徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第38話 約束を守らない(又は守れない)滞納者

NEW地方自治

2019.10.01

徴収の智慧

第38話 約束を守らない(又は守れない)滞納者

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2017年8月号

忠言耳に逆らう

 約束を守るというのは、人と人との信頼関係を築き、そして維持していくための基本中の基本ともいうべき「人として最も大切にすべきことのひとつ」であろう。これこそが人と人とを結びつける紐帯であり、ゆえにこれなくしては、「相談」も「話し合い」も成り立たず、したがって、約束を守らない(又は守れない)滞納者とは接触する必要もないし、そのような滞納者の弁明を聞く必要もないのである。これほどまでにシンプルで明快な事実が目の前に展開しているのに、約束を守らない(又は守れない)滞納者と、それこそ懲りずに何度も納税誓約をして、そうした仕切り直しを繰り返し、分納を認めるような滞納整理をしているのだとしたら、何というお人よし!何という体たらく!なのだろうと嘆息せざるを得ない。

 滞納整理の第一線から届けられる悲痛な声として、「件数が多くて処理しきれない」だとか、「担当者の数が足りず、処理が追いつかない」などの声を聞くが、そうした困難な状況があるにもかかわらず、前述のような実務を繰り返しているのだとしたら、そのような実務を何の疑いもなく続けている徴収職員に対して「早く目を覚ましなさい!」と忠言したい気持ちを抑えることができない。故事に「忠言耳に逆らう」とはよくぞ言ったものである。

納税誠意

 世間一般のごく当たり前の感覚からしたら、約束を守らない(又は守れない)人と再度約束を交わすなどということ自体まったく理解不能である。なぜ約束を守らない(又は守れない)人と再び約束などするのであろうか。同列に論じるのは適切でないかもしれないが、いわゆる「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」などと言われている高齢者を狙った卑劣な詐欺事件が、昨今後を絶たないどころか、ますます被害は拡大する一方なのと、人間心理の面において何か共通する面でもあるのだろうか。

 ある脳科学者によると、人間の脳は、あることを「信じること」によって、一種の快感を覚えるのだそうである。つまり、「疑う」ということが脳へのストレスになるので、傍から見たらどんなに荒唐無稽でトンデモないことであっても、それを信じ込むことによって、「考える」とか「判断する」というストレスから(脳が)解放されるので、どんなにばかばかしいことでも、それこそコロッと騙されてしまうというのである。

 以上は筆者の勝手な憶測であるが、滞納整理という実務の中では、相手の言葉だけで判断して、それに基づいて処理を進めてはならないということを言いたいのである。滞納整理は、滞納者が心の中でどう思っているかとか、どのような言い方をしているかなどといった、滞納者の内心や主観、表現方法などとは無縁なのであって、調査権を行使することによって、調査で把握した客観的な資料によって判断し、処理の方向性を決定すべきなのである。だから、いくら腰が低くて丁寧なものの言い方をされても、そのことを以てその滞納者には「納税誠意がある」とは限らないし、それだけで判断してはならないのである。むしろ、口の利き方は多少乱暴であったとしても、約束を確実に守る滞納者の方が、よほど「納税誠意がある」と評価できるであろう。われわれは、とかく言葉遣いの「丁寧さ」とか「乱暴さ」という表面的なことによって誠意の有無を判断しがちであるが、真の納税誠意というのは、前向きな言葉や丁寧なものの言い方なのではなく、「約束を守る」ことであり、実行の伴わない百の言葉よりも、「納税する」という具体的な行動があって初めて認められるのである。

見極める目

 処理すべき滞納の件数の多さと、それを処理する担当者の少なさに日々悩み、効率的な滞納整理を模索してさまざまに試行錯誤しているはずであるのに、約束を守らない(又は守れない)滞納者と、再三、分納の約束をしているのだとしたら、何たる皮肉であろうか。早くその矛盾と悪循環に気付き、真に約束を守る人なのかどうかを見極める目を磨いてほしいと思うし、滞納者の言葉だけで処理の方向性を決めるのではなく、調査権を行使して、それによって把握した客観的な資料により処理の方向性を適切に判断できる「見極める目」を持った徴収職員になってほしいと願うばかりである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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