保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

吉永公平

保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します! 第7回 ④保護者・近隣への対応方法

ぎょうせいの本

2022.06.29

連載 保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

弁護士・春日井市総務部参事
吉永公平

第7回 ④保護者・近隣への対応方法

保育園は対応がやさし過ぎる?

 今回は、保育園において法律が関係する場面として第1回でご紹介した①~⑨のうち、④保護者・近隣への対応方法を解説します。主にクレーム対応を取り上げますが、おそらく保育園では「懇切丁寧」な対応をされていると思います。適切な保育を実施するためには、「クレーム対応が懇切丁寧過ぎないか」という観点からのチェックも必要です。なお、責任の種類や「過失」については、第4回をご参照ください。

クレーム対応の体制の整備

 クレームの本来の意味は「主張」です。ですから、保護者や近隣の方等が「主張」という意味でのクレームを言ってくるのは、ある程度であれば構わないはずです。

 クレーム対応に関しては、社会福祉法82条及び厚生労働省令「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」14条の3に基づき、保育園は「苦情解決体制」を整備していることと思います。具体的には、苦情解決責任者(園長等)・苦情受付担当者(園長、主任保育士等)・第三者委員の設置等です。保護者や近隣の方からのクレームに対しては、これらの「苦情解決体制」によって対応することが考えられます。

 一方、肝心の「クレームへの具体的な対応方法」について、法律等の定めはありません。上記の第三者委員に頼りっぱなしでもいけませんので、各園で「クレームへの具体的な対応方法」の方針を持っておくべきです。クレーム対応は上記の苦情解決責任者や苦情受付担当者だけではなく、保護者や近隣の方と実際に接する保育士全員に関わるものです。そのため、研修等によって全保育士が理解しておくべき内容といえます。

主張の2種類の過剰

 クレームの中には「悪質」クレームもあります。何が「悪質」かというと、①主張の「内容」が過剰な場合と、②主張の「方法」が過剰な場合の2種類があります。

 簡単に言えば、①「内容」については、「それはおかしいでしょう」という無理難題を保育園に求めてくるものです。②「方法」については、大声、侮辱的な発言、長時間、非常識な時間帯などです。いずれも、非常識なものであれば「悪質」です。法律に「悪質」クレームの基準はないため、「常識」に照らして判断します。

 特にこの2種類の過剰な主張に対しては、保育園として適切に対応できないと、保護者・園児間の不平等が生じたり、職員にとって過大な負担となり、保育の実施に支障が生じたりするおそれがあります。

主張の「内容」の過剰

 ①主張の「内容」に関しては、次の4種類に分類できます。

(1)法律違反の内容
(例)気に入らない園児を退園させてほしい。
(2)保育園が行わなくてもよく、実際に行うつもりがない内容
(例)毎朝モーニングコールをしてほしい。
(3)保育園はできれば行った方がいい内容
(例)門の施錠を常にしっかりしてほしい。
(4)保育園は行う義務がある内容
(例)アレルギーのある食品を食べさせないでほしい。

 このうち、(1)は間違いなく①主張の「内容」が過剰です。迷わず断ってください。断らないと保育園に「法的責任」が生じます。

 (2)も、保育園には人手・時間・お金等の限りがありますので、優先順位を付けて業務を行っているはずです。保育園に余裕がなければ、①主張の「内容」が過剰といえます。断ることが保育園の「道義的責任」でしょう。

 (3)と(4)は①主張の「内容」が過剰とはいえません。頑張って行ってほしいものです。それぞれ行わないと、(3)は保育園の「道義的責任」、(4)は保育園の「法的責任」が問われることになります。

主張の「方法」の過剰

 ②主張の「方法」に関してはたくさんありますが、主なものを列挙します。

(1)対応者
(例)園長が出て来てほしい。
(2)対応場所
(例)保護者の自宅に来てほしい。
(3)対応時間
(例)話が長時間に及ぶ。夜間・休日の対応を求める。
(4)伝え方
(例)暴言を吐く。机を叩く。
(5)録音・録画
(例)話を録音させてほしい。
(6)書面
(例)保育園の考えを書面で出してほしい。
(7)回答期限
(例)明日までに回答してほしい。
(8)プレッシャー
(例)マスコミに話す。弁護士に相談する。裁判をする。

 上記のいずれについても、何でも②主張の「方法」が過剰というわけではありません。ただし、基本的には法律上のルールはなく、どこまで応じるかを常識で判断すべき「程度問題」です。

 (1)対応者については、大きな組織ほど個別ケースにトップ(社長や市町村長等)を出しません。トップにはトップの仕事があるため、担当者が対応します。ただし、園長や主任保育士が苦情解決責任者や苦情受付担当者になっていたら、対応者として出ていくべき立場といえます。それでも、「保育士を全員集めてください」といった要望に応じるべきではありません。「対応すべき人」が対応すれば十分です。

 (2)対応場所については、用事のある人が足を運んだり電話をしたりするのが原則です。保育園に「過失」がない場合に、呼ばれたからといって相手方の自宅に行く必要はありません。

 (3)対応時間については、一通りの話を聞いたら、繰り返しの話や脱線した話に付き合う必要はありません。話の内容次第で対応時間を決めるべきですが、30分程度あれば一通りのお話はできることが多いと思います。1時間を超える場合は、通常は「長過ぎる」ケースが多いでしょう。

 (4)伝え方については、暴言や威嚇行為は、いくら保育園に不満があっても許されるものではありません。やめるように伝えましょう。(3)や(4)では法律(特に犯罪関係の刑法)が登場することもあります。

 (5)録音・録画については、原則として相手方の同意がなければプライバシーの問題が生じます。ただし、相手方からの録音の求めは、保育園としてやましいところがなければ、断る理由はあまりないかもしれません。それでも、話し合いの記録を残すためとはいえ、録画はやり過ぎですので、断っていいでしょう。また、「暴言等の証拠化」のためであれば、相手方の同意がなくても録音は可能です。

 (6)書面については、何となく出したくないという思いがあるかもしれません。しかし、保育園はやましい話をしていないはずです。そうであれば、「口では言えるが書面には書けない」ことも、保育園にはないはずです。事前にしっかり内容を確認すれば、書面を出すことに大きな問題はありません。事前の確認としては、保育課や本部に見てもらうことをお勧めします。弁護士がチェックできればなおよしです。書面を出すことにより、長時間の話し合いを回避できる場合もあります。

 (7)回答期限については、無理なスケジュールを約束すると、「約束した期限に遅れた」という新たな問題が生じます。無理に回答期限を約束せず、「組織として回答しますので、少しお日にちをいただきます。ご了承ください」と回答すれば十分なケースが多いでしょう。

 (8)プレッシャーについては、相手方がマスコミに言うかどうか等は、相手方が判断すべき問題です。保育園がどうこう言う話ではありません。マスコミが相手方から聞いたことを鵜呑みにして報道するとも限りません。弁護士や裁判官が出てきたら、むしろ「正論を話す人」が出てきたと思って、喜んでもいいくらいです。変に「それはおやめください」と言わずに、堂々としていれば結構です。プレッシャーをかけられても保育園は困らないので、「ご自身のご判断でお決めになることですので、保育園からは特に言うことはありません」と回答すれば結構です。

クレーム対応に臨む際のマインド

 保育園は保護者への寄り添いや近隣の方との良好な関係を重視して、悪質クレームに対して「毅然とした対応」を取ることが苦手なことも少なくないと思います。しかし、悪質クレームへの対応で保育士が疲弊していては、適切な保育を実施できません。また、悪質クレームに「屈してしまった」保育士の姿を、未来ある園児たちに果たして見せられるでしょうか。園児たちの憧れの存在でもあり、誇れる職業として、保育士のみなさんには「清く正しく」園児のために対応していただきたいと思います。その際に、①「内容」や②「方法」の過剰な主張に対して「毅然とした対応」が必要な場合は、まさにそのような対応こそが園児のためになる「清く正しい」保育士の姿だと信じています。

 次回は、⑤個人情報の取扱いについて解説します。

[著者プロフィール]

吉永公平(よしなが・こうへい)
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012 年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014 年春日井市入庁。現在、総務部参事。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)への参加等を主な業務としている。兼業として、中京大学総合政策学部(地方自治法)・名古屋学院大学法学部(情報法)・名古屋大学法学部(法曹養成演習Ⅳ実務)非常勤講師や、他の自治体や劇場での研修講師も務める。愛知県弁護士会行政連携センター運営委員会委員。1児の父として約3か月の育児休業を取得。

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