徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第35話 納税相談

地方自治

2019.09.24

徴収の智慧

第35話 納税相談

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2017年5月号

二重の意味での過誤

 滞納者との間でトラブルになりたくないとは誰しもが思うことだろう。徴収職員のそのような想いは理解できないこともないが、ごく一部とはいえ「税金は払いたくない」という人がいる以上、避けて通ることはできないのである。

 ところで、この納税相談については、地方税の滞納整理実務の中で、かなりの分量を占めているのではないかと思われるのである。そして、この納税相談なるものについては、その中身に大きな問題が伏在しているように思われてならない。と言うのも個々の徴収職員だけでなく、組織としての地方団体の中にも(その認識として)納税相談イコール分納相談のことだと信じているところがあるようなのだ。

 例えば、窓口や電話口で、滞納者から「収入が少なく、生活するのに精いっぱいで、納税にまでとても資金が回らない」とか「子どもの進学のことや、将来の生活のことを考えると不安で、多少なりとも貯えを準備しておかないと心細く、分納でお願いできないか」などといった趣旨の話を聞かされると、裏付けも取らずに、すかさず「それでは分納でお願いします」とか「いくらなら払えますか」などと根拠のない提案をすることが納税相談だと勘違いしている徴収職員や地方団体が、いまだにあるようなのである。

 これでは、納税資金の具体的「目当て」という納付の裏付けを欠いており、「手抜き」と言わざるを得ないし、同時に、滞納者の置かれた状況が、税法のいかなる要件に該当するのか、それとも該当しないのかという要件審査すらしていない「杜撰な処理」でもあるだろう。加えて、処理の方向性を的確に判断するための重要な材料である滞納者の「収入・支出・財産」についても聴取していないという「二重の意味での過誤」を犯していると評せざるを得ない。

整理の道筋

 納税相談の結果、(事案によっては、財産調査による判断材料の追加補強が必要であるが)分納で短期間に完結が見込める場合もあるだろうし、はたまた、直ちに一括納付を求めなければならないかもしれないし、あるいは、滞納処分をもって臨まなければならないかもしれない。いずれにしても、納税相談の折に、滞納者から「収入・支出・財産」について、必要な限りにおいて聴き取ることによって、処理の方向性を見極めるための一応の判断材料を収集することができるのである。ここで「一応の」としている意味は、やはり聴き取りだけでは客観性・真実性に欠ける憾みがあるから、一定の金額以上の事案については、財産調査によって、その裏付けをとる必要があるため、取り敢えずの措置という意味において「一応」としたものである。やはり、滞納整理全体に与える影響が大きい高額事案などでは、聴き取りだけで処理の方向性を判断すべきではなく、財産調査によって確実な納付能力の判定をすべきであろう。

 もとより税法は、租税法律主義の下、処分の要件を定めた規範であり、徴収職員は、税法によって授権された限りの権限を駆使して、滞納者について税法が定める要件を充足する事実の有無を確認しながら、該当する処分を通じて滞納整理を進めていくものである。かくして納税相談は、滞納者からの直接の聴き取り調査から進展していく滞納整理のひとつの道筋ではあるものの、整理の道筋は、これに尽きるものではなく、このほか文書催告を経て処分に至るものもあれば、倒産事案のように納期を繰り上げて早期決着を図る必要のあるものなどさまざまである。

弁明すべきは誰か

 危惧すべきは、納税相談も含めて、滞納者と一度は接触してからでないと処分することができない(又は適切でない)と頑なに信じている徴収職員が居やしないかということである。納税相談も含めて、納税困難な事由について主体的に弁明すべきは、(租税)債務者である滞納者の側なのであって、督促状や催告書などにはそれを促すという一面もあるのである。にもかかわらず、そうした徴税側の努力や配慮に対して、これを無視ないしは反発する滞納者への(徴収職員からの)アプローチは、徒労に終わるであろうし、効率的・効果的な滞納整理の観点からも、すべきではないのである。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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