直々に指導しながら、態度等の改善に努めましょう。それこそが「園児の健やかな成長のサポート」という保育士の使命及び保育士の本質に資するものだと思います。

 上司からの合理的な指示(職務命令)に従わない保育士に対しては、その程度に応じて人事上の措置(注意や懲戒処分、配置換え等)が講じられることになります。これも組織に就職した保育士の宿命です。完全に自分のやりたいように保育をしたいのであれば、フリーのベビーシッターや保育園の運営者等になるしかありません。

パワハラ

 パワハラが問題であるという認識は、世の中にもかなり広まりました。しかし、「何がパワハラに当たるか」という具体的な内容については、あまり理解が広まっているとはいえません。

 法律上のパワハラの定義は、「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」です(いわゆるパワハラ防止法30条の2第1項)。しかし、この定義では、「何がパワハラに当たるか」がはっきりしません。

 そこで、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」が示すパワハラの6つの類型を見てみましょう。

 (1)暴行・傷害(身体的な攻撃)  (2)脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)  (3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)  (4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)  (5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過少な要求)  (6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
 これでも明確な線引きができたわけではありませんが、パワハラのイメージを摑みやすくなったと思います。

 さらに、東京平成大学の渡部卓教授が提唱する「かりてきたねこ」(各ポイントの頭文字を並べたもの)は、パワハラ防止に役立ちます(渡部卓「ビジネス界の対応を知る 指導・注意は『かりてきたねこ』で行い職場のコミュニケーション改善を」総合教育技術73巻7号(2018年)p.54)。逆にいえば、「かりてきたねこ」を守れなければ、パワハラになりかねないともいえます。

 「か」 感情的にならない。…「怒る」は感情/「叱る」は理性。  「り」 理由を話す。…相手を誤解させない。以心伝心を期待しない。  「て」 手短に。…長い説教は焦点がぼやける。  「き」 キャラクターに触れない。…行動と性格(人格)は切り離し、性格には触れない。  「た」 他人と比較しない。…相手の自尊心を傷つけない。  「ね」 根に持たない。…翌日には忘れたかのような振る舞いを。  「こ」 個別に叱る。…他人の目には触れないように。
 上記の問題がある保育士への指導も、「かりてきたねこ」に注意する必要があります。感情的になると(「か」)、相手のキャラクターに触れて人格批判をしてしまったり(「き」)、個別ではなく人前で(他の保育士の前でも問題ですが、園児の前でも問題です)叱ってしまったりするので(「こ」)、注意しましょう。

 次回は、⑧新型コロナウイルス関係について解説します。

[著者プロフィール]

吉永公平(よしなが・こうへい)
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012 年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014 年春日井市入庁。現在、総務部参事。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)への参加等を主な業務としている。兼業として、中京大学総合政策学部(地方自治法)・名古屋学院大学法学部(情報法)・名古屋大学法学部(法曹養成演習Ⅳ実務)非常勤講師や、他の自治体や劇場での研修講師も務める。愛知県弁護士会行政連携センター運営委員会委員。1児の父として約3か月の育児休業を取得。

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