保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

吉永公平

保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します! 第9回 ⑥危機管理

ぎょうせいの本

2022.07.21

連載 保育者のリアルなお悩み、弁護士が解決します!

弁護士・春日井市総務部参事
吉永公平

第9回 ⑥危機管理

危機管理を意識せざるを得ない時代に

 今回は、保育園において法律が関係する場面として第1回でご紹介した①~⑨のうち、⑥危機管理を解説します。時期柄、危機管理について意識せざるを得ない世の中ではありますが、「適切な保育」とバランスの取れた無理のない危機管理について考える必要があります。なお、責任の種類や「過失」については、第4回をご参照ください。

保育園への不審者の侵入

 保育園への不審者の侵入対策は、どの保育園でも頭を悩ませていることと思います。門やドアのオートロック、防犯カメラ、警備員の配置等、予算があれば実施したい取組みはたくさんあるでしょう。しかし、そこまで予算が確保できないのも現実です。

 また、もし予算が潤沢にあってオートロック等が導入できても、それで危機管理が完璧になるとは限りません。登降園が集中する時間帯であれば、園児や保護者がオートロックの解除された門やドアを通った際に、不審者も一緒に侵入することは可能です。保育士が入口で立ち会って不審者のチェックをすることは、ただでさえ少ない保育士の配置基準を踏まえると、困難な保育園も少なくないでしょう。門やドアが常に開きっぱなしなのは問題ですが、登降園が集中する時間帯は門やドアを解錠しておき、保護者に手動でカギを開け閉めしてもらうこともやむを得ないと思われます。「万が一」の事態が生じたとしても、このような門やドアの解錠によっては、保育園に「過失」があるとはいえず、「法的責任」を負わないと思います。

 もし不審者が保育園に侵入した際は、園児の避難と警察への通報を行います。実際の対応は各保育園で訓練等をしていると思いますが、「保育士は身を挺してでも園児を守るべきか」という問題があります。近時、凶器を持った不審者が保育園に侵入した際に、保育士が不審者を拘束したというニュースがありました。また、不審者の侵入ではありませんが、幼稚園の外で園児を引率していた教諭が、自動車が園児の列に突っ込んできた際に、園児をかばって負傷したというニュースもありました。いずれも園児を守る素晴らしい対応です。しかし、全ての保育士がこのような対応を行えるとは限りませんし、法的にはそのような義務もありません。自衛隊員は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め」る責務を負っていますが(自衛隊法52条)、保育士はそうではありません(保育士以外の多くの職業も同様です)。保育士は園児の安全と同様に、自分の安全も大切にしてください。

災害対応

 災害対応も、保育園への不審者の侵入と類似する面があります。火災、地震、大雨、台風等の災害は、毎年発生するものから稀にしか発生しないものまで、事前にある程度予想しようと思えば予想できるものです。一時よく使われた「想定外」という言葉は、本当に誰にとっても「想定外」のものと、想定できたのに想定しなかったからその人にとっては「想定外」であったに過ぎないものの2種類があります。後者については、想定しなかったこと自体が落ち度であり、「法的責任」を負う可能性があります。

 一方、前者の「本当に誰にとっても『想定外』のもの」については、事前に対策を講じることができなくても仕方がありません(数多くの災害を経験した現在の日本においては、このパターンは少ないと思いますが)。また、事前に想定はできるものの、実際に発生したら対応のしようがない問題もあります。たとえば、直下型の大地震が発生した場合、保育士が「伏せて!」と園児に言う間もなく、立っていた園児が転んでしまったとしても、保育園に「過失」はなく、「法的責任」を負いません。

 基本的には、経済産業省の「想定外から子どもを守る 保育施設のための防災ハンドブック」や、全国保育協議会の「『東日本大震災被災保育所の対応に学ぶ』~子どもたちを災害から守るための対応事例集~」等の資料や書籍等を参照しつつ、各保育園の実情に合った災害対応策を準備することで、保育園の法的な務めを果たすことに繫がります。

 次回は、⑦職場における職員の問題について解説します。

[著者プロフィール]

吉永公平(よしなが・こうへい)
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012 年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014 年春日井市入庁。現在、総務部参事。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)への参加等を主な業務としている。兼業として、中京大学総合政策学部(地方自治法)・名古屋学院大学法学部(情報法)・名古屋大学法学部(法曹養成演習Ⅳ実務)非常勤講師や、他の自治体や劇場での研修講師も務める。愛知県弁護士会行政連携センター運営委員会委員。1児の父として約3か月の育児休業を取得。

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(発行年月: 2022年4月/販売価格: 2,310 円(税込み))

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吉永公平(よしなが・こうへい) 名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012 年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014 年春日井市入庁。現在、総務部参事。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)への参加等を主な業務としている。兼業として、中京大学総合政策学部(地方自治法)・名古屋学院大学法学部(情報法)・名古屋大学法学部(法曹養成演習Ⅳ実務)非常勤講師や、他の自治体や劇場での研修講師も務める。愛知県弁護士会行政連携センター運営委員会委員。1児の父として約3か月の育児休業を取得。

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