巻頭言 税制鳥瞰図 租税法律主義に基づく滞納整理

地方税・財政

2024.04.23

目次

    新潟税務協会 共同代表 山田 仁
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    『月刊 税』2024年2月号

     「政治」を税という視点で語るなら、誰からどのように税を徴収し、どこにどのように税を使うか決める仕組みと言える。18〜19世紀の市民革命は、市民が徴税権と執行権を王権から奪取した民主主義革命である。市民自らが徴税と執行のルールを決めることができる民主主義社会においては、脱税と滞納は市民共同体に対する裏切り行為となる。民意によって選ばれた政権が、どんなに素晴らしい租税制度を創設しても、脱税と滞納を放置していては、その制度は機能しない。その一方で役所内において税部門を軽視している傾向はないだろうか。それによって自信を失っている職員はいないだろうか。課税調査や滞納整理なくして租税秩序は維持できないし、租税秩序なくして民主主義は機能しないのである。税務部門は民主主義の壁であり、それを実現できるのは税務職員だけである。この仕事に誇りを持とう。

     憲法84条に「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定されているように、租税を賦課徴収する場合には、必ず議会の制定した法律に基づかなければならない。税務が租税法律主義に基づいて行わなければならないことは論を俟たないが、行政手続きの中でも裁量行為のない羈束行為とされている所以である。

     それでは、滞納整理の現場はどうなっているだろうか。租税法律主義に基づいた業務が徹底されているだろうか。「法は法として実務としては……」「差押えを執行するときは慎重に……」「地域経済に影響する差押えと公売はしない……」「首長の判断により滞納処分を執行しない……」等々。公務員が主権者の定めた法や条例を忖度できる超法規的な存在であるかのようにふるまっていないだろうか。その結果が長期高額滞納と租税債権の放棄となっていないだろうか。

     滞納整理の租税法律主義において、現場業務のありように直結している論点がふたつある。ひとつは、税法の「差押えなければならない」という規定である。徴収職員には「差押えをしなくともよい」という裁量権があるとの主張を時折耳にするが、その根拠に訓示規定であるからという論を聞く。訓示規定とは「違反しても行為の効力に影響がないもの」「罰則が適用されない」とされているが、公務員が「罰則がないから法を守らなくてもよい」と考えるのは論外であろう。コトバンクが国税徴収法47条1項1号を羈束行為の用例にしているのは興味深い。

     ふたつには、法によらない分納承認である。口頭や猶予手続きを経ない納税誓約書により、猶予分納を承認している団体は少なくない。行政手続きを経ずして猶予を承認することは不適切であるだけでなく、要件と条件を満たしていない滞納者に差押えをしないという「約束」をすることになる。滞納処分の不作為による租税債権の放棄で、住民訴訟により裁判所から弁済を命じられることになったら、懲戒処分をより重く課せられるのは担当職員であろう。税務組織(管理職員)は自戒すべきである。

     このような話をすると、「杓子定規にやっていると滞納整理は進まない」「結果がでることが大事」という反論が聞こえてくる。私はイノベーションを重ねながら20年近くこの方針を実践してきた。そして、私がかかわった地方団体、徴収機構、担当者の収納率、歳入額、繰越調定額等の数値は劇的に改善された。

     新潟税務協会が租税法律主義の徹底を掲げているのは、それを実践することにより、滞納整理が効果的かつ効率的に遂行され、その結果として、より歳入が確保され、公平感をもって租税秩序が維持され、主権者たる納税者・市民の利益となると確信しているからである。当協会は令和6年中にNPO法人とする予定である。4月にはホームページを立ち上げる。活動は新潟県内に限定していないので、お問い合わせ願いたい。

     

    Profile
    山田 仁 やまだ ひとし

    新潟税務協会 共同代表
    新潟県。自治労東北地連青年婦人協議会議長などの労働組合役員を歴任。新潟県税務課犯則調査班などで税務調査を担当し、全国を席巻した軽油引取税の広域脱税事件を摘発した。各地域の新潟県徴収機構特別機動整理班で市町村の長期高額滞納案件を担当。新潟地域振興局県税部間税課長、新潟地域振興局県税部副部長などを経て新潟県を定年退職。平成29年税務職員総務大臣表彰。ローカルガバメントネットワーク講師。

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