徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第52話 差押えを避ける方法

地方税・財政

2019.12.25

徴収の智慧

第52話 差押えを避ける方法

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年10月号

ネット上の怪しげな情報

 今やインターネット上には情報が溢れているが、中には「怪しげな情報」もあるから注意して見る必要がある。その中の一つに「徴税機関からの差押えを避ける方法」を伝授(それとも「そそのかし」か?)しているものがある。曰く「徴税機関からの差押えを避けるには、とにかく(徴税機関に)長期少額分納を認めさせることである」とある。その理由はこうである。「役所から送られてくる督促状や催告書を無視せずに納税相談に行くべきである(ここまでは正しい!)。そして、ひたすら生活苦を訴え、(できるだけ少ない金額での)分納で支払っていきたいと粘り強く訴えろ。たとえ少額であっても納付が続いていればさすがに役所も差押えはできない」というのである。そして、こうも言っている「たとえうっかりして分納するのを忘れてしまったとしても、決してそのままにせずにすぐに(徴税機関に)電話をするか、又は窓口へ行ってひたすら頭を下げて分納を続けさせてほしいと懇願せよ」と。

真偽を見極める目

 一体誰がこのような情報(そそのかし?)をネット上にアップしているのか知る由もないが、想像するに、恐らくかつて自分がこのようにして差押えを逃れた経験を、親切にも(!?)アドバイスしているつもりなのだろうか。表現の自由があるとはいえ「けしからん」ことではある。ことほど左様にネット上の情報には「怪しげ」なものや、「不確か」なものが溢れているから、こういった諸々の情報を「見極める目」を持って見ることが大切である。安易に信用しないことである。しかし、こういった情報は「けしからん」ものではあるものの、徴税する側にとっても一部の滞納者等の「考え方(屁理屈も含む)」や「意図」を知る意味では多少なりとも役に立つ側面もないとは言えない。経験則上、大方の滞納者の「言い分」や「抗議」は幾つかのパターンに分類され、これらの繰り返しか、ないしはミックスされたものであることが分かっているから、ネット上のこうした(けしからん)情報も併せて事前に研究しておけば、効果的で適切な対処の方法も見い出せようというものである。

徴税側の問題

 ところで、一部の滞納者等によるこうした納税に対する不適切な姿勢のほかに、徴税する側にも若干の問題があるように思う。即ち、生活が苦しいなどとひたすら訴えて、分納を求めるこうした滞納者からの申出に対して、条件反射的に「それでは分納を続けてみてください」と、根拠のない提案をしたり、収支など具体的な聴き取りもろくにせずに分納にすることを勧めるのが日常的に行われている地方団体がいまだにあるようなのである。これでは「滞納者任せ」となってしまっており、滞納者が安易感を抱くのも無理のないことであるし、そうして認めた分納など所詮守られないものが多いのもむべなるかなと思われる。少額滞納の場合で、深度のある調査にまで手が回らない事案について、仮に分納を認めるというのであれば、それこそ滞納原因・収入・支出・保有する全財産・納税意思について具体的に聴き取りを行うとともに、いつの、そしていかなる収入を以て分納に充てるのかを明らかにさせる必要がある。こうしたこともせずに、ただひたすら滞納者の一方的な申出を鵜呑みにして(全面的に信用して)、そのとおりの分納を認めたりすれば、それこそ履行されない分納を数多く抱えることとなり、分納履行監視という債権管理事務が肥大化して、徴税吏員が本来やらなければならない「調査」や「処分」に充てる時間が圧迫され、滞納が累積してしまう負の連鎖に陥ることは火を見るより明らかである。

 ネット上の「差押えを避ける方法」を始めとした「けしからん情報」の拡散を憂える一方で、徴税吏員は、一部の滞納者等によるこうした「そそのかし」に関する情報の収集と研究、そしてその対策を立てることも、これからの滞納整理では必要なのではないかと思う。インターネットは、情報共有や情報収集のためには大変便利なツールではあるが、滞納整理に携わる徴税吏員にとって、その情報の真偽の見極めや、与える影響とそれへの対策を怠ることがあってはならないだろう。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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