巻頭言 税制鳥瞰図 ソーシャル・キャピタルからみる「ふるさと納税」

地方税・財政

2021.09.17

巻頭言 税制鳥瞰図
ソーシャル・キャピタルからみる「ふるさと納税」

愛媛大学法文学部 講師 高橋 勇介

『月刊 税』2021年7月号

ふるさと納税は「税金」なのかそれとも「寄附」なのか

 2008年度より始まったふるさと納税制度は、地方税の原則である応益原則や財政民主主義との整合性、過剰な返礼品競争が問題となってきた。ふるさと納税の意義として、総務省は、①納税者が寄附先を選択でき、税に対する意識が高まること、②生まれ故郷やお世話になった地域、応援したい地域の力になれ、人を育て、自然を守り、地域の環境を育む支援になること、③自治体が国民に向け取り組みをアピールすることで、自治体間の競争が生まれ、納税先に選んでもらえるにふさわしい地域のあり方をあらためて考えるきっかけにつながることを挙げている。もちろん、ふるさと納税が地方財政にとっての一助となり、税収が地域の活性化や福祉などに用いられるのであれば、寄附金型の税制として一定の意義があるといえる。その一方で、ふるさと納税は「税金」なのかそれとも「寄附」なのか、改めて検証する必要もあるだろう。

 特に、返礼品競争については、財政力が弱い地方自治体が、ふるさと納税による寄附金の獲得で税収を拡大させる狙いも考えられ、地方自治体間の租税競争ないしはヤードスティック競争の結果、返礼率が決まる可能性もある。この点については、2019年度の地方税法の改正により、返礼品の返礼割合を3割以下とする、返礼品を地場産品とすることが規定されたことで、一定の抑制が図られたといえる。

 前述のとおり、自分の住んでいる地域以外への納税は地方税の原則とは相いれないかもしれないが、税収が少ない過疎地や、災害で被災した地域への寄附として機能しているならば、財政調整の新しいメカニズムになっているとも評価できるし、応援したい地域への純粋な「寄附」として、ふるさと納税が機能しているならば、地方税の在り方を問い直すきっかけとなるのではないだろうか。

ソーシャル・キャピタル

 筆者が「寄附」ないしは「ふるさと納税」を考える上で念頭に置いている概念の一つとして「ソーシャル・キャピタル」が挙げられる。パットナムによって「人々の協調行動を促すことにより社会の効率性を高める働きをする信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」と定義され、一般に、①人と人との「信頼」、②協調につながる「互酬性の(社会的)規範」、③人や組織の間の「ネットワーク」といった要素を含む概念とされる。国内外で、ソーシャル・キャピタルと寄附行動やボランティア活動などとの関係を検証した研究は少なからずあり、特に、ソーシャル・キャピタルと非営利団体などへの一般的な寄附、ないしは、ふるさと納税の納税要因とソーシャル・キャピタルの関係を検証したものが筆者等の論考であった(高橋勇介・要藤正任・小嶋大造(2019)「ふるさと納税制度の利用者の属性と要因分析―一般的な「寄附」との比較からの検証―」『経済政策ジャーナル』第16巻第1号参照)。

 同研究は、アンケート調査をもとに、世帯年収や一部の就労形態など経済的な要因とともに、ソーシャル・キャピタルの要素である「互酬性の意識」が一般的な寄附同様、ふるさと納税の要因となっていることを指摘しており、返礼品といった経済的な要因のみに基づくとすることも、あるいは地方自治体への純粋な寄附とすることも、いずれも一面的な評価であると指摘している。ソーシャル・キャピタルが納税要因の要素となっているならば、地方自治体にとって、返礼品という経済的なインセンティブを過大に付与しなくても、一定のふるさと納税は期待されるであろうし、利用者に対しては、「互酬性の意識」を引き出していくような取組が有効であることが示唆されたといえよう。

 制度の運営については、特例控除の見直しや返礼品の運用抑制、互酬性の意識を引き出していくような仕組みや運用について検討していく、ふるさと納税が災害の被災地や財政状況が悪い過疎地への応援、もしくは社会福祉の充実など、どのように地域の役に立っているのかに関する情報発信を行っていくなどの工夫が必要である。

 

 

Profile
高橋 勇介 たかはし・ゆうすけ

愛媛大学法文学部 講師
 1988年生まれ。2011年立命館大学経済学部卒業。2016年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。京都大学経済研究所研究員等を経て、2019年10月より現職。財政学を中心に、社会政策、労働経済学、公共政策、経済政策等が関心分野。最近の主な論文に「ワーキングプアに対する雇用セーフティネットの機能不全とその克服―雇用保険を中心に―」『貧困研究』第21巻(2018年)、「パネルデータからみた非正規雇用の現状と正規雇用への転換」『経済政策ジャーナル』第17巻第2号(2021年)など多数。

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