検証 ふるさと納税 ― 不指定取消請求事件最高裁判決から考える制度のあり方 Ⅲ 制度を再考する 情報提供と非対価性の重要性 ― ふるさと納税制度の二面性を踏まえて

地方税・財政

2020.11.13

検証 ふるさと納税 ― 不指定取消請求事件最高裁判決から考える制度のあり方
Ⅲ 制度を再考する 情報提供と非対価性の重要性 ― ふるさと納税制度の二面性を踏まえて

一橋大学大学院法学研究科教授 吉村 政穂

『月刊 税』2020年9月号

1 ふるさと納税制度の見直しと最高裁判決

 ふるさと納税制度に関しては、令和元年度税制改正において、過度な返礼品の送付によって「制度の趣旨」を歪めている地方公共団体をふるさと納税制度の対象外とする見直しが実施された。その際の与党税制改正大綱(自由民主党・公明党「平成31年度税制改正大綱」(平成30年12月))では、過度な返礼品の送付がふるさと納税制度の趣旨と対立するものであることを認め、同制度の健全な発展に向けた見直しが必要であることを強調していた。その結果、「特例控除対象寄附金」という概念が創設され、地方税法37条の2第2項および314条の7第2項(以下、314条の7に関する記載は省略する)により、「寄附金の募集の適正な実施に係る基準」の策定が総務大臣に委任された上で、当該基準に適合する都道府県等について総務大臣による指定がなされることとされた。さらに、都道府県等が寄附金受領に対して物品、役務等の返礼品等を提供する場合には、当該基準および同項所掲の2つの基準(返礼割合基準および地場産品基準)に適合することが指定の条件とされている(同項柱書かっこ書き)。

 さらに、地方税法37条の2第2項に基づいて総務大臣が定めた基準(平成31年総務省告示第179号。以下、「本件告示」という)には、①趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような寄附金の募集を行い、②他の地方団体に比して著しく多額の寄附金を受領したという過去の実績を考慮し、「募集の適正な実施」基準を充足するか否かを判定する旨が盛り込まれていた(本件告示2条3号)。そしてこの基準を充足していない点を理由の1つとして、ふるさと納税の対象となる地方団体として指定しない決定を受けた泉佐野市は、改正前の過去の実績を考慮することが、法律の委任を受けた基準の内容として合理的なものと評価できるかを争った。既報の通り、当該不指定の取消請求は最高裁において認容され(最三小判令和2年6月30日)、同市はふるさと納税の対象となる地方団体の指定を受けるに至った(2020年7月3日)。

2 寄附金と税の調和

 本稿では、最高裁判決に付された宮崎裕子判事の補足意見を手がかりとして、ふるさと納税制度の今後のあり方について検討する。宮崎判事は、令和元年度税制改正について次のように述べ、その位置付けを明確にしている。

 「ふるさと納税制度は、『ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝え、又は税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とすることを趣旨として創設された制度』であることは本件告示の中でも触れられているとおりであるが、『ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝え』という部分は、この制度に基づいて地方団体が受け取るものは寄附金であることを前提としたものとして理解できるのに対して、『税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とすること』という部分は、この制度に基づいて地方団体が受け取るものは実質的には税であることを前提として、一定の限度で税の配分を納税者の意思で決められるようにするというものであるから、前者の趣旨とは前提を異にしていることになる。」

 「この法改正は、立法府としては、本件改正規定の施行前後を問わず、地方団体が受け取るものは寄附金であるから、返礼品の提供自体が、例えば税の対価であるなどとして違法視されるべき理由はないと考えていたことを確認し、明確化したものといえるであろう。そして、本件改正規定は、ふるさと納税制度の創設当初から掲げられていた、寄附金であることを前提とする制度趣旨と実質的に税であることを前提とする制度趣旨が、共にバランスよく達成されるために不可欠と考えられる返礼品の提供に係る調整の仕組みを、初めて導入したものである。」

 こうした寄附金と税の調和という観点をさらに深めるため、アメリカにおける2017年税制改革によって州・地方税(SALT)控除が大きく制限されたことで喚起された議論を参照する。アメリカ連邦所得税の所得算定にあっては、その創設当初から州・地方税の所得控除が認められ、重要な構成要素と考えられてきた。

 しかしながら、2017年税制改革において、減税に伴う税収減を補う目的から、このSALT控除の上限が低い水準(年間1万ドル)に設定されることになった。その結果として、相対的に高い税率を課してきた州においては、連邦所得税が軽減されるという利益が失われ、当該州の住民に対する負担増が生じることになった。この事態に直面したいくつかの州は、住民の負担増に対する回避策(workaround)を講じている。

 その1つが、州が提供している慈善寄附金(charitable contributions)への優遇税制を利用した手法である。州が設立した慈善団体への寄附金支出を促し、これに州税上の軽減措置(税額控除)を付与すると同時に、連邦所得税において慈善寄附金の所得控除が(より緩やかに)認められていることを利用して、連邦所得税の軽減を実現するプログラムである。

 これに対して、連邦政府は、連邦所得税において考慮される慈善寄附金の額を計算するにあたって、当該寄附者が対価として受け取った利益として、州・地方税の軽減額を差し引くことを義務付ける財務省規則(2019年6月)を発出し、回避策を封じることを試みている。これは、返礼品等の受取利益については寄附金控除を認めないという報償(quid pro quo)原則に基づくものと説明されている。また、寄附金額の15%相当額未満の税額控除、または寄附金相当額の所得控除が付与されるにすぎない場合には、このルールは適用除外とされる。

 こうした一連の動きによって、2017年税制改革によって生じた税と寄附金との税制上の不均衡に注目が集まることになった。紙幅の関係上、ここでは、Hemel助教授が、議会よりも情報優位にある個人に意思決定を委ねる議論に両者を統一的に論じる可能性を見出していたことに注目したい(Daniel Hemel, TheState-Charity Disparity and the 2017 Tax Law, 58 J.L. &Pol'y 189(2019))。税制上の優遇措置を、納税者による直接的な歳出選択の制度と見立てる議論(SaulLevmore, Taxes as Ballots, 65 U. Chi. L. Rev. 387(1998))を踏まえ、地域に根差した知識を活用するという視点を打ち出していたのである。

3 結び

 地方団体に対する寄附金に税の支払に準ずる優遇(特例での税額控除)を認める日本のふるさと納税制度と異なり、アメリカの一部州の回避策は、税に対する優遇が制限されたために、州・地方自治体に対する納税を寄附金に置き換えるものである。また、優遇を付与することになる政府レベルが異なっている点にも注意する必要がある。アメリカでは、州・地方団体に対する連邦財政からの補助金として捉える見方が一般的であるのに対して、日本ではもっぱら地方団体間の税収移転を狙ったものと受け止められている。

 しかしながら、こうした違いに注意しつつも、仮に「税の使いみちを自らの意思で決められることを可能とすること」によって、一般的な寄附金と区別した取扱いが正当化されるのだとすれば、寄附者である個人が国会および政府よりも情報優位にあることへの期待に改めて重点を置くことが望ましいと考えられる。

 まさに「ふるさと納税研究会報告書(平成19年10月)」が期待していたように、個人の有する情報に基づいた判断を促すべく、地方団体による情報提供(寄附金の使途の明示・報告)が重要であると思われる。また、その判断の適正さを確保するためにも、令和元年度税制改正で法令化された(アメリカの最終規則にも共通して見られた)非対価性の強調が重要である。

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