徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第28話 優秀な人材を!

NEW地方自治

2019.08.23

徴収の智慧

第28話 優秀な人材を!

『月刊 税』2016年10月号

地方税徴収職員の悩み

 「優秀な人材を配属してほしい」とは、滞納整理の職場ならずとも、当該職場を預かる責任者としての課長としては、誰もが思うことであろうし、例年の人事異動の時期にはそのように期待もしていることだろう。私がそう思うのは、「即戦力となる人材が欲しい」とか「滞納整理は、結果が直ちに数字となって表れるから、時間をかけてじっくりと人材を育成していくだけのゆとりがない」などといった声をしばしば耳にすることがあるからである。思うにその背景には、地方税の場合、職員は国税のように税務の専門職ではなく、一般行政職として採用されているので、きのうまで福祉の職場やまちづくりの職場にいた人が、辞令ひとつで今日から滞納整理をやりなさい、というようなことが原因のひとつとしてあるのかもしれない。加えて地方税の場合、国税のような税務大学校といった専門の研修機関が整備されていないので、国税に比べて職員研修の面でも恵まれていないと感じている徴収職員は少なくない。私は、地方税におけるこうした事情の存在を否定するものではないが、しかし、考えようによっては「嘆き」とも「愚痴」とも受け取れるこの類の言い訳(のような考え方)には与(くみ)したくないと思っている。それは次の理由による。

人材育成に果たす課長の役割

 神戸女学院大学名誉教授でフランス文学者の内田樹(うちだ・たつる)氏は、『戦場に投じられた時に、「こんな戦力じゃ戦えない。やり直せ。」と要求することはできません。手持ちの資源(人材)をやり繰りして、何とかするしかない。』(内田樹の研究室「仕事力について」HPより引用)として、適材適所のような「ない物ねだり」をしても困難な現状を打破することはできず、「与えられた状況 =今ある状況」を素直に受け容れて、その中で最善を尽くす方法を考えることが賢明であると述べている。世の中の実情を冷静に見てみれば、これは、至極常識的なものであると思う。そして、この考え方に倣うとするならば、「こんな人材じゃ滞納整理の効率は上がらないし、収納率の向上は望むべくもない」などと嘆くばかりで、何ら具体的で効果的な対策を取らない(=仕組みをつくらない)のは課長としての責務を十分果たしたことにはならないと言い換えることができるのではないだろうか。

やれることをやり尽した上での要求

 何をしてもとても器用で、世渡りの上手な人も少数ながらいるであろうが、世の中を見渡してみても、そのような「優秀な人材」というのは、極めて少数なのが現実であるし、そんな宝くじを当てるような確率にすがって人材の確保を図ろうとするよりも、地道に人材を育成することに精を出す方が何よりも人を育てる近道ではないかと思う。極めて確率の低い(優秀な人材の)要求を人事当局にしている間に、当の課長自身が先に異動してしまうという笑い話のような皮肉な結果になることの確率の方がよほど高いであろう。それだけではない。人事当局にしてみれば、大した実績も上げていない職場に、稀少な「優秀な人材」を投入したところで、どうせ上手く使いこなせず有為な人材をみすみす無駄にすることになると考えるから、決して配属したりはしないのである。やはり人は育てるものであるから、日々さまざまな工夫と努力を重ねている活気と実績のある職場にこそ、自ずとそうした「優秀な人材」は集まるのである。なぜなら、そのような職場に投入されれば、普通の人材は優秀な人材に育つであろうし、元々優秀だとされる人材は、より一層磨きがかかってさらに優秀な人材へと成長するからである。人を伸ばす素地のない職場には、優秀な人材など来ないのである。

 話を滞納整理のことに戻せば、現在の人数と現在のメンバーでやれるところまでやって、とにかく実績と成果を上げることが重要である。そのためには、考えられる仕事上の工夫と選択肢をやり尽し、もうこれ以上やりようがないと思われるほどの努力をすることである。その上で、やれることをやり尽した実績と、その結果得られた成果とを携えて人事当局に増員なり人材なりの要求をすべきであろう。こうした「自助努力という前提」のない要求は話にならないのである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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