徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第44話 研修の目的

地方税・財政

2019.10.29

徴収の智慧

第44話 研修の目的

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年2月号

研修の目的とモチベーションの原動力

 地方公務員の研修の目的は「勤務能率の発揮とその増進のため」であるとされている(地方公務員法第39条第1項)。徴税吏員ももちろん地方公務員であるから、例外ではない。そして同条は「地方公共団体は、研修の目標、研修に関する計画の指針となるべき事項その他研修に関する基本的な方針を定めるものとする」(第3項)とも続けているから、滞納整理に関する人材育成に寄せるその地方団体の「取組姿勢」だとか「一生懸命さ」については、研修の方針等を見れば自ずと明らかであるということだ。よくいわれることだが、目的を欠いた研修は、羅針盤のない船と同じで、先が見通せず、一体何を目指しているのかがまったくわからない。納得性の高い明確な目的があるからこそ、その(目的の)旗の下で一生懸命に頑張れるのではないだろうか。

 明確な目的が人を奮い立たせる例はいくらでもある。例えば、トップクラスの運動選手であれば、ワールドカップで優勝することやオリンピックで金メダルを取ることが最大の目的であろうし、映画の制作に携わる人であれば、アカデミー賞は憧れであろう。そこまで雲の上の話でなくとも、卑近な例でいえば、進学や就職なども当面の目的ではあるはずだ。つまりは、「~のため」という心の奥底から一生懸命になれる到達点こそが目的であり、そこへ到達する過程に充実感を感じ、しかも一生懸命になれるからこそ、明確な目的というものがモチベーションを向上させる原動力たり得るのではないか。

研修一般の目的と滞納整理の目的

 右に見たとおり、公務員に対する研修の直接の目的は、「勤務能率の発揮とその増進のため」として法律上明記されているが、これと税の滞納整理の目的とはパラレルに考えるべきであろう。税の滞納整理の目的は、「税収の確保、滞納の圧縮、収納率の向上」であり、最終的には滞納のない社会と負担の公平を実現しようとするものである。そして、これを達成するための内容と方法を教授し、訓練することによって徴収事務の効率を上げるというのが滞納整理における研修の目的ということになるだろう。言葉を換えて言えば、より少ない人数と、より短い時間で、より一層大きな(徴収の)成果を上げることが求められているということである。このことは、地方自治法の趣旨とも一致する(同法第2条第14項)。

内容と方法の良し悪しが決め手

 目的という「到達すべきところ」が明確になったら、次はそれをどのように実現していくのかという道筋が重要になってくる。もとより研修の内容と方法は、研修の目的を最も効率よく達成することができるようなものである必要がある。そこで、これまで多くの地方団体で行われてきた滞納整理の研修を見てみると、税法の条文を解説するもの、財産調査の方法や滞納処分・捜索の方法などを教授するものなど「逐条解説」や「やり方」に関するものがほとんどであったのではないだろうか。こうした従来型の研修の必要性を否定するものではないが、従来型の研修で決定的に欠けていたのは、「目的を強く意識づけてモチベーションの向上につなげる研修」ではなかったかと思う。すなわち、前述のとおり、自分が心の奥底から一生懸命になれることの到達点としての目的こそがモチベーションの原動力になるのだとすると、ここのところに軸足を置いたカリキュラムを組む必要があると思うのである。具体的には、財産調査や滞納処分、あるいは納税緩和措置などについての「どうして」という理由を丁寧に説明し、一つひとつの事務の意味内容を十分に理解させたうえで、その事務の「やり方」を教えるというものである。これは丁度、学校の授業の内容が理解できるようになると、勉強が楽しくなるのと同じ理屈である。事務の意味内容を十分に理解しないままに「やり方」を教えるから「とんちんかん」なことを平然とやってしまうのである。つまり、「取扱説明書」のような「やり方」一辺倒の教授だけでは意欲も湧かないし、そもそもやっていることの意味が分かっていないから、権力的な行政事務の多い滞納整理では、危険ですらあると思うのである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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