徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第53話 マニア

地方税・財政

2020.01.07

徴収の智慧

第53話 マニア

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年11月号

マニアの意味

 マニアとは「ある物事に熱中している人」のことをいい、「鉄道マニア」とか「切手収集マニア」などと言ったりする。もともとは「熱狂する」とか「狂気」という意味のギリシャ語が語源なのだそうである。「凝り性」のことをマニアックと言ったりもする。

 このように自分が夢中になれる何か一つのことにかかりっきりになるような状況のことを意味しているので、そもそもは「良い」もののことを意味することが多いのだろうと思うのだが、どうも最近ではそうとも言えないような使われ方も散見される。例えば、「訴訟マニア」とか「苦情マニア(クレームマニア)」などといった使われ方もちらほらと耳にする。

滞納整理におけるマニアとは

 徴税を担当する役所の窓口ではこの種のマニアがほぼ毎日のように訪れては一騒動起こしているのではないだろうか。曰く「何の予告もなくだまし討ちのように差押えなんかしやがって!」とか「俺に断りもなく一方的に給与を差し押さえやがって、おかげで会社を首になりそうだ。責任をとれ!」など激烈な表現のものが多い。

 このような激烈な表現でクレームをつけてくるのは常習者が少なくない。そうした人たちに共通しているのは、①税を滞納しているという自らの義務違反については、完全に棚上げにしていること、②その主張のほとんどは、例えば、正当な理由もなく差押えの解除を要求するものなど「不当な」内容のものであること、③感情的かつ激烈な表現で担当者を畏怖させたり、威圧することによって「無理な」要求を通そうとするものであること、④役所の担当者を観察しながら、その対応に合わせて「罵倒したかと思えば、持ち上げてみたり」して上げたり下げたりコントロールしながら怒鳴っている、⑤役所の担当者の困惑する表情を見て「優越感」や「支配感」を満足させている、といった歪んだ性格、ねじ曲がった感情を持っているように見受けられる。つまり、己の孤独感や疎外感から自己承認欲求が異常に肥大化して、自らの感情をコントロールすることができずに、暴走してしまうのである。昨今では、会社や公務員を定年退職して「暇を持て余している人」がこのようなマニアに豹変して、役所の窓口にやって来ることも少なくない。残念なことである。

マニアへの効果的な対処法

 マニアは神出鬼没であるから、どこにでも現れるのであるが、とりわけ滞納処分を執行する税金や国保の徴収の第一線にしばしば登場している。ところが、その相手をしなければならない徴収職員の方の「心構え」はどうかと言えば、親切で丁寧な行政の窓口ということを研修でさんざん教え込まれているから、こうした人たちへの適切な対処法が分からず、全ての来庁者に対して同じように接しているのが実情なのではないか。これこそが、こうしたマニアをのさばらせ、増長させる原因の一つになっているとも知らずに……。

 こういった人たちへの適切で効果的な対処法は、まず相手をよく見極めることである。納税の相談に来たのか、それとも担当者を困惑させようとして来ているのかを見極めて、前者であれば、真摯にその話に耳を傾けなければならないし、後者であれば、お引き取り願う必要がある。今の公務員の接遇研修では、クレームへの適切で効果的な対処法を教授するものはまだまだ少ないので、今からでも遅くはないから、クレーム対応研修に力を入れるべきだろう。次に後者の場合は特に「言葉遣いは丁寧に、姿勢は毅然として」対応する必要がある。専ら担当者を困惑させて、自己に有利な処理をさせようと目論んでいるマニアは、正論では担当者に太刀打ちできないことを重々承知しているから、それ以外のことで担当者の揚げ足を取ろうと手ぐすねを引いて待ち構えているので、相手に合わせて乱暴な言葉遣いをしたりすれば、すかさず「お前のその言い方は何だ。人を馬鹿にしてる!」などと相手にクレームの材料を提供するようなものである。

 マニアにはマニアのお作法があるから、まんまとその手に乗らないように、普段からOJTなどでロールプレイング(役割演技)を重ねて、そのようなマニアへの効果的な対策に万全を期しておく必要があると思う。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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