保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

吉永公平

保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します! 第3回 ①日常的な園児との関わり(2)園児の呼び方とチーム保育園

ぎょうせいの本

2022.05.25

連載 保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

弁護士・春日井市総務部参事
吉永公平

第3回 ①日常的な園児との関わり(2)園児の呼び方とチーム保育園

弁護士ならではの視点?

 今回は、保育園において法律が関係する場面として前回ご紹介した①~⑨のうち、①日常的な園児との関わりの続きを解説します。園児の呼び方とチーム保育園という、一見して弁護士が関係なさそうな話題です。

園児の呼び方は法律問題?

 園児の呼び方につき、保育士としては名前に「ちゃん」や「くん」等をつけることが一般的だと思います。園児の呼び方に法律上の決まりはなく、園の裁量(いくつか選択肢がある問題につき、園が選択権を有していること)によって決めるべき事柄です。それでは法律は何も関係ないかというと、第2回で解説した「個人の尊重」が関係します。「個人の尊重」とは、「人は、組織や他の誰かにいいように使われるのではなく、一人の人間として尊重されるべきである」というものでした。園児の呼び方も、園児を一人の人間として尊重したものである必要があります。そこで問題となるのが、園児の呼び捨てです。

 大人同士であれば、よほど仲のいい関係でなければ、呼び捨ては許容されません。相手を尊重するために「さん」等の敬称をつけて呼ぶことが通常でしょう。

 保育士と園児の関係でも、相手を尊重すべきという点では共通です。そのため、弁護士の立場からは、「ちゃん」や「くん」等をつけて呼ぶことが、原則的な対応として望ましいと思います。

 呼び捨てについては、①園の方針で全ての保育士が全ての園児を呼び捨てにする、②保育士個々人の判断により、とある保育士は全ての園児を呼び捨てにする、③保育士個々人の判断により、とある保育士は一部の園児を呼び捨てにする、といったパターンが考えられます。いずれも違法というわけではありませんが、呼び方の希望を自分では上手く伝えられない園児にとって(これは第2回で解説した「意見表明権」の問題でもあります)、「個人の尊重」という観点から、どのような呼び方が適切かを検討する必要があります。

 筆者の個人的な経験ですが、学生時代に、とある男性の教師が一部の生徒を呼び捨てにしていました。また、呼び捨ての仕方も、ある生徒は苗字を呼び捨てにし、別の生徒は同じ苗字の生徒が他にいるわけでもないのに、下の名前を呼び捨てにしていました。当時も違和感を覚えましたが、今自分が教師の立場に立ったとしたら、生徒をどう呼ぶべきだろうと考えてしまいます。程度の差はあれ、このことは保育園でも共通する問題だと思います。

チーム保育園とは?

 保育園には様々な問題が発生します。その中には、健康問題のように医師や看護師が関わったり、法律問題のように弁護士が関わったりした方がいいものもあります。つまり、保育士だけでは十分に解決できず、様々な分野の専門職がチームを組んで対応した方がいい場合があります。筆者はこのようなチームを「チーム保育園」と呼んでいます。

 「チーム保育園」という言葉は「チーム学校」を参考にしています。「チーム学校」とは、教師以外の職種も含めたチームを学校で結成し、チームプレーで教育の質を高めたり、学校の問題に対応したりしようというものです。既に多くの学校で実際に取組みが進んでいます。この「チーム学校」には、学校事務や用務員の方以外にも、スクールカウンセラーや学校医等、さらにはスクールソーシャルワーカー(社会福祉士等)やスクールサポーター(警察官の退職者等)、スクールロイヤー(弁護士)等が参加しています。文部科学省に設置されている中央教育審議会も、「チームとしての学校」という名称で取組みを推奨しています。

 このような「チーム学校」の取組みを保育園にも導入すべきというのが「チーム保育園」という発想です。問題の性質に応じた「適任の職種」があります。全ての問題を保育士だけで対応することは、保育士に過度の負担がかかりますし、何より園児のためにもなりません。そのため、「チーム保育園」は誰にとってもプラスとなる取組みだと考えられます。ただし、様々な分野の専門職とチームを組んで連携するとしても、保育園のこと、そして園児や保護者のことを一番よく知っているのは、他の誰でもない保育士です。そのため、「チーム保育園」の中心は保育士となります。つまり、「チーム保育園」とは、問題を保育士以外の専門職に丸投げするのではなく、まさにチームを組んで一緒に取り組むというものです。

 似た言葉に「チーム保育」があります。「チーム保育」は、複数のクラスを複数の保育士が担当するというものです。「チーム保育園」は、「チーム保育」では意識されにくい保育士以外の専門職に着目したものです。医療や心理、福祉等、様々な専門職との連携は、必ずや園児の福祉の向上に資すると思います。チームを組む際には、少しでも「法律」の観点も含めていただきたいところです。

 ①日常的な園児との関わりについては、男女の分け方や医療問題、虐待対応等、まだまだ語るべき点が多くありますが、本連載では涙を呑んで次のテーマに移ります。次回は、②事故と保育園の責任について解説します。

 

[著者プロフィール]

吉永公平(よしなが・こうへい)
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012 年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014 年春日井市入庁。現在、総務部参事。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)への参加等を主な業務としている。兼業として、中京大学総合政策学部(地方自治法)・名古屋学院大学法学部(情報法)・名古屋大学法学部(法曹養成演習Ⅳ実務)非常勤講師や、他の自治体や劇場での研修講師も務める。愛知県弁護士会行政連携センター運営委員会委員。1児の父として約3か月の育児休業を取得。

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(発行年月: 2022年4月/販売価格: 2,310 円(税込み))

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吉永公平(よしなが・こうへい) 名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012 年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014 年春日井市入庁。現在、総務部参事。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)への参加等を主な業務としている。兼業として、中京大学総合政策学部(地方自治法)・名古屋学院大学法学部(情報法)・名古屋大学法学部(法曹養成演習Ⅳ実務)非常勤講師や、他の自治体や劇場での研修講師も務める。愛知県弁護士会行政連携センター運営委員会委員。1児の父として約3か月の育児休業を取得。

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