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検証 ふるさと納税 ― 不指定取消請求事件最高裁判決から考える制度のあり方 Ⅰ 判決を読み解く ふるさと納税のゲーム構造と法的規律付け

NEW地方税・財政

2020.11.13

検証 ふるさと納税 ― 不指定取消請求事件最高裁判決から考える制度のあり方
Ⅰ 判決を読み解く ふるさと納税のゲーム構造と法的規律付け

東京大学大学院法学政治学研究科准教授 神山 弘行

『月刊 税』2020年9月号

1 はじめに

 最高裁第三小法廷令和2年6月30日判決は、ふるさと納税の制度設計、及び国による地方公共団体への関与のあり方について再考する契機を与えてくれている。本稿では、地方公共団体の課税自主権とそのインセンティブ構造について検討を加えた神山(近刊)※1を踏まえて、本判決及び紛争が生じた背後構造を念頭に置きつつ、今後のふるさと納税のあり方を検討する際に有益と考えられる視点を幾つか提供することとしたい。※2

2 最高裁判決の理解

(1) 事案の概要
  本件は、平成31年総務省告示第179号(以下、本件告示とよぶ)に基づき、ふるさと納税に係る指定制度(地方税法37条の2第2項、314条の7第2項)において泉佐野市を不指定とする決定の取り消しを争った事案であった。

(2) 判旨
  最高裁は次のように述べて、判断枠組みを定立している。

 「地方自治法245条の2は……関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるものであるから、関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要するというべきである。」

 「本件告示2条3号の規定が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しないというべきである。」

 その上で、本件告示の趣旨について次のように判断をしている。

 「本件告示2条3号(ただし、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分をいう……)は、被上告人が主張するとおり、本件指定制度の導入に当たり、その導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により寄附金の募集を行い、著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点から、特例控除の対象となる寄附金の寄附先としての適格性を欠くものとして、指定を受けられないこととする趣旨に出たものと解される。言い換えれば、そのような地方団体については、本件改正規定の施行前における募集実績自体を理由に、指定対象期間において寄附金の募集を適正に行う見込みがあるか否かにかかわらず、指定を受けられないこととするものといえる。」

 そして、本件告示について、次のように述べて法の委任の範囲を超えた違法なものとの判断を下している。

 「地方税法37条の2第2項につき、関係規定の文理や総務大臣に対する委任の趣旨等のほか、立法過程における議論をしんしゃくしても、前記……のような趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできない。そうすると、本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである」。

(3) 本判決の意義
 本判決の意義は、最高裁が、不指定に関して、本件告示のうち「本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分」について、地方税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効と判断した点にある。

 本件改正規定の施行前には、返礼品について法令上の規制は存在せず、総務大臣による技術的な助言である「通知」(地方自治法245条の4第1項)が存在していただけであった。地方自治法247条3項の趣旨について、最高裁は「普通地方公共団体は助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わず、これに従わなくても不利益な取扱いを受ける法律上の根拠がないため、その不利益な取扱いを禁止することにあると解される」旨を判示している。この判断は、国と私人間だけでなく、国と地方公共団体の間でも「法律」に基づく行政が求められるという点において、法治主義に資すると評価できよう。※3

 本判決の射程について考えてみる。本件改正規定の施行後の部分について、本判決は明示的に述べてはいない。この点、本判決は「本件告示2条3号(ただし、本件改正規定の施行前に……ついて定める部分をいう)」と限定を付しており、その反対解釈として、施行後の部分については地方税法の委任の範囲内であると理解することが自然ではないだろうか。地方公共団体が告示の要件に該当しない場合、一定の不利益が及ぶ旨が法律に規定されている範囲において、国は不利益処分を法律が規定する限度において課すことは認められると解される。なお、告示ではなく地方税法自体に改正法施行前の寄附金募集の態様等を指定の要件として明記した場合、不利益を課すことが認められるか否かについては、判決文からは不分明である。

 法廷意見が傍論において指摘するように、泉佐野市の「返礼品の提供の態様は、社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」水準のものであるとしても、「けしからぬ」から法律の委任の範囲を逸脱して不利益を課すことが許されないと最高裁は判断をしたのである。※4

3 ふるさと納税を巡るゲーム構造

※5

 ふるさと納税制度を巡る地方公共団体間の行動原理とゲームの構造はどのように解されるのであろうか。この点、本判決の林補足意見は、「ふるさと納税制度自体が……端的にいってゼロサムゲーム」との問題を内包していると指摘している。

 ふるさと納税の仕組みは、地方公共団体間の返礼品競争という形で、租税競争(tax competition)を生み出す構造になっていると考えられる。※6これは、水平的外部性(horizontal externality)の問題を惹起する。※7さらに、ふるさと納税は、所得税額の計算において寄附額の所得控除を行えるため、国と地方の間の税収獲得を巡る垂直的競争を生み出し、垂直的外部性(verticalexternality)の問題をも惹起させる可能性がある。※8これらの点については、実証研究の蓄積が待たれるところであるが、もし仮に水平的外部性や垂直的外部性の問題を惹起しているのであれば、ふるさと納税制度は「ゼロサムゲーム」ではなく、「マイナスサムゲーム」になっており社会厚生(social welfare)を減じている可能性がある。

4 今後の方向性

 もしも、ふるさと納税の返礼品競争が、社会厚生を減じる「マイナスサムゲーム」の状況に陥っており、かつ、国の関与によりその状況を改善できるのであれば、国の関与自体は正当化されよう。そして、本判決を踏まえれば、関与のあり方は通知等のソフトな関与ではなく、法律に基づくハードな関与が志向されるべきということになる。

 法律に基づく規律付けといっても、①直接的規制、②金銭的負担を課す間接的規制(例:ピグー税)、③補助金などの間接的規制(例:ピグー補助金)など様々な政策手法が考えられる。ふるさと納税における返礼品競争から生じる水平的外部制及び垂直的外部性に対処するために、何らかの規律付けが必要であるとすれば、社会的に最適な政策手法を選択することが求められているのではないだろうか。※9さらに、社会的に望ましい法制度を設計するためには、寄附主体である個人納税者の行動原理特に寄附行為と経済的インセンティブの関係の理解を更新することも有益であろう。※10国の政策当局には、法律学と経済学の双方の知見を有機的に関連付けて、効果的な政策手法を探求することが求められているのではないだろうか。

 

(注)
*本稿は、JSPS科研費JP18K01241、JP18K01408の研究成果の一部である。
(1) 神山弘行「憲法92条・94条と課税自主権:地方公共団体のインセンティブ構造」日税研論集77号『憲法と租税法』(2020年公刊予定)。
(2) 本判決の判例評釈については別稿を予定しているところ、ここでは立法政策論の観点からも検討を加えることとしたい。
(3) 資産家が香港に住所を移すことで巨額の贈与税回避を試みた事案で、最高裁第二小法廷平成23年2月18日判決(判時2111号3頁)は、傍論部分ではあるが、「このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないというのであれば、法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法によって対処すべきもの」と述べている。
(4) なお、国内銀行が外国税額控除の余裕枠を流用した事案において、最高裁第二小法廷平成17年12月19日判決(民集59巻10号2964頁)は「外国税額控除制度を濫用するものであり、さらには、税負担の公平を著しく害するものとして許されない」として法人税法の規定を限定解釈することで租税回避を否認している。
(5) ここでは、神山・前掲注?における分析の一部を簡単に紹介する。
(6) 深澤映司「ふるさと納税を背景とした諸現象の本質」レファレンス818号53、64―65頁(2019年)参照。
(7) E.g.David Gamage & Darien Shanske,Tax Cannibalizationand Fiscal Federalism in the United States, 111(2) Nw. U. L.REV.295(2017); 佐藤主光「地方税の諸問題と分権的財政制度のあり方」フィナンシャル・レビュー65号148、152―153頁(2002年)。
(8) E.g. Gamage & Shanske, supra note 7, at 304 ;深澤・前掲注(6)74―77頁。
(9) 詳細については、神山・前掲注(1)参照。
(10) E.g. Dan Ariely, Anat Bracha & Stephan Meier, Doing Good or Doing Well? Image Motivation and Monetary Incentives in Behaving Prosocially,99(1) AMERICAN ECONOMICREVIEW 544(2009). 同論文の紹介として、増井良啓「行動経済学から見た個人寄付の一側面」東京大学法科大学院ローレビュー5巻351頁(2010年)。

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