徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第51話 効率的な滞納整理(2)

NEW地方税・財政

2019.12.24

徴収の智慧

第51話 効率的な滞納整理(2)

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年9月号

租税法律関係と自力執行権

 いまだに「差し押さえる前に一度は滞納者と接触して話を聞くべきである」とか、「滞納が発生したら速やかに滞納者に接触する努力をすべきだ」などと頑なに信じ込んでいる徴収職員がいるというから驚きである。そのように信じ込んでいる人からすれば、これから述べることは、もしかしたら「暴論」と映るかもしれない。しかし、租税というものの性質を正確に理解している人から見れば、これから述べることをそのように受け止める人の考え方こそ「暴論」にほかならないと映るに違いない。

 租税債権債務の関係は、もとより契約によって成立するのではなく、法律の定める要件を満たす事実が認められる場合に成立するものである。そして、租税が多岐にわたる行政サービスのための必要な経費として、国会で成立した法律によって課税庁が一方的に賦課徴収するものとされ、しかも大量反復的に成立するものであるところから、その実効性を担保するために課税庁に自力執行権が付与されている。このことは租税法律関係における最も根源的な原理であって、もちろん滞納整理にも通ずるものである。翻って実務的な観点から言っても、おびただしい滞納事案の全てにつき(徴収職員から)接触を試み、それからでないと差押えができないなどということは、不可能を強いることであって、凡そ現実離れしていると言わざるを得ない。このように原理的に言っても、そして実務の観点からしても、「差し押さえる前に一度は滞納者と接触して話を聞くべきである」などというのは、現実離れした空論に過ぎないことがわかる。

弁明責任は滞納者にある

 そもそも大量反復的に発生する滞納に対して税法はどのように対処することを徴収職員に求めていると理解すべきなのであろうか。原理的に考えれば、履行期限までに履行することができない「やむを得ない事由」がある場合は、滞納者の側から徴収職員に対して弁明すべきものである。なぜなら、徴収職員からすれば、個々の滞納者に生じている事情、即ち「履行期限までに履行することができないやむを得ない事由」など知る由もないのであるから、もしもそうした事由が存在するのであれば、 滞納者の側に弁明責任(=説明責任)があると考えるのが論理必然だからである。ゆえに徴収職員の方から接触を試みるべきだなどといった考え方は、明らかにこうした実情に目をつむるものであるし、不可能を強いるものと言わざるを得ないのである。

 実際の実務でも納税通知書、督促状、催告書などでも納期限までに納税することができないやむを得ない事由がある場合は、納税相談をするよう促しているはずである。そうした再三にわたる弁明を促す課税庁からの働きかけに対して、無視も含めた無反応な滞納者にこそ弁明責任(=納期限までに納税することができないやむを得ない事由があることを自ら申し出て説明する責任)を果たしていないという帰責事由があると言うべきではないか。それなのに、あたかも督促状や催告だけで差し押さえるのは乱暴であるかのように考える徴収職員がいるのだとしたら、租税法律関係における租税債務者と租税債権者との関係について改めて学習し直していただくことをお勧めしたい。

租税法は「要件規範」

 誤解してほしくないので再度説明しておく。滞納整理は大量反復性があるから大雑把でいいのだなどと言っているのではない。租税法は、要件について規定した「要件規範」であるから、その要件を満たす事実が認められる場合は、課税庁は、たとえ納税義務者の同意がなくても課税しなければならないし、徴収しなければならないのである。そのために自力執行権が付与されているのであり、税務職員の守秘義務はそれと表裏一体のものなのである。だから徴収職員は、税法によって授権されている自力執行権、即ち「調査権」と「処分権」とを行使して滞納整理をすべきなのであって、これに専念できる執行体制を構築し、これを中心に据えた事務処理計画を立てて実行すべきなのである。これが即ち、「効率的な滞納整理」にほかならない。言い換えるならば、弁明責任を果たさない滞納者に対しては躊躇することなく自力執行権を行使しなければならない。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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