マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会

山口 利恵

第10回 カフェ発 便利なコンビニの登場か レジなし店舗と新しい認証技術

ICT

2019.05.10

生活は便利になるが、見極める目も必要に

「里中さんって、すぐに色々マスターできますよ。たぶん、今回も使いこなせますよ。でも、今回のはまだ私も使ったことがないから、自信があるわけじゃないですが。」

 絵美は、自信がなさそうだった。

「あの会社の発表だと入り口でのタッチが必要でしたね。研究レベルでは、そういうのがいらない技術もありますよ。そういうのもすぐに導入されるんじゃないですか。」

「え? タッチがいらないの?」

「なんでタッチするかというと、誰が入ってきたか、お店が確認しなければならないからなんですよね。もちろん、スマホじゃなくてもできますよ。一つ例を挙げるとすると、電車の改札で使うようなカードを配ったりするとか。そういうのって、結構コストがかかりますけどね。今後はスマホアプリの方が、配布とかが楽だから企業にとっては作りやすいかと思いますね。」

 竹見が解説をはじめた。

「電車の改札で普及しているので、店舗とかの入り口をカードにするとかって、日本ではわかりやすいかもしれませんね。今後はスマホアプリだけとかになったりするんだろうなぁ。」

 加藤が言った。

「そうそう、そうなんだよ。でも、スマホ使うなら、タッチもいらないよ。スマホに内蔵されているセンサーの情報を使えば、いつどこにいるとか、簡単にわかるしね。そういう情報を集めて個人認証するっていう技術もあるからねぇ。」

「あ、行動認証ってやつですか。」

 加藤は思い出したように言った。

「行動認証?」

 絵美が不思議そうに尋ねた。里中はもっと疑問に思っているようだ。

「ライフスタイル認証(*)とかっていったりもするみたいだね。」

 竹見が説明をはじめた。

「IoT技術と流行りのAI技術の応用ですよ。今は、家でもオフィスでも沢山センサーがありますからね。スマートフォンを活用すると、そういう

センサー情報が色々とれるんですよ。そういう、ありとあらゆるところにあるセンサー情報などからとれる情報を利用し、AI技術で解析することで本人の特徴を見出すんですよ。」

「なんだか、難しいわね。」

 里中が言った。

「確かに裏周りは難しいかもしれませんが、ユーザが見えているところでは逆に簡単に利用できる認証技術なんですよ。」

「あら、私でも簡単に利用できるのね。」

 里中はうれしそうに言った。

「わかりやすいところだと、『このログインは、本当にあなたですか』というメールが来たことはありませんか?」

「あ、私ありますよ。新しいスマホに機種変したときに設定したら、そういうメールが来たことが。」

 絵美が言った。

「それの裏周りではね、その時の絵美ちゃんのログインが、普段とは違うスマホの機種からのログイン依頼であることを見つけたんだよ。今は、メールで確認みたいなことをしているが、今後は、その場合は他のセンサーで確認、みたいなことができるかもしれないんだ。そうだとすると、ユーザの見た目としては、何もおきないかもしれないね。」

「勝手に色々な認証要素(**)を選んでくれるってことですか。」

 加藤が興味深そうに言った。

「うん、近い将来にそうなってくるだろう。」

「なんだかよくわからないけど、簡単に利用できることはいいことね。」

 里中が言った。

「その分、私のことをコンピュータが全部わかっていることになるんじゃないかしら。例えば、スマートフォンで何をしているかとか、今どこにいるとか。認証するってことは、常に自分のことをわかってもらわないとわからないんじゃないかと。」

 絵美が疑問に思いながら、伝えた。

「さすが絵美ちゃん、理解が早いね。その通りだよ。便利なものにはわけがあるからね。何の情報もなくこういうことはわからないね。例えば、さっきのコンビニの自動精算でライフスタイル認証を利用しようとすると、その人がコンビニに着いたかどうかを確認しないといけないね。つまり、その人の位置情報を追跡に使うことになるね。」

「やっぱり、そんな風に私の情報がとられることになるんですね。」

 絵美が考えながら言った。

「うーん、この前も思ったけど、そういう情報をとられないようにはできないのかしら。コンピュータには見られないけど、便利だけはなるみたいにはならないのかしらね。」

 横で話を聞いていた里中が不安そうに伝えた。

 里中も不安そうに伝えた。

「認証に利用する必要最低限な情報がわかった場合には、その情報を隠す技術はいろいろあるでしょうから、将来的には隠すことも可能かもね。でも、その前に、便利になることを確認して、本当に自分にとって必要なサービスかどうかをわかる方がいいよ。その後で、本人がサービスを受けたいから情報を渡すことに同意するみたいにちゃんと理解することが本当は大事だね。まぁ、なかなかわからないんだけどねぇ。」

 竹見が斜め上の方を見ながらつぶやいた。

*ライフスタイル認証
ライフスタイル認証とは、本人の様々な行動から得られるデータを利用し、その人それぞれの行動の特徴を見いだす認証技術。似たような実用化されている技術として、リスクベース認証という技術がある。現在実用化されているリスクベース認証は、IPなどの情報と位置情報を組み合わせたり、普段使っているものとは違うスマートフォンやPCからのログイン依頼などがあった場合に、メールを送付する、乱数トークンを使うなど、別の確認手段をつかって本人を確認している。

ライフスタイル認証は、現状のリスクベース認証で活用している情報に加え、スマートフォンが持つセンサーの情報やアプリの履歴なども利用しており、今後の発展が待たれる。このライフスタイル認証の実証実験が、東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センターによって1月11日の開始が予定されている。この実証実験では、5 万人規模のモニター募集をはじめ、小学館や凸版印刷などが提供している人気スマホアプリとの連携し、多数の民間企業の協力が得られる予定である。

**認証要素
認証要素とは、個人の特徴を示す情報としてに何を使うかを示していて、例えば、IDとパスワードの組み合わせや、指紋や静脈などの生体認証などの要素一つ一つのことを指す。

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

AI(人工知能)のいまと変わる行政

マイナンバーマガジン 月刊 自治体ソリューション2017年1月号

2017/01 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

山口 利恵

山口 利恵

東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任准教授

2003年津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学)、独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て2013年から現職。主な研究テーマである「ライフスタイル認証・解析」に関する各種講演やセミナーの登壇者として、また、「Society5.0を見据えた個人認証基盤のあり方懇談会」構成員を務めるなど、多方面で活躍中。

閉じる