徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第43話 ニュースを続けます(その2)

地方税・財政

2019.10.18

徴収の智慧

第43話 ニュースを続けます(その2)

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年1月号

全体像の把握と課題の発見

 徴収職員であれば、効率的で効果的な滞納整理を望まない人はいないはずだ。ところが、日々行っている滞納整理の実務が、果たして本当に効率的で効果的なものであるかどうかについて、真剣に検証してみたことがあるだろうか。滞納整理の部署に配属されると、通常、先輩職員から様々なレクチャーを受け、その中で滞納者との応接や滞納処分に関する実技の指導を受けながら少しずつ覚えていき、6月から5月までのワンサイクルの事務をひととおり経験すると、おおよそのことは身につくまでになるだろう。そうして滞納整理に関する基本的な知識を覚え、主な実務の経験も積んだ頃になると、滞納整理という事務の全体像が見えてくるようになり、「もっと効率を上げたい」とか「こういった点を改善したい」などのような課題意識が芽生えてくることも多いだろう。

滞納整理実務の実情はどうか

 そのような時に立ち止まって考えてほしい。例えば、督促状や催告書を幾度となく送付したものの、何の反応もない滞納者について、自主納税の見込みなしと判断して差押えをしたにもかかわらず、慌てた滞納者から懇願されて分納を認めてしまっているようなことはないだろうか。あるいは、財産調査の結果、財産を発見したにもかかわらず、差押えを執行せずに、発見した財産を(警告の)「材料」に、滞納者に対して履行の請求を繰り返したりしていないだろうか。そうしたことに疑問すら抱かないようでは、既に長年の慣行にどっぷりと浸かってしまっていて、的確な判断能力が麻痺してしまっているかもしれないのだ。

 すなわち、そのような滞納者は督促状や催告書などによって、さんざん自主納税の督励を受け、そして、滞納処分の警告を受けて来たにもかかわらず、それらを無視し続けて納税を怠った結果、差押えを受けたのであるから、(そのような滞納者に対して)差押え後に分納(自主納税)を認めるなどという行為は明らかに矛盾しているし、滞納整理の基本的な理解を欠いているとしか思えない。徴税機関に調査権と処分権という自力執行権が付与されているのは、租税が公共サービスの原資として強い公益性を有しているからなのであり、徴収職員がその権限を正当に行使することによって「最少の経費で最大の効果を挙げる」(地方自治法第2条第14項)ことができるのである。税務事務の最大の特徴は大量反復性にあるから、このように簡便で迅速な処理を可能とする仕組みがとられたのである。だから、このような制度の趣旨を正しく理解してさえいれば、差押えをしたのに分納を認めるとか、財産調査の結果、財産を発見したのに速やかに差押えに着手せずに、再度、履行の請求をするといった愚行に出ることなどあり得ないはずなのである。もしも仮にそのような実務が今もなお行われているとすれば、それは、それぞれの事務の意味を「考えて」実務を行っ ていない(=考えずに機械的に行っている)か、或いは、年功が重んじられる中で、先輩から「睨まれるようなこと」などできるはずもなく、忸怩たる思いを感じながらも我慢しているかのいずれかではないかとすら思ってしまう。

事務の見直しの勧め

 前回触れた「ニュースを続けます」にしても、一定の期間こうした意味不明で不必要と思われる用法が続くと、あたかも社会の中に定着し、認知されたかのように受け止められ、いつしかそれが一般化していく場合もあるから、(その用法も含めて)ことばは世につれ変化していくものなのだと安易に片付けられてしまいやしないか危惧している。誤用も一定期間継続して使われていると、やがて認知される例もあるから厄介だ。例えば、今では「はんこ」のことを印鑑と言っても必ずしも間違いとはされていないが、正確には印章又は印顆といい、印鑑とは印影のことをいうのである。また、今では「細やか」でもよいとされているが、元々は「濃やか」と表記することとされており、「細やか」でもよいとされるようになったのは、そう古いことではない。職場で長年続いてきた事務処理であっても、必ずしも法的根拠が明確で合理的なものであるとは限らないのである。事務の見直しをお勧めする所以である。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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