徴収の智慧
徴収の智慧 第5話 折衝重視の滞納整理からの脱却
地方自治
2019.06.28
徴収の智慧
第5話 折衝重視の滞納整理からの脱却
滞納整理とは
滞納整理とは、調査・折衝・処分により税収の確保を図るとともに、不良債権の処理を促進して、滞納を解消することを目的とした事務と定義することができる。この滞納整理という用語は、それぞれの案件ごとに当事者が異なる民事の債権について使われることはなく、同一債権者を一方の当事者として大量かつ反復的に行われる公債権(強制徴収公債権・非強制徴収公債権)について使われる。これに対して前者は、一般に債権回収と言われることが多い。
その滞納整理の手法として、各地方団体では長年、調査・折衝・処分が広く行われてきたことについては、徴収職員にしてみれば言わずもがなのことであろう。それは、調査・折衝・処分というものが、それほどまでに徴収職員の間で「当然視」されてきたということのほかに、彼らの中に深く浸透し、根付いていることの証左でもあるだろう。このようなこともあって、ほとんどの徴収職員が、何の疑問もなく調査・折衝・処分を当然の前提として、滞納整理計画を立案し、それを実行しているのが、地方税の滞納整理における現状であると言って差し支えないと思う。
折衝の意義と位置付け
ところで、この調査・折衝・処分のうち、調査と処分には法律上の根拠があるから、疑問を差し挟めるものではないとしても、折衝に関しては、(私は)滞納整理の手法としてかなり懐疑的である。
そもそも折衝には根拠条文が存在せず、その意義や位置付けについては、地方団体のみならず、徴収職員によってさえ、その理解があまりにも区々(まちまち)であって、ある者は、折衝とは滞納者を説得することであると理解しているかと思えば、別のある者は、折衝とは履行の請求であり、同時に納税意思の確認でもあるなどと理解している。つまり、明文の根拠がないだけに、その理解は千差万別なのである。ことはそれにとどまらず、運用もまた実に多様である。ある地方団体では、説得に重点を置いた折衝を滞納整理の中心に据えて、滞納処分については、よほど悪質な滞納者でなければ執行しないというところもあれば、他方、折衝はあくまでも滞納整理の補助的な手段として位置づけ、滞納者の方から相談なり弁明なりという形で接触してきたときだけこれに応じることとし、徴収職員の方から積極的にアプローチすることはないというところもある。
租税法律主義の下での滞納整理
かくしてその意義や位置付けだけでなく、その運用においても千差万別な折衝というものを、滞納整理の中でどのように捉えるべきであろうか。思うに、租税法律主義の下での滞納整理は、もとより法律に基づいて行うべきものであるから、その中心的な事務は、あくまでも法律に根拠のある調査と処分であるべきである。ただ、税務事務が大量かつ反復性の高い事務であることを考えれば、徴収職員に調査の完璧性ないしは無謬性を求めるのは酷であるし、実務の観点からすれば、そうした要求は非現実的ですらある。そこで、折衝によって調査を一部補完することで、処理の方向性を判断するための参考としたり、処分すべき案件を絞り込む際の判断材料のひとつとしたりする、といった活用方法などは首肯できるのではないか。しかし、「言葉」は真実性の証(あかし)でもなければ、担保にもならないから、処理の方向性を判断するのは、あくまでも調査によって収集した資料であるべきであり、その意味で滞納整理における主役は、調査と処分なのであって、折衝は脇役に過ぎないと認識する必要がある。
折衝重視の滞納整理からの脱却を願う
少なからぬ地方団体において、これまで「滞納者を説得する」と称して、いつ終わるとも知れず、しかも効果の有無さえも不明な不確定要素を孕(はら)みつつ、さしたる進展も見られないままに、延々と折衝が続けられてきたのではないか。ここに滞納整理が足踏みをしてしまう根本的な原因が潜んでいるように思われてならない。徴収職員には、この辺の発想の転換を期待したいところであり、またこのことに早く気付いてほしいと願わずにはいられない。