徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第48話 踏み出す勇気と管理監督者の役割

NEW地方税・財政

2019.12.16

徴収の智慧

第48話 踏み出す勇気と管理監督者の役割

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年6月号

先駆者の苦悩と困難

 いまや朝鮮半島の非核化の問題が、北東アジアにおける大きな国際政治課題として連日報道されており、昨日まで身内をも容赦なく処刑するような独裁者とされていた人物が、何とノーベル平和賞の最右翼候補か .との声まで出始めているのだから、(国際)政治の世界というのはいやはや何とも不可解なものである。

 ところで、例年秋になると誰がノーベル賞を受賞するのかがマスコミの話題になるが、近年、医学界で世界的に注目を集めている日本発の「がん新薬」であるオプジーボ(製品名「ニボルマブ」)の開発者、京都大学名誉教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)先生は、その筆頭なのだそうである(今のところノーベル賞の受賞には至っていないが、見事、京都賞という立派な賞を受賞されたようである)。本庶先生は、2002年に日本の小野薬品工業と共同で特許を出願し、他社と共同開発をしようとしたところ、当時は免疫でがんを治すことの理解が得られず、国内外の十数社すべてに断られたとのことである。このように、どの分野においても「先駆者」というのは、当初は社会から認められず苦労することが多いようだ。本庶先生は、「新しいことをやるときは、人が注目しないところで、自分に確信があることをやらないといけない。それがイノベーションなのだ」と述べておられる。(2016年9月25日朝日新聞より引用)これと同趣旨の言葉は、ノーベル賞級の業績のある研究者の多くが語っているように思う。つまり、確信のあることは、継続することで実績を上げてこそ初めて人々に認められるということだろうか。

滞納整理における先駆者と管理監督者の役割

 滞納整理ではどうだろうか。かつて東京都が、国税も含めた数ある徴税機関の中で最初にインターネット公売を始めたのは、まさに滞納整理における革新的な出来事であったし、そのチャレンジ精神には敬服するものである。恐らく当時の東京都主税局内においても、インターネット公売を始めるに当たっては、「拙速だ」などのさまざまな批判も含めた議論があったのではないかと推察されるが、当時の都のスタッフがそうした数々の困難なハードルを乗り越えて実現させたのは、「強い信念」と「やり抜く力」があったからこそ今日国税も含め全国的な広がりのある状況になったのではないか。

 滞納整理に限ったことではないが、「意識を変えて新たなことにチャレンジする」ためには、このように「踏み出す勇気」がなければとてもできるものではない。ただ単に「踏み出す勇気を持て!」と抽象的な掛け声を叫ぶだけでは現状を変えることはできない。組織の意識を変え、そして新たな意識の下で着実なステップを踏み出すためには、組織を動かす立場にある管理監督者が先導的な役割を果たすべきだろう。もとよりそのきっかけは、職員からの提案であっても勿論構わない。その場合は、そのような先駆的な提案をした職員を積極的に支えてあげる必要があるだろう。そのような気概のある職員を大切にする職場であればこそ、意欲と活気に溢れた職場といえるだろう。

先駆的な取組みへのチャレンジ

 東京都を嚆矢(こうし)としたインターネット公売は、滞納整理における先駆的な取組みの典型といっていいと思うが、先駆的な取組みは勿論それに尽きるものではない。例えば、金融機関の貸出稟議書の閲覧、所有者不明の不動産に係る不在者の財産管理人選任による滞納整理、原告訴訟の提起(取立訴訟)あるいは告発(質問検査に対する不応答等非協力罪や滞納処分免脱罪)などは、地方税の滞納整理ではまだまだ未開拓の分野といえるのではないだろうか。第二次納税義務の追及もまだ伸びしろがあるように思われる。ここに例示した徴税の手段は、先駆的というよりもむしろ未開拓という言い方のほうが適切かもしれない。呼称はともかく、租税法律主義の下、法律に基づいた滞納整理を徹底することで、さらなる収納率の向上が図られるのであれば、徴収職員としては未開拓分野に積極的にチャレンジすべき職責があると思うし、それを支援し、後押しするのは管理監督者の重要な役割だと認識する必要があるだろう。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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