月刊「税」

掛貝祐太

巻頭言 税制鳥瞰図 公共空間は誰のものになった?―゛おしゃれ゛な図書館、企業版ふるさと納税、ジェントリフィケーションをめぐって

地方税・財政

2022.08.03

目次

     

    巻頭言 税制鳥瞰図
    公共サービスを支える税制を築けるか

    茨城大学人文社会科学部講師 掛貝祐太

    『月刊 税』2022年2月号

     「映える」公共施設が、みんなの注目の的になる。よくある話だ。よくある話であるがゆえに陳腐化も早く、それへの批判も泡沫の如しである。昨年報道を騒がせた中野東図書館は、その最たる事例かもしれない。同施設は、今年2月の開館に先立って、「100日後に開館する中野東図書館」なるTwitterアカウントを開設するなどのSNSでの情報発信を積極的に行っていた。しかし、7階から9階までの吹き抜けに用意された高さ10mもの高層本棚が公開されると、実用性や安全性が疑問視され、開館前から批判の的となった。たしかに「映える」かもしれない。しかし、それは公共図書館にとって重要なのだろうか。

     一過性の報道に思えるかもしれないが、それなりに文脈がある。中野区長も視察に訪れていたとされる、佐賀県武雄市のTSUTAYA図書館はこうした「映える」高層本棚の走りだ。この図書館は、運営をTSUTAYAの経営会社のCCCに委託し、書店として本を売るスペースや、スターバックスを内部に設け、当初話題となった。しかし、その後、選書の質の問題、郷土資料の破棄、司書の雇用の不安定化、車いすで入りにくい場所の存在など、様々な点で批判を浴びた。往々にして、公共施設の民営化は、「みんな」にとっての施設や空間を、消費者にとっての空間に変えてしまう事がある。

     良くも悪くも、そのさらに極端な例が、埼玉県のところざわサクラタウンである。同施設は、株式会社KADOKAWAによる「日本最大級のポップカルチャー発信拠点」であり、「博物館・美術館・図書館・アニメミュージアムが融合した文化複合施設」をうたっている。厳密な意味では公共図書館・美術館ではないが、同エリアは同社と所沢市による「COOL JAPAN FOREST構想」のもとに共同開発されている。同構想は、「所沢市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中に位置づけられ、国から地方創生先行型上乗せ交付分を受けている。さらに、KADOKAWAは、「企業版ふるさと納税」のもとで同プロジェクトに寄付を行い、税制上の優遇を受けており、公的な性格も有する。しかし、同エリア内ミュージアムの1DAYパスは平日3000円、土日4000円と誰にでも開かれているわけではない。

     そもそも「企業版ふるさと納税」とは何か。個人のふるさと納税には、財政学者の(多くは否定的な)議論の蓄積があるが、それに比して問題視されることは少ない。これは、地方公共団体が行う地方創生のプロジェクトに対し「寄付」をした企業に、法人関係税の税額控除を行うものである。「寄付」額の9割が控除の上限額である。また個人版と違い、経済的な見返りを設けることは禁止されている。

     だが、実態はどうか。所沢市の事例でも、KADOKAWAが実質的に経済的な見返りを得ている事は明白であり、「寄付」という設立趣旨とは乖離している。他にもCygamesが当時スポンサーを務めていたサッカーチームの所在する鳥栖市に同制度を使い、スタジアム建設のために「寄付」をするなどの事例もある。ユニークな官民連携、と評価する向きもあるかもしれない。しかし、根本的には、まちや公共空間のあり方、税金の使途が一民間企業によって大きく左右されるという、財政民主主義に対する矛盾をはらむ。さらに、法人税の節税効果が大きい、大企業優遇の税制だとの批判もある(山田喜康(2019)『「ふるさと納税制度」と「企業版ふるさと納税制度」の相違点および問題点』熊本学園商学論集、23⑴、47―63)。

     一見「なんとなく良く見える公共空間」は、公共空間の私有化を通じて、そこに馴染む消費者以外が排除されている可能性もある。昨年のオリンピックを契機にした再開発も、宮下「公」園に代表されるジェントリフィケーションを招いた。今一度、公共空間は誰のものか、問い直すべきではないのか。

     

     

    Profile
    掛貝 祐太 かけがい・ゆうた

    茨城大学人文社会科学部講師
     慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学、博士(経済学)。日本学術振興会特別研究員DC1、慶應義塾大学経済学部助教(有期)を経て、2020年4月より現職。専門は財政学(財政民主主義、現代スイス財政)。近刊に、「財政民主主義についてのサーベイと概念的多面化への試論利害の多様性を前提とした財政民主主義へ」『生活経済政策』(287)2020年12月、「NPMと現代スイスの労働政策における政治過程について競争的・客観的・量的評価は、いかにして政治的に拒絶可能か」『社会保障研究』(6⑶)2021年12月など。

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