徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第16話 先んずれば人を制す

地方自治

2019.07.25

徴収の智慧

第16話 先んずれば人を制す

『月刊 税』2015年10月号

差押先着手

 「滞納整理では早期着手・早期処分が大切である」とはよく言われることである。それは、時の経過とともに、確保すべき滞納者の財産が散逸してしまう可能性が高くなり、遅くなればなるほど税収の確保が困難になるからであるが、もうひとつの側面は、ある滞納者について競合する債権者があるときに、それらの債権者のうち、いずれを優先させ、いずれを劣後させるか、という問題に対する税法上のルールとして「徴税に熱意を有する者」に優先権を付与する(地方税法14の6)ことを端的に言い表していることである。その背景には、租税事務の大量性・反復性に由来する「滞納となったものを、いかに効率よく迅速に処理するか」という現実的な課題に対する税法の思想が見て取れるのである。

ビジネスモデルの不在

 翻って実務を見てみるとどうであろうか。もちろん実情は地方団体によって異なるのであろうが、現年度優先であることについては、恐らくいずれの地方団体といえども異論はないであろう。にもかかわらず、現年度分の滞納に対する整理の方法は、いまだに折衝をして分納(納税誓約)に持ち込むという方法が蔓延しているのはどうしたことか。税法を貫く「徴税に熱意を有する者」に優先権を付与するという思想が、ここでは完全に忘却の彼方なのである。こうしたことの最大の原因は、効率的な「滞納整理のビジネスモデル」といったものが確立していないからだと思われてならない。恐らく多くの地方団体では、先輩職員から代々連綿と引き継がれてきた「折衝をして分納(納税誓約)に持ち込む」という滞納整理の手法から抜け出すことができないのだと思われる。

研修で学ぶべきこと

 先に見たとおり、税法を貫く思想は、早期の税収確保なのであるから、それを実現するのが滞納整理であり、徴収職員への研修では、この「税収の早期確保」のための手法はどう在るべきか、ということにもっと力を注ぐ必要があるのではないかと思う。

 大胆な提案かもしれないが、これからの滞納整理研修では、法的な知識だとか、財産調査の方法、あるいは換価の方法などといった技術的なことは、マニュアルや手引書、あるいは市販の参考図書などによる自習に委ねることとし、研修の場では、グループ討論やロールプレイングを中心としたものにシフトさせていくことが望ましいのではないかと思う。とりわけ新採用職員や異動で初めて滞納整理に携わることとなった職員を対象とした研修に重点を置くべきではないかと考える。「鉄は熱いうちに打て」ということもあるし、何よりも、滞納整理という仕事の前歴がない職員はピュアであり、素直さにおいても、研修内容の吸収力においても、いずれも所謂ベテランと称する古参職員を凌駕している場合が多いのである。

法の趣旨を実践する実務を

 そもそも地方税の課税の仕組みからして、住民税のように初めから国税に劣後しているものがある不利な環境の中で、国税に伍して滞納整理を進めようとするのであれば、差押先着手という制度をフルに活用して、国税の処分への参加差押えや二重差押えなどという二番煎じにならないように、早期に差押えをして、地方税債権を保全しなければならない。せっかく税法が用意した「差押先着手」という制度を無駄にすることなく、必要な時には躊躇することなく差押えを執行して、早期に租税債権を確保することが税法の趣旨であるし、その実現を実質的に阻んでいる「折衝をして分納(納税誓約)に持ち込む」という滞納整理の手法から出来るだけ早く卒業してほしいと願わずにはいられない。

 かつて訪れたある県の課長が「現年度分の差押えなんて話を(職場で)持ち出したら総スカンですよ」と言われた言葉が耳を離れないのだが、その職場での滞納整理の進め方が目に浮かぶようである。恐らく、従来からのやり方を踏襲しているベテラン職員が多く、若い職員は何も言えない雰囲気なのではないかと推察される。このような職場は、決して私が訪れたその県だけではないと思う。いま一度「早期着手・早期処分」という滞納整理の王道とも言うべき手法と、税法上の「差押先着手」の規定の趣旨を.みしめてほしいものである。

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鷲巣研二

鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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