徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第65話 無要な間接強制

NEW地方税・財政

2020.03.05

徴収の智慧

第65話 無要な間接強制

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年11月号

法律に基づいた滞納整理ができているか

 税については、その高度な公益性の故に、たとえその納付義務者が納付に反対の意思を表明したとしても、一定の要件の下に強制徴収することができることとなっている。そしてその正統性の淵源は、民主的な議会において制定された法律にその拠って立つ根拠が求められるのである。それは言ってみれば社会契約としての規範に正当性が求められるわけだから、法律として国会で成立した以上は、個々の国民がそれに異を唱えたところで、その規範としての拘束力から逃れることはできない。従って、処分庁の窓口で「差押えを解除しろ」などと喚き立てたところでそのような理不尽な主張など通るはずもないのは自明である。だから徴税吏員は、要件規範としての税法に則って自力執行権を粛々と行使していけば、自ずと整理は進捗するように制度は作られているのである。にもかかわらず整理の進捗がはかばかしくないという状況があるとするならば、それは徴税吏員が「法律に基づいた滞納整理」を徹底していないからではないか。つまり、裁量権などない場面で勝手な裁量(独断!)で事務を進めてみたり、徴税吏員には法律で自力執行権が与えられているにも拘わらずそれを適切に行使せずに、滞納者等と整理の進捗に必要のない話ばかりして貴重な時間を浪費していたりしていないだろうか。

なぜ自力執行権を行使しないのか

 更にはそうしたことに加えて、地方団体によっては滞納者の氏名を公表する条例を制定したところがあるかと思えば、いわゆる充足差押えの場合における延滞金の免除を裁量事項として運用しているところも少なからずあるようなのである。前者について言えば、行政法の教科書では、義務違反者に対する間接強制の一手段としてそのような方法も考えられる旨の記述があり、現にアメリカ合衆国の幾つかの州では、税の滞納者を公表するサイトを立ち上げているところもあるようなのである。その趣旨は、「滞納者に恥をかかせる」ことだとある。つまり、恥をかきたくなかったら納税しなさいという間接強制としての効果を期待してサイトを立ち上げたというわけである。翻ってわが国で滞納者の氏名を公表する条例を最初に制定した地方団体ではどうか。件の団体の税滞納審査会議事録を見てみると、当該条例の制定このかた20年近く経っても、いまだに一件も公表したことがないというのだから呆れるばかりである。皮肉ではないが、当時、話題作りにはなったのかもしれないが、結果として実効性はなかったということだろうか。このことは何を意味しているか。思うに税の本質たる公益性・強制性を見誤ったのではないだろうか。税にはその高度な公益性故に強制性があり、その裏付けとして税法によって徴税吏員に自力執行権が付与されている。だから、法律通りに事務を進めていけば税収を確保することができるように制度設計されているのである。にもかかわらず、その行使に消極的であるばかりか、「滞納者の氏名公表」という新たな間接強制を作っておきながら、それすらも行使しなかったというのであるから、納税者に対してどのように釈明するのであろうか。「壮大な社会実験でした」とでも言うのだろうか、それとも「いい勉強になりました」とでも言うのだろうか。

無用な間接強制の運用を行っていないか

 一方いわゆる充足差押えの場合における延滞金の免除を裁量事項として運用しているところについてはどうか。この条項の意味は、「直接強制である差押えと間接強制である延滞金とが重複している期間については、強制の重複を避ける意味で、罰則的部分の延滞金を免除する」というにあるから、条文上は「できる」となっているものの、要件に合致する限りにおいて当該部分の延滞金は、その二分の一を免除するという運用をすべきものである。ところが、こうした制度の趣旨にも拘わらず、条文の形式上「できる」となっているからこれは裁量事項であると勝手に解釈して運用しているところも少なくないようなのである。

 以上見たように、滞納者の氏名公表にしろ、充足差押えにおける延滞金の免除にしろ、滞納整理実務において無用な間接強制の運用を行っていないか今一度見直す必要があるだろう。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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