徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第42話 ニュースを続けます

地方税・財政

2019.10.18

徴収の智慧

第42話 ニュースを続けます

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2017年12月号

違和感のあるフレーズ

 最近気になることのひとつに「ニュースを続けます」というのがある。専らNHKで聞くことが多いのだが、民放でもこのような言い方をするところがある。このフレーズを聞いて私のほかにも違和感を覚えている方は少なくないのではないか。そもそもニュースを見ているのにその途中で、アナウンサーが突然「ニュースを続けます」と発するのだから、見ている当方としては「えっ?」となるのである。何とも不思議な発言である。想像するに、その発言の直前の(ニュースの)話題が比較的長く続いたので、話題を転換するという意味でそのような発言になっているのだろうか。それとも、これまでそこそこ長い時間ニュースが続いたので、視聴者が、そろそろ天気予報やスポーツニュースに切り替わる頃だろうと思っているかもしれないので、ところがどっこいまだニュースが続くので、ここでチャンネルを変えたり、テレビのスイッチを切ったりしないでくださいということを注意的に伝えているつもりなのだろうか。真の理由は知る由もないが、もしも当たらずと雖も遠からずというのであれば、例えば「次のニュースです」とか「そのほかのニュースに移ります」などと言った方が、よほどわかりやすいし違和感もないと思う(これとて大して言う必要性を感じないのだが……)。

電車のホームでも

 実はこのほかにも違和感を覚えることがある。JRの電車に乗ろうとホームで電車を待っていると、駅員による「駆け込み乗車は危険ですから、無理をなさらないで次の電車もあわせてご利用ください」とのアナウンスが流れるのである。こちらも先ほどの「ニュースを続けます」に劣らず強烈な違和感を覚える。それを言うなら「駆け込み乗車は危険ですから、無理をなさらないで次の電車をご利用ください」であろう。このおかしな言い回しは、特定の駅だけでなく複数のJRの駅で聞かれるので、恐らくマニュアルがそのようになっているのだろうと推察される。乗客にしてみれば、体はひとつなのだから、いま目の前でまさに発車しようとしている電車と「あわせて」次の電車にも乗ることなどできようはずもない。ひょっとしたらそのマニュアルの作成者にしてみれば、「無理をして目の前の電車に駆け込んで乗車をすると、思わぬケガをすることもあるから、次に来る電車に乗ることもあわせて検討してみてください」ということなのだろうか。だとしたら、急いでいるからこそ駆け込んでまで飛び乗ろうとしている乗客に向かって、そんな悠長で説き伏せるかのような言い方を想定するなど何とも現実離れしてやいないだろうか。

慣行を疑うべし

 以上、最近不思議に思ったことを長々と書いたが、滞納整理でも似たようなことがありやしないかという問題提起の意味で紹介したまでである。すなわち、長年職場で行われてきた「慣行」や「疑う余地がないほどにまで定着している実務」というものが、果たして本当に効果的で効率的な手法であるのかどうか、また、法令に照らして、その趣旨にも沿ったものなのかどうか検証してみる必要があるのではないだろうか。例えば、「滞納者を粘り強く説得する」とか「納税相談とは、すなわち分納相談のことである」などと思い込んでいることはないだろうか。滞納整理とは、徴税吏員が地方税法と国税徴収法という法律を使って行う事務のことであるという原点をちゃんと踏まえているだろうか。先に紹介した「ニュースを続けます」にしても「次の電車もあわせてご利用ください」にしても、社内研修や上司からの指導によるものと推察されるが、ひょっとしたら件の組織では研修講師や上司からの指導に対して疑問を呈することなど憚られるような雰囲気があるのかもしれない。単に「見解の相違」というのであればやむを得ない面もあろうが、それが対外的に発せられるものであったり、仕事の効率性や効果に対して決定的な影響を与えるものであるようなときは、それこそそれらの仕事に携わる職員一人ひとりが自分の意見・考え方を率直に表明することができ、かつ自由闊達な議論が交わされるような職場であることが望まれるのである。滞納整理のような権力作用を伴う行政事務であってみれば、その影響力を考えれば、なおさらそうした職場での熟議というものが確保されていることが大切だろう。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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