徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第36話 徴収職員の矜持

地方自治

2019.09.29

徴収の智慧

第36話 徴収職員の矜持

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2017年6月号

知識・経験に勝る意欲・情熱とやる気スイッチ

 滞納整理における結果を大きく左右するものは何であるかを考えたときに、それは「徴収職員の意欲と情熱」だと私は思う。もちろん、法律の知識や滞納処分の方法などといった徴収に関するノウハウは大切であるし、必要なことであるのも確かなのだが、実際に滞納整理実務の現場を見てみると、知識や経験は豊富なのに、実績が伴っていない徴収職員は少なくない。否、むしろ知識や経験は乏しいものの、教えられたことや、やるべきことに忠実で、しっかりと役割を果たすような新採用職員だとか、他の部署から異動してきた職員の方が実績を上げている例は少なくない。こうした事実は何を物語っているのかと言えば、知識や経験が豊富な、いわゆるベテランと言われる人たちに不足しているのは、「意欲」や「情熱」といったメンタリティであり、「やり抜く」とか「成し遂げる」という実行力なのではないかということだ。勿論すべてのベテランがそうだと言うわけではないが、これまでの常識からしたら、知識や経験がないよりも、豊富な方がいいに決まっているし、その方が即戦力で大いに重宝されるということであったろう。

 しかし、実態は必ずしもそうとは限らないのである。このことは、管理監督者によるモチベーション向上に向けた取組みとして、知識を習得させる研修などよりも、メンタリティの強化や実行力の育成の方が、はるかに実績に貢献するし、実は重要なことだということを実証しているように思う。だから私は、管理監督者として現に活躍中のみなさんには、「部下のやる気スイッチを入れるようなマネジメント」を期待したいと思うのである。もっとも「意欲」や「情熱」には、各人の性格に由来する部分もあるだろうから、「褒める」「実績を表彰する」「労をねぎらう」「気弱な職員をサポートする」等々、部下の意欲を引き出すためのさまざまな働きかけにトライしてみる必要があるのではないか。上司として、常にこれらのことを意識して、部下に対してまめに声をかけ、必要に応じて共に行動するということを心がければ、自ずと部下の信頼も厚くなるであろうし、職場のモチベーション向上も期待される。

反面教師としての悲しい現実

 ところが、これとは真逆の「腰の引けた対応」や「自己保身」としか思えないような対応となってしまっている誠に情けなく残念な管理監督者もいまだにいるようなのである。すなわち、「滞納者に対する適切な滞納整理手続を怠って放置した結果、延滞金を含む市税等約1680万円の消滅時効を成立させてしまった」とか、「送付した町税の納付書の方式が前年と異なったことなどを理由に滞納者から「誠意を見せろ!」などと迫られ、そのような不当要求に応じて、同年度の納付額の半分を(課長が)個人負担すると約束。部下の税務課職員2人とともに負担することにした」(いずれも新聞記事より引用)などの報道に接すると、本来、部下職員の「お手本」や「後ろ盾」であるべき管理監督者として失格であるだけでなく、徴収職員としても、さらには全体の奉仕者たる公務員としても反面教師であると言わざるを得ない。

矜持を支える精神的なバックボーン

 では、どうしてこのような対応を取ってしまうのだろうか。思うに個人的な資質の問題も否定できないが、むしろもっと本質的なところに問題が潜んでいるように思う。すなわち、徴収職員といえども程度の差こそあれメンタル的には「弱い」人もいるからこそ「組織的な対応」が求められているのである。組織的な対応をすることで、滞納者からの理不尽で不当な要求等外部からのストレスに対する耐性が補強され、先に紹介した新聞記事のような、情けなくも残念な出来事は減らせるのではないだろうか。換言すれば、第一義的には所管課による対応が原則であるとしても、徴収職員といえども人の子であり、怖いものは怖いのであろうから、「怖がるな」とか「一人で何とかしろ」と突き放すのではなく、庁舎管理者も含めた庁内「全体で支える仕組み」を構築することが、とりもなおさず徴収職員の矜持を支える精神的なバックボーンとなるのである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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