徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第57話 不当要求への対応

地方税・財政

2020.01.22

徴収の智慧

第57話 不当要求への対応

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年3月号

目に余る客の横暴

 最近お隣の韓国で、ハンバーガーを店員に投げつけたり、百貨店の従業員を土下座させたりする客が相次いで出現し、問題になっているのだそうである(2018・12・11朝日新聞デジタルより引用)。そういえば従業員を土下座させるという事件については、つい先ごろわが国でも起きたことと記憶している。コンビニの従業員を土下座させ、その模様を動画で撮影してネット上にアップした事件であったかと思う。最近は、これらに類した目に余る「客による傍若無人な振る舞い」に関するニュースに接することが多くなったように思うのは私だけであろうか。

「ナッツ姫事件」

 報道によれば、「韓国の雇用労働省は、この10月、従業員を客の暴力から守らなかった雇用主に罰金を科すことにした」(前掲報道)そうである。読者の記憶にもあると思うが、韓国では大韓航空を傘下に収める財閥の会長の娘が機内でのナッツの出し方に怒って搭乗機を空港に引き返させた、いわゆる「ナッツ姫事件」以来、度を越した過剰かつ過激なクレームに対する社会的な関心と非難が高まっているとのことである。翻ってわが国ではどうか。筆者の身近でも「さんざん履き古した靴の返品に応じろと要求し、しかも新品に取り換えろとまで言って店員に靴を投げつける客」や「何度も着用したため襟や袖が伸びてしまったセーターを、体に合わないから別の品に取り換えろと言って店頭で喚き散らす客」などの事例を聞いたことがある。客によるこうした非常識で傍若無人な振る舞いに対して店の側の対応はと言えば、ひたすら謝罪し低姿勢だというのだから、「世の中どうかしている」と思わざるを得ない。韓国ではこのような状況に対して「アルバイトは、暴言を投げつけられても笑顔で応対する奴隷ではない」(前掲報道)などの意見が相次いでいるという。むべなるかなである。

管理監督者の後ろ盾が重要

 税や公課の滞納整理をしている窓口でもトラブルは絶えないことと思うが、徴収職員の側の不手際や不適切な応対があって、それを原因としたトラブルであれば、もとよりあってはならないことであるし、そのような場合は、丁寧に謝罪するとともに、速やかに適切な処置が執られるべきであることは言うまでもない。それだけでなく、同様の不手際等を再び起こさぬよう研修なりの適切な予防策が講じられなければならない。問題は冒頭でも触れたような相手側(滞納者)の度を越した過激なクレームに対してどう対処するかである。勿論、滞納者と徴税機関の関係を、商売における客と店の関係と同列に論じることはできないが、不当な要求や理不尽な振る舞いにおいては双方に共通する面があるのは否定できない。

 例えば、督促状や催告による度重なる納付の催促に応じないため財産を差し押さえたことに対して、「差押えを解除して謝罪しろ」とか「詫び状を書け」などといった不当な要求はしばしばであろう。このように自らの義務の懈怠については棚に上げておきながら、徴収職員が悪いと一方的に決めつけ、そして差押えの解除を迫る滞納者の言動は、冒頭の傍若無人な客の振る舞いに似て全く受け容れられないし、その程度と態様によっては社会的な非難さえ免れない。彼の国のように「「切れた客」の身元を明らかにして、社会的な制裁を加えたケースも起きた」(前掲報道)ことについては様々な意見もあろうが、窓口で度を越した不当な要求や理不尽な振る舞いをする滞納者がいるにもかかわらず、それに対応している担当者を傍観するだけで、サポートするなど適切な措置を講じない管理監督者がいるとしたら、滞納整理という業務を行う職場の責任者としての適性が疑われる。そのような場合は、管理監督者たるもの「何とか穏便に」とか「要求を呑んでやれば帰るだろう」などといった腰の引けた「事なかれ主義」的な対応ではなく、信念と遵法精神に則った腹の据わった対応を期待したいものだ。管理監督者によるそうした堂々たる姿勢、そして何よりも頼れる存在であることこそが、職員のモチベーションを高めることになるし、職場全体の結束力を生み出し、そして高めることにもなるのである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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