徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第56話 できない理由探し

地方税・財政

2020.01.20

徴収の智慧

第56話 できない理由探し

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年2月号

歴史は繰り返す

 かねてより気になってしょうがないことが幾つかある。それは、薬事行政における薬害による被害、要保護児童に係る児童相談所の不作為ないしは不適切な対応による虐待被害、警察の不作為ないしは自治体の不適切な情報管理によるストーカー被害、そして、いじめによる児童・生徒の自殺に対する教師・学校・教育委員会の不適切かつ及び腰な対処や責任感の欠如等々である。これらはテレビ等で「これでもか」というくらい再三再四繰り返し報道されているにもかかわらず改善されたという実感が一向に湧かない。

なかなか改善されない背景

 いずれも根深い問題であるし、一筋縄ではいかない難しい問題であることは誰しもが分かっているとしても、いつまで経っても「改善されつつある」という実感が湧いてこないのはなぜなのか。もしかしたら関係者への配慮、人材不足、予算不足、「面倒なことにはかかわりたくない」という心理、あるいは「手間暇のかかることは先送りにする」という無責任な姿勢等諸々のことがその背景にあるのだろうか。それとも「のっぴきならない重大な出来事」でも起きなければ、これらの事象にかかわる関係者は重い腰を上げないということなのだろうか。もしもそうだとしたら悲しいことである。大きな犠牲を払わなければ歴史(物事「ものごと」)は変わらないというのが人間の性(さが)ということなのか。

事後対応から予防へ

 滞納整理でも、滞納税が溜まりにたまって「のっぴきならない事態」にならなければ(徴税吏員が)重い腰を上げないのだとしたら納税者にとって不幸なことである。勿論、重大な事態に適切に対処することは大切なことではあるが、できるならば、そのような事態にならないように事前に防止するという予防対策が講じられることが理想的だ。行政の消極性を「後追い行政」と批判的に称することがあるが、のっぴきならない事態を招きかねないことがかなりの確率で予想されるのに、それに対して事前に効果的な対策を取らなかったというのであれば、見通しの甘さからそのような事態を招来したということで、本来であれば責任問題にもなりうる重大なことであるように思うのだがいかがであろうか。

攻めの姿勢と取組みが大事

 税は経済活動と密接不可分であるから、その意味では景気の動向や地価あるいは物価などの動向も大きく影響するが、そのほかにも徴収する側の姿勢や取組みも収納率などの結果に大きく影響するというのが経験則上明らかである。そもそも税は行政における基幹財源であって、これの確保が十全でないときは、インフラ整備や各種の行政サービスへの影響が顕著である。それゆえ制度としては、建前上、確実に税収を確保することができるようになっており、国税徴収法や地方税法はそうした趣旨のもとに制定されているので、それらの法規が徴税吏員によって適切に行使されてさえいれば、税収の確保が図られるとともに、徴収不能なものについても停止による整理が進捗し、滞納の圧縮は順調に進むことになる。だから、滞納の圧縮が思うように進まないというときは、そこに必ず何らかの原因が潜んでいるとみて間違いない。その例として「徴収のノウハウが継承(蓄積)されない」「差押えに消極的」「滞納者と話ばかりしていて、分納が半ば目的化している」といったような旧態依然の整理を続けていながら、何ら課題意識を抱いていない職場の状況が目に浮かぶようだ。その理由たるや「税の専門職ではない」「差押えは伝家の宝刀」「滞納者とトラブルになりたくない」等だとしたら、これでは端(はな)から「できない理由探し」をしているに等しく、何としても滞納を圧縮するんだという確乎たる意気込みが感じられない。

 冒頭で述べたさまざまな悲しい現実に照らして「滞納整理よ、お前もか!」と言われるのは徴税吏員として不名誉であるし、情けなくもある。そうならぬよう現役の徴税吏員のみなさんには、目の前で怒鳴っているほんの一握りの理不尽な滞納者に気後れすることなく、大多数の納期内納税者の方を見て毅然とした姿勢で滞納整理に取り組んでいただきたいと願わずにはいられない。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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