徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第40話 事例集作成のすすめ

地方税・財政

2019.10.10

徴収の智慧

第40話 事例集作成のすすめ

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2017年10月号

徴収職員の悩み

 地方税の徴収職員の悩みとして「何年もかけてせっかく育成した職員が人事異動で他の部署へ移ってしまい、その後任に未経験者が来ることも多く、徴収のノウハウが継承されない」ことや、「実務に関する相談に乗ってもらえる適任の人材が身近にいない」などの声を聞く。つまり、国税はもとより地方税でも都道府県や政令指定都市のような規模の大きな地方団体であれば、それなりに人的な体制も充実しているから、スケールメリットが働き、人事異動があっても徴収のノウハウを身につけた職員が職場からいなくなってしまうなどということはないし、人材育成においても、実務に精通した職員から適切な指導を仰ぐことは可能だろうが、小規模な地方団体ではそうはいかないというのである。福祉や戸籍など徴税とは縁もゆかりもないような部署から異動してきて、「さぁ、きょうからは滞納整理でがんばってください!」と急に言われても、しょせんは税に対する基礎知識のない(ましてや経験もない)「まっさら」な職員に、効率的で効果的な滞納整理を期待すること自体が土台無理な話だということなのだろう。

前向きな取組姿勢と自由な発想

 このような嘆きとも愚痴ともつかぬ話を聞くと、「さもありなん」と思う反面、工夫をすれば改善の余地はあるのではないかとも思う。日本全国を見渡してみれば、人口の多い地方団体は限られているし、むしろ人口減少や過疎に悩んでいる地方団体の方が圧倒的に多いのではないかと思われる。平成の大合併で、かなりの団体が合併して規模が大きくなったものの、今度は管轄する区域の面積が広くなってしまい、きめ細かな行政サービスの観点からすれば、限られた財源と人的資源の中では、合併したことがむしろ行政サービスの向上につながっていないのではないかとの懸念を払拭できないところもあるやに聞き及ぶ。滞納整理とても例外ではない。課税の職員と徴収の職員とを合わせても数人しかおらず、それこそ全員野球ではないが、課税の時期には全員で課税事務に従事し、それが終わると今度は全員で徴収事務に従事するといった具合である。そのような厳しい状況を抱えていても、必要な時にはちゃんと不動産公売や捜索などもきっちりとやっているところは決して少なくないのである。完璧さを追求することは大切なことではあるが、現状から一気呵成にそうした「高み」に達することができなければ、一切手を付けないというのでは、あれこれと「やらない理由」を探して、結局、着手しないというのにも似て、結果において「何もしない」というのと同じことだと言わざるを得ない。要は「こうすればできる」というポジティブな考えで意欲的に取り組むことが大切なのだと言いたい。前向きな「取組姿勢」と、前例にとらわれない自由な「発想」こそが求められているのではないかと思う。

類似事例を解決するためのツールに

 それでは、少なからぬ地方団体が抱えている「人事異動のため徴収のノウハウが継承されない」とか、「実務に関する相談に乗ってもらえる適任の人材がいない」などといった悩みを改善するためには、どのような工夫をすればいいのだろうか。思うに、その答えは日々の実務の中にあるのではないだろうか。すなわち、日々繰り返されている調査、必要に応じて行う折衝、そして処分という滞納整理のうち、法律的な意味でも、また進捗管理の面でもさまざまな課題を包摂している具体的な滞納事案(典型的な課題を含んでいて、かつ先例となるような事案が望ましい)を「事例」として解決までの過程を時系列に整理するとともに、法的な課題と事実上の課題とを整理して、解決への道筋を簡潔にまとめたものを、一定のフォーマットに落とし込んで、事例集として蓄積することをお勧めしたいのである。こうしてまとめた事例が集積していけば、先例に学ぶという意味で大いに参考になるし、OJTなど研修時のテキストとしても活用できるので、まさに一石二鳥であると思う。さらにはこれをジャンル別に整理して、集積していけば、類似事例を解決するためのツールとして、貴重な知的財産になること請け合いである。「事例集」の作成を強くお勧めする所以である。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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