徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第64話 必要は発明の母

地方税・財政

2020.03.03

徴収の智慧

第64話 必要は発明の母

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年10月号

発明の裏には情熱がある

 「必要は発明の母」という言葉は、発明王と言われているトーマス・エジソンではなく、意外にも英国の作家ジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』の中に出てくる表現だそうである。今までにないような画期的な発明というのは、何らかの必要性に迫られたときに生まれるものだといった意味だろうか。

 そういえば自然災害の多いわが国では、災害に対応した土木建築の技術が発達したとか、肉親を病で失った研究者が、同じ悲劇を繰り返したくないとの切実な思いから、その病を克服する薬を発明したなどの話に接することも少なくない。なるほどと思う。もちろん発明というものは、必要に迫られたからといういわば受動的で環境依存的な要因を端緒とするものだけではないだろう。ある事柄に興味・関心を持って、「このようにありたい」とか「理想を実現したい」など情熱や探究心に起因する発明だって少なくないと思う。しかし、必要性に迫られたにせよ、理想を追求する飽くなき探求心・好奇心によるにせよ、それらいずれの背後にも決して諦めないという情熱と、あるべき姿に相違する現実を何とか変えたいという情熱があるように思う。

 ではこうした情熱は如何にして生まれ、そして育まれるのか。湧き出る泉のごとく自然に芽生えるものではないのではないか。だとすれば、一体どうすれば情熱というものを芽生えさせ、そして育むことができるのだろうか。即ち、これは「果たして研修等で意欲や情熱を芽生えさせ、そして育むことができるだろうか」という問題提起でもある。

発想の違いに起因している

 昨今、児童虐待やいじめの問題において児童相談所や学校、教育委員会の対応が問題視されているが、報道されているところを見る限り、事態は改善されるどころか悪化の一途を辿っているように見える。一体何人の児童生徒が犠牲になったら事態は好転するのだろうかと大いに危惧するところである。報道では毎回のように「たら・れば」の繰り返しで、「あー、またか」の感は拭えない。背後には慢性的な人手不足や熟練した担当者の不足(人材育成体制の不備もあるのだろう)、虐待と躾の見極めの難しさ、親の無理解と非協力、関係機関の連携不足等々の課題が山積しているのだろう。

 滞納整理では人が死ぬという事態は想定しにくいが、税収が落ち込めばそれだけ行政サービスの低下は避けられない。しかも、滞納処分のような権力作用を伴う行政行為は徴税吏員にしかできないから、その意味では徴税吏員の育成は不可欠であると同時に急務でもある。この点に関してよく「地方税務職員は、国税のように税務専門職ではないから、人事異動でノウハウの承継がうまくできない」とか「実務上わからないことがあっても、身近に(疑問について)聞ける人がいない」などといった悩みをしばしば耳にする。本当にそうだろうか。思うにそれは、発想の違いに起因しているのではないかと思う。「〇〇があるからできない」という発想だからそのような悩みにつながるのであり、「こうすればできるのではないか」という発想に立っていないだけのことである。

評価されて意欲の出ない人間はいない

 冒頭で紹介した「必要は発明の母」という視点で実務を見てみれば、例えば、給与の差押えをしようとしたところ、第三債務者が非協力的であるような場合、法律に基づいた滞納整理からすれば支払督促か取立訴訟に移行すべきなのに、「何かほかに簡便な方法はないか」として安易な方法を模索してみたり、「取立訴訟などの民事手続きはやったことがない」からといった理由にもならない理由で先送りないしは棚上げにしてしまっているとしたら、残念ながら徴税吏員としての役割を果たしていないと言わざるを得ない。

 それでは「研修等で意欲や情熱を芽生えさせ、そして育む」ためにはどうしたらよいか。確かに「必要は発明の母」なのだから、一度その必要なものを洗い出してみることである。効率の良い滞納整理を進めるために何が必要なのか、或いは早期着手・早期処分を進めるために何が必要なのか等について全て洗い出して見直すことである。と同時に実績を挙げた職員を顕彰することである。評価されて意欲の出ない人間はいないのである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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